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「『なんでこの子なんだろう』と羨んだり、妬んだりした」松本若菜、“38歳遅咲きブレイク”するまで 15年の焦燥と葛藤

2022-09-15 08:40 eltha

 女優・松本若菜がデビュー15年目にしてメキメキと頭角を現している。きっかけは4月期ドラマ『やんごとなき一族』(4-6月・フジテレビ系)でのコミカルな怪演ぶりだ。さらに初主演ドラマ『復讐の未亡人』(7-8月・テレビ東京系)では一転、表情と動きを削ぎ落とした芝居で静かな狂気を表現して見せた。立て続けにクセの強い役で印象を残しながら「私には個性がない」と自己評価する彼女。誰もが認める恵まれた容姿ながらオーディションに落ち続けた30代前半までの葛藤、そこを乗り越えてアラフォーで遅咲きブレイクを掴むまでに彼女が辿り着いた「自分の居場所」とは。

■話題を呼んだ『やんごとなき一族』の"松本劇場"「思い切り暴れられる美保子さんが新鮮で面白かった」

 "美人女優"という言葉も死語かもしれないが、松本若菜はたしかにそこにカテゴライズされる1人だ。端正な顔を歪ませ、次々と顔芸を繰り出して見せたドラマ『やんごとなき一族』の美保子役は視聴者を大いに楽しませてくれた。

「普段からよく友だちから『顔がうるさい』って言われるんです(笑)。自分では意識していないんですが、表情やリアクションが大きいみたいで。美保子さんの表情はわかりやすく誇張していたところもありましたが、知人からは『若菜、ああいう目の見開き方するよ』って言われました(笑)」

 "松本劇場"として今年上半期のドラマの話題をさらった同作だが、恵まれた容姿ゆえかここまで振り切った役が回ってきたのは初めてのことだ。

「これまでわりと影のある役が多かったので、悪目立ちせず作品に溶け込むような"静の芝居"を意識してきたんです。だから思い切り暴れられる美保子さんが新鮮で面白くて。しかも私がどんなに毒を撒き散らしても、共演者の方々がきちんと解毒してくれる。美保子のキャラクターがいい意味で悪目立ちしながら作品が成立したのも、共演したみなさんの芯のある芝居のおかげです」

■オーディションに落ちまくっていた20代「プライドが邪魔して『自分には女優として強みになる個性がない』ことを認められなかった」

 デビューは平成ライダーきっての名作と言われる『仮面ライダー電王』。初めてのオーディションで物語の鍵を握る重要な役に抜擢される好調なスタートだった。

「今も『電王』ファンの方から声をかけられることがよくありますし、私にとってはとても大切な作品です。だけど今見ると芝居もぜんぜんできていないし、チャンスをいただけたことが不思議なくらい。当時はそれがどれだけありがたいことかわかっていませんでした」

 『電王』を1年間駆け抜けた後には主演映画も掴み、「オーディションは受かるものだと勘違いしていました」と苦笑いする。

「ところがその後から受けても受けても落ちてばかり。合格した女優さんの芝居を見ては『なんでこの子なんだろう』と羨んだり、ときには妬んだりもしました。無駄なプライドが邪魔をして認められなかったんです。芝居が下手なのもそうですが、『自分には女優として強みになる個性がない』ということを感じ始めていました」

 整った容姿はときに「美人」という記号に押し込められ、人間としての奥行きや個性が注目されないこともある。デビュー前からアルバイト先のうなぎ屋で美人すぎる店員として話題になっていた彼女も、そうした「美人の壁」に阻まれた1人かもしれない。

「憑物が落ちたのは30代前半くらいでした。個性がないことを受け止めて、それを補える芝居の力をつけよう。すぐに結果が出なくても、1年に一歩でもいいから足跡を残していこうと決めました。デビュー時とは違うギアが入りましたね」

 メイン役ではないものの作品を重ね、デビュー10年目には映画『愚行録』でヨコハマ映画祭の助演女優賞に輝く。華やかな容姿と温和な人柄の裏にたたえた底知れぬ腹黒さが、見る者をゾクリとさせる好演だった。

「あるときから『個性のない自分には主演は務まらない』と認めることができました。だけど助演というポジションから主演の方を際立たせたり、感情を揺さぶったりできれば作品にも貢献できる。それまでは自分の芝居のことばかり無我夢中になっていましたが、『助演という居場所を極めよう』と心に決めてからは作品全体を考える視野が持てるようになりましたね」

■女優として一歩抜けらなかった時期 背中を押してくれた大泉洋からの言葉

 助演という立ち位置に向き合ってきた彼女に、『復讐の未亡人』でドラマ初主演が舞い込む。ドラマ『ミステリと言う勿れ』で演じたクールビューティな女性刑事役を目にしたプロデューサーからの抜擢だった。

「見ていてくれる方がいたことのうれしさの反面、プレッシャーがなかったわけではありません。思い出したのは映画『駆込み女と駆出し男』(15年)で共演した大泉洋さんからのアドバイスでした」

 かつて女優として一歩抜けられなかった理由に、「人見知り」もあったと振り返る。

「初対面の方にまったく話しかけられなくてモジモジしていた私を大泉さんが輪に入れてくれたんです。気さくな大泉さんのリードで長丁場の現場の雰囲気はとても良くて、やがて私もみなさんと楽しく過ごせるように。大泉さんは『なーんだ、こんなにしゃべるんだ』と驚きつつ、『芝居は相手とのセッション。最初からコミュニケーションを取れば芝居がもっと面白くなる。最初はキツいかもしれないけど無理やりにでも心を開いて、そこを乗り越えればすごく楽になるから』と背中を押してくれました。その言葉が今でも響いています」

 『復讐の未亡人』は一対一の濃密なシーンが多く、カメラが回っていないところでの共演者との関係性も重要だった。

「松尾諭さんとは『はじめまして』の10分後にセクシーな絡みのシーンがあったんです。おおらかな松尾さんでも女優が構えていたら絶対にやりにくい芝居でしたし、私のほうからあっけらかんと話しかけました。そして絡みが終わった後は2人でハイタッチ(笑)。そんな空気感を作れるようになったのも、大泉さんのおかげですね」

 決して順風満帆ではなかった15年だが、「いい出会いがたくさんあった」と微笑む。何より遅咲きの花が大きく開いているのは、彼女が真摯に芝居に取り組み続けてきたからに違いない。

「ただそれが継続が実を結んだ結果なのか、たまたま役の巡り合わせがよかったのか、正直わからないのが本音です。この15年の間には芝居を辞めていった俳優仲間もたくさんいますが、彼らの選択が間違いだったなんて誰にも決められない。たまに『松本さんの経験を踏まえて、諦めなければ夢は叶うというメッセージをください』とお願いされることがあるんですが、そう簡単には言えないんです」

 リアルな実感のこもった誠実な答えだ。とは言え、当たり役を得て硬軟どちらもこなせる演技力を証明したのは事実。今後はどんな“松本劇場”を見せてくれるのか。さらに多くの作品で楽しませてくれることを期待したい。
(取材・文/児玉澄子)



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