「子どもの近視」が急増…スマホや動画視聴も影響、「メガネをかければいい」では済まないワケ【眼科医監修】
2023-11-28 eltha
世界で爆発的に増加している「小児近視」、70年で80%超えにまで拡大
岩見久司先生小児の近視は日本を含め世界でも爆発的に増えております。特にアジア人が近視になりやすく、アジアの先進国において新成人で近視である人の割合が1950年代は10〜30%程度が、現在はどこの国でも80%を超えるようになってきています。
また、近視発症の時期についても低年齢化してきており、就学前のお子様で近視があるのも珍しくなくなってきております。
Q: これまで「近視は遺伝」と考えられてきましたが、今でも遺伝の影響は大きいのでしょうか?
岩見久司先生近視になる原因は「遺伝+環境」です。京都大学からの報告ですが、日本人の約7割ほどが近視の遺伝子を持っているようです。しかし、例えば100年前でも近視になる遺伝子を持っている人の割合は変わっていなかったはずなのに、非常に増加しています。
その原因は「環境」による影響が多いです。単純に言うと、近くで物を見すぎると近視が増えます。近くで見る距離が近すぎる、見る時間が長すぎる、などの影響が近視を作っていきます。特に小さいお子様がその影響を受けやすく、最近の携帯ゲーム機や、スマートフォン、動画配信サービス等の手に持って近くでじっと見てしまうようなものが世の中にあふれているのも原因の一つです。
近視を放置すると失明の危険も? 我が子の目を守るためには
岩見久司先生あります。近視は、はじめは“調節緊張”と呼ばれる近くで見るクセがついているのみの状態から始まります。これがいわゆる「仮性近視」です。
しかしその状態が長引くと、目の形が前後に伸びていきます。そうして目の変形に伴い、例えば網膜剥離や緑内障などの将来の病気の危険性が増加していきます。
子どもたちが大人になった後に、失明の危険のある病気にかかりやすくなるということです。お子様が近視になったら眼鏡をかけておけばいいや、ではありません。近視が進まないように対策を取る必要があります。
Q:外で遊ぶ習慣が近視抑制につながる、という話も聞きますが、紫外線が目に悪いのではと気になりますが…。
岩見久司先生台湾の研究で、十分に太陽光を浴びる生活を児童にさせると近視の割合が減少したという研究があります。
紫外線は真夏などの太陽の光が強い時期に、一日中屋外活動をするというようなことがなければ、それほど悪影響は出ません。また、近視進行のメカニズムである、「近くを見すぎる」が、屋外活動をすることによって改善しますので、ぜひ外で遊ぶ習慣は大切にしたいところです。
手術のいらない視力矯正治療、メリットとデメリットは?
岩見久司先生オルソケラトロジーは寝る時にハードコンタクトレンズをつけ、眼の表面の形を矯正する治療です。使い続けることで遠くが見えるようになり、また近視進行を抑制すると言われています。
筑波大学からの報告で、10年以上使ったお子様において有効性と安全性が確認できたとすでに報告されており、使用方法は確立されております。オルソケラトロジーには使用ガイドラインがあり、第2版において小児への使用が慎重処方として解禁になったところで、対象年齢は明確ではありませんが、アメリカからの報告では眼軸長(目の前後の長さ)が伸びる前の6歳から8歳の間に始めることを進めている論文もあります。
Q:デメリットはあるのでしょうか?
岩見久司先生ハードコンタクトレンズなので、慣れるまでは異物感などで困る場合があるほか、強い近視や乱視などで使えないこともあります。
また、自費診療になりますので、健康保険がきかず高額になる場合があります。使用方法を守っていれば大丈夫ですが、きちんと使用しなかった場合に目の感染症などを起こすリスクがあります。
Q:「オルソケラトロジー治療」を受けようと思った場合、かかる費用やどういった方法でできるのかを教えてください。
岩見久司先生オルソケラトロジーは処方できる施設、できない施設があるのでまず受診したい眼科に処方可能かどうか問い合わせることから始まります。
費用は自由診療になりますので10数万円〜30万円程度、様々な設定の施設があります。どうしてもレンズはオーダーメイドのものになりますので、ある程度高額にはなってしまいます。
また、近視治療としてオルソケラトロジー治療を受けるのであれば近視の評価のため、眼軸長検査ができる施設が良いでしょう。
ガイドラインには処方前に「角膜内皮細胞検査」や「角膜形状解析検査」などが推奨されていますので、それらがある施設での処方が望ましいです。詳しい処方の仕方は眼科により微妙に異なりますので、お問い合わせください。
Q:現代の日常生活で近視抑制をするのは難しい現状もありますが、少しでも予防できる方法があれば教えてください。
岩見久司先生先に述べましたように、近視は環境によって作られる、すなわち「生活習慣病」の側面があります。手に持てるデジタル機器の使用時間に上限を設ける、外遊びをたくさんする、姿勢を良くするなどの対策があります。
日本近視学会は20分近業をしたら20秒でいいので20フィート(6m先)を眺める“20-20-20ルール”を推奨しています。いろいろ試してみて、それでも近視進行が止まらないのであれば、近視治療は日進月歩の状態ですので、近視治療にたくさん取り組んでいる眼科医に相談するのが良いでしょう。
監修者 岩見久司先生
医療法人久視会 いわみ眼科理事長。眼科専門医。医学博士。2018年にいわみ眼科を開業。専門は加齢黄斑変性などの網膜疾患だが、前眼部から後眼部まで、眼科全般の診療を行う。小児の近視治療にも力を入れている。ライフワークは「眼科医療の底上げ」であり、啓蒙活動や後輩の教育にも力を入れている。