2025-05-20
日本の近代化を象徴する土木遺産といえば、橋やダムなどを思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、鉄道などの下に道路や河川を通すために設けられたアーチ状の橋梁「拱渠(こうきょ)」もまた立派な土木遺産の一つ。とりわけ、岡山県備前市には「三石の煉瓦拱渠群」と呼ばれる煉瓦造りの拱渠が点在しており、現在、土木学会選奨土木遺産に登録されています。今回は「三石の煉瓦拱渠群」をご紹介しましょう。
土木学会選奨土木遺産は、社団法人土木学会が認定・顕彰している土木遺産のこと。日本国内に点在する土木構造物のなかでも、保存する価値を有するものが対象となっています。今回、ご紹介する「三石の煉瓦拱渠群(みついしのれんがこうきょぐん)」は、そのような土木学会選奨土木遺産に認定されている構造物の一つであり、明治時代に敷設された山陽本線の下に道路や河川を通すために築かれた拱渠群です。
写真は三石の煉瓦拱渠群の代表格である「三石金剛川橋梁」。金剛川と地区の生活道路を通すため、JR山陽本線の下に築かれた三石金剛川橋梁は4連アーチから成り、その規模は径6.1メートル、高さ6.4メートル、長さ22.2メートル。三石の煉瓦拱渠群のなかでも最大の規模を誇ります。
壁面には、土木学会選奨土木遺産であることを示すプレートも貼り付けられています。
隅石には花崗岩を円柱状に加工したものがしつらえられ、アーチの基部となっています。
アーチの内部は煉瓦を積み重ねることで構成されています。ここ、三石地区は全国有数の耐火煉瓦の生産地。その地域的な特性も活かして拱渠が造られているのです。
画面左側にも見られるように、煉瓦の継ぎ目がやはりアーチ状に構成されています。よく見ると、継ぎ目を境にして、その前後で煉瓦の色が異なっているのが、おわかりいただけるでしょう。これは異なる煉瓦が使われている証。一般的な赤煉瓦が使われている山陽本線下り線側が敷設されたのは、1890年(明治23)。その後、路線の複線化により、1911年(明治44)には焼過煉瓦と呼ばれる濃い色の煉瓦が使われている現在の上り線側が敷設されました。異なる種類の煉瓦が使われているのは、下り線・上り線の敷設時期の違いによるものなのです。
細部をじっくり観察すると、錆びついた止め金具も残されています。止め金具には何がかけられていたのかは不明ですが、こういった細部までご覧になると、いろいろな発見がありますよ。
<三石金剛川橋梁の基本情報>
住所:岡山県備前市三石986-1
アクセス:JR三石駅より徒歩約5分
JR三石駅を挟んだ大阪方面側には「小屋谷川橋梁」があります。ご覧のように、幅の狭い水路と歩道が並行して通る拱渠で、その規模は径2.4メートル、高さ3.4メートル、全長55.2メートルあります。
小屋谷川橋梁では、石材が下部を構成し、煉瓦は上部で使われています。
小屋谷川橋梁ならではの特徴としては、双方の出入口に高低差があるため、内部の天井部分が階段状に構築されていることが挙げられます。さらに、通路がカーブしており、先を見通せない構造になっています。
<小屋谷川橋梁の基本情報>
住所:岡山県備前市三石
アクセス:JR三石駅より徒歩約3分
山陽本線が県道96号線と交差する車道の脇にあるのは「三石避溢橋(みついしひついきょう)」。径6.1メートル、高さ4.1メートル、長さ28.6メートルの規模で、避溢橋の名のとおり、歩道と水の流れていない水路とが通されています。
築堤の傾斜している箇所に築かれている関係上、上部が傾斜している上、段差のある歩道と水路を覆うため、斜めのアーチとして設計されています。
写真は三石避溢橋の内部を撮影した一枚ですが、こちらでも上り線側と下り線側とで異なる種類の煉瓦が使われていることが、明瞭に確認できます。
<三石避溢橋の基本情報>
住所:岡山県備前市三石
アクセス:JR三石駅より徒歩約8分
光明寺の門前にある「三石架道橋」は、山陽本線の下を通す道路のために築かれた拱渠。径6.1メートル、高さ4.7メートル、長さ16.3メートルの規模です。
三石架道橋の特徴としては、アーチの部分が半円形にならない欠円アーチになっていることが挙げられます。下部には御影石が多く使われており、御影石と煉瓦との組み合わせが独特の景観を見せています。
ちなみに、三石架道橋のすぐ近くには「寺前川橋梁」もあります。
<三石架道橋の基本情報>
住所:岡山県備前市三石
アクセス:JR三石駅より徒歩約8分
しかし、留意していただきたいのは、三石の煉瓦拱渠群は何も土木遺産に認定されているものだけではないということ。
たとえば、こちらは三石地区の西方に位置する野谷地区にある拱渠。やはり煉瓦で構成されています。
こちらで注目したいのは、アーチを支える基礎部分の煉瓦積みが丸く面取りされている点。
こういった細部まで見ていくと、土木遺産に認定されている拱渠以外にも見所がいろいろあることがわかります。
<野谷地区の拱渠の基本情報>
住所:岡山県備前市野谷
アクセス:JR三石駅より徒歩約30分
こちらは野谷地区からさらに西にある吉永町金谷地区の拱渠。これまでご紹介したものと異なり、その形状は方形になっています。さらに、よく見ると、手前の上り線側は煉瓦積みですが、奥の下り線側は石積みとなっています。
一口に拱渠といっても、いろいろなタイプがあることが、おわかりいただけるでしょう。
<吉永町金谷の拱渠の基本情報>
住所:岡山県備前市吉永町金谷
アクセス:JR三石駅より徒歩約40分
近代の土木遺産「三石の煉瓦拱渠群」の魅力、おわかりいただけたでしょうか。もちろん、沿線を歩くと、拱渠はほかにも見られます。ご自身の足で付近を散策し、日本の近代化と深いかかりを持つ「三石の煉瓦拱渠群」をお楽しみください。
2025年5月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
■関連MEMO
三石の煉瓦拱渠群―土木学会選奨土木遺産(外部リンク)
https://committees.jsce.or.jp/heritage/node/101
【トラベルjp・ナビゲーター】
乾口 達司
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