注射1本で痩せられる？　ダイエットに糖尿病治療薬…“不適切処方”の問題点とは【専門医監修】

　「GLP-1受容体作動薬」という薬を知っていますか？　これは糖尿病の治療薬ですが、食欲を抑える働きがあることから、体重の減少も期待できるもの。一方で、その働きから「GLP-1ダイエット」と称し、保険適応対象とならない人にオンラインなどの“自由診療”で処方され、手軽なダイエット方法として人気を博しています。そんな実情に、三鷹駅前たなか糖尿病・内科クリニック院長の田中祐希氏は警鐘を鳴らします。ここでは同氏監修のもと、「“不適切”なGLP-1ダイエット」の問題点を解説していきます。

Q：そもそも「GLP-1」とは？
A：GLP-1とは、グルカゴン様ペプチド1の略称で、食事を摂ると腸から分泌されるホルモンのこと。GLP-1には、血糖値を下げる、食欲を抑える、胃の動きを遅らせるなどの効果があり、GLP-1は血糖コントロールに役立つ重要なホルモンです。

Q：その「GLP-1」を利用した「GLP-1受容体作動薬」とは？
A：GLP-1の受容体に作用することでGLP-1と同様の作用を発揮する治療薬であり、内服薬と注射薬があります。糖尿病の治療薬として開発され、血糖降下作用に加え、優れた減量効果を示しています。

Q：GLP-1受容体作動薬の適応対象とは？
A：従来は2型糖尿病患者のみが適応対象となっていましたが、2024年GLP-1受容体作動薬の一部が2型糖尿病患者以外にも保険適応となりました。具体的にはBMI 35kg/?以上、またはBMI 27kg/?以上で、2つ以上の健康障害がある人が対象者となります（健康障害とは血糖異常、脂質代謝、尿酸代謝異常、高血圧などを含む）。

Q：世間では、手軽さも相まってこのダイエット方法が人気ですが、問題点はありますか？
A：「注射1本で食欲を抑え、手軽にダイエットできる」とだけ聞けば、すごくいいもののように思えますが、実際は問題点があります。

不適切使用による薬品不足
最大の問題点は不適切な使用により、本来必要とされる上記の使用対象者に必要な薬が届かなくなることです。GLP-1によって良好な血糖と体重が維持されている人も多く、供給が間に合わず使用することができなくなると、血糖コントロールの悪化をきたす可能性があります。これは社会的にも倫理的にも問題であり、日本医師会、日本糖尿病学会が注意喚起する事態になっています。また、医師は処方に際しその薬剤が患者に適しているか、診察や血液検査、尿検査、身体的特徴、生活環境から慎重に判断するもの。十分な確認が行われず、適応外の不適切な処方が多くなると、処方内容が身体にあわない例も増えていくことになります。

Q：「GLP-1ダイエット」の副作用はありますか？
「GLP-1受容体作動薬」には薬剤の特性として満腹感、あるいは胃がもたれる感覚があります。しかしそれを強く感じる場合は、吐き気となってしまうことも。また、便秘あるいは逆に下痢を起こすこともあります。これらは開始して1週間ほどで軽快することが多いのですが、持続する場合もあり、使用している容量が適切か、あるいは本人に合っているのか、医師の判断が必要となります。また副作用の中で留意が必要なものに急性膵炎があります。急性膵炎とは膵臓に炎症が起こる疾患で、じっとしていられない強い上腹部痛、背部痛、嘔吐、時に発熱を伴います。発生頻度は0.5%未満程度とまれではあるが、本来処方対象とならない人への不適切処方が数多く行われるとその発生が危惧されます。