年々早まる“ラン活”…入学準備ではなく、子の自己肯定感を育む場に? 正しい選び方とは
2022-05-03 eltha
「赤は女の子の色だから」諦めた男児 ランドセルもジェンダーレス化で“男女別”の表記は無し

色選びの自由を広げるために、新たに“RECO”シリーズの販売を開始
画像提供:土屋鞄製造所

ジェンダーレスシリーズランドセル「RECOプレミアム」
画像提供:土屋鞄製造所

男の子が赤や明るい色、女の子がブラックなどのダークカラーを背負うなど様々な着用写真も
画像提供:土屋鞄製造所

「『女の子は赤、男の子は黒』という概念もなくなってきている」
画像提供:土屋鞄製造所
土屋鞄では、コロナ禍も相まって、店舗や展示会でのランドセル選びは予約制に。また、7月までは注文のある限り生産を続けるモデルを設けるなど対策を講じている。予約開始の時期は年々早まっており、昨年より約1週間早いスタートだと言う。
発売から1ヵ月がたち、土屋鞄ランドセル、今年の人気色としてトップに君臨したのは、ピンク系。茶やキャメル、黒、パープルなどが続く。約50色のラインナップの中で、ピスタチオやラベンダーなどのパステル系や、グレーなども人気だそう。
「親御さんは、茶やキャメルと言った落ち着いた色味、お子様はパステル系の色を好む傾向があります。また、グレーやキャメルは、男女問わず人気ですね」(高橋氏/以下同)
色の選択肢が増えたことで、好みも多様化。同時に、一昔前までの「女の子は赤、男の子は黒」という概念もなくなってきている。同社では、“個性に合ったランドセルを選んでほしい”という思いから、以前から店頭やカタログで男女別に合わせた展開はしていない。さらに昨年からは、色選びの自由を広げるために、新たに“RECO”シリーズの販売を開始した。
「戦隊物の赤が好きな男の子で、女の子の色だからとあきらめてしまうケースがありました。また、女の子でもダークカラーを選べるように、洗練されたベーシックカラーに仕上げ展開しています。カタログでも、男の子が赤や明るい色、女の子がブラックなどのダークカラーを背負うなど様々な着用写真を掲載し、『誰でもどの色でも、好きな色を選んでいい』という価値観をご提案しております。」
発売後、実際に赤を選ぶ男の子がいるなど、反響は大きい。売り場で人気があるのは、グレーやブラウンだそうで、色選びは今後さらに自由になっていきそうだ。
ICT化により機能性が進化「2020年以降は時間割入れも削除」
原型は変わらないままだが、細かい部分は時代の流れに合わせて徐々に変化。近年は、学習指導要領の変化で、教科書のサイズがA4に。それに合わせて配布物もA4サイズになったため、現在はA4サイズのフラットファイルが入る大きさが主流になっている。
また、ICT化の流れでタブレット端末を配布する学校も。タブレット用のポケットをつけたものや、ランドセルのサイズを大きくするなど変化が見られる。
「今年の販売モデルから、マチ幅を1cm大きくし、人工皮革に切り替えて100g軽量化したシリーズも展開しています。また、時間割が週替わり、日替わりの学校もあり“使っていない”というお声も多かったため、2020年以降は時間割入れもつけないモデルをお出ししています」
ちなみに、ランドセルのサイズアップや革の価格の高騰によって、価格帯も少しずつ上昇傾向に。土屋鞄では、2023年モデルは6万4千円〜14万円まで。一番購入が多いのは、8万円台のモデルだそうだ。
近年は子どもの意見を尊重する傾向、ランドセルが自主性の初めの一歩に
「よく見られるのは、親御さんが『6年生になって、お兄ちゃんお姉ちゃんになっても使うんだよ?』と、確認されているシーン。そこで即答できない場合は、いったんお持ち帰りいただくのがいいと考えています。通う予定の小学校の上級生を見たりして、一緒に考えていただく方法もあります」
最近では、親との好みが違った場合は、子どもの意見を尊重するパターンが多いそうだ。購入後アンケートでも、選んだ理由は「子どもの好きな色味やデザインだったから」という理由が、7割以上を占めるのだそうだ。そう考えるとランドセル選びは、自分で物事を決める初めの一歩とも言える。「素敵な色を選んだね」と肯定してあげることで、自分の“好き”が認められたという大きな喜びに。その後の価値観や人格形成に影響する可能性もあるだろう。
また、子どもの好みは日ごとに変わることも多い。ランドセル選びの早期化により、注文してから実際に使うまでの期間が長いのも、悩みの一つだ。
ラン活のピークは長年、親戚の集まりやすいゴールデンウィークとお盆休みと言われてきた。しかし、「子どもに合った1本を選びたい」という強い思いから“ラン活”という言葉が生まれ、年々早期化。今年もすでに完売が出始めているが、「“就活”や“婚活”のように、“○活”と名付けられると、何か焦らないといけないことのように感じさせてしまうのが心苦しい」と、話す。
「本来はお子様の成長をお祝いする贈り物という一面もあるので、選ぶ時間も記憶に残るような、ご家族のイベントになればと思っています。お子様と会話しながら、納得いただける1本を選んでいただきたいですし、一つの物を長く使う大切さも訴求していけたらと考えています」
次の春が来たら、ピカピカの1年生。ランドセル選びは、子どもの好みと向き合い、良さを伸ばしてあげるチャンスにもなり得る。じっくりと納得のいく“ラン活”を通して、親子のコミュニケーションを深めてほしいものだ。
(取材・文/辻内史佳)