2023-11-12
奈良県をめぐると、どこでも見られるような鎮守の森に驚くほど貴重な建造物が眠っていることが多々あります。天理市備前町の「天皇神社」もそのうちの一つ。ささやかな森のなかにたたずむ本殿は室町時代中期に建立されたもので、何と国の重要文化財!優美な彫刻が随所にしつらえられており、その造形美に魅了される方もいらっしゃるでしょう。今回は一般の観光案内ではスルーされがちな天理市の「天皇神社」をご紹介しましょう。
「天皇神社(てんのうじんじゃ)」は、奈良県天理市備前町に鎮座する神社。その創建は鎌倉時代中期の1279年(文永9)と伝えられており、ご覧のように、道路脇の小さな森のなかに鎮座しています。
神域はささやかなものですが、そんなありふれた鎮守の森に、国の重要文化財となっている本殿があることに驚く方も多いのではないでしょうか。
境内には石燈籠も並べられていますが、一番手前の石燈籠に「牛頭天皇社」と刻まれているのが、おわかりになりますか。これは天皇神社が「牛頭天王(スサノオノミコト)」をおまつりしていることにちなみます。
そうなのです。「天皇神社」の「天皇」は「牛頭天王」の名称に由来するのです。
写真は1396年(応永3)に建立された本殿。周防国・上野寺の頼秀という僧侶が諸国をめぐっていた折、荒廃を嘆き、みずから願主となって建立した社殿であると伝わっています。
本殿の形式は、一間社春日造・檜皮葺。室町時代初期の特徴をよく残している社殿であることから、国の重要文化財となっています。
彩色された朱があざやかですね。
内部には、先ほどご紹介した牛頭天王のほか、薬師如来、大梵天、天満天神がまつられています。まつられている祭神の名称からも、天皇神社が神仏習合の名残をとどめる社であることがわかります。
屋根の上に見られる千木と鰹木も、堂々たる風格をそなえていますね。
本殿を拝見する際は、まずは真正面に立って見上げましょう。
ご覧のように、正面には板戸をとり囲むように優美な意匠の彫刻類がしつらえられています。このすぐれた意匠が、天皇神社の本殿の特徴でもあります。
屋根の前面に張り出すようにして設けられている向拝および本殿正面の軒上には、それぞれ「蟇股(かえるまた/蛙の足のような形をした建築部材)」が取り付けられており、そのなかにやはり優美な彫刻が見られます。前方は蓮、後方は宝珠でしょうか。
柱の組み合わせにも注目しましょう。写真は「連三斗(つれみつど)」と呼ばれる木組の形式。右方向に飛び出した木鼻にも彫刻がほどこされていますね。
重要文化財の本殿を誰にも邪魔されず、間近で拝見する機会はそれほど多くはありません。この機会にじっくり観察しましょう。
本殿の前面には、拝殿があります。中央を参拝用の通路(馬道)とした形式は「割拝殿」と呼ばれているものです。
拝殿の内部では、上を見上げましょう。古い絵馬が複数奉納されているのが、おわかりいただけるでしょう。どのような図柄の絵馬か、目を凝らしてご確認ください。
鳥居の前には「頼秀師頌徳碑」と刻まれた大きな石碑もあります。
「頼秀師頌徳碑」は、1931年(昭和6)、天皇神社の宮座によって建立された石碑で、上でご紹介したように、本殿の願主となった周防国上野寺の頼秀の業績を顕彰したものです。
石燈籠には地元の「備前村」在住の人から奉納されたものもあり、天皇神社が地元民から篤く信仰されてきたことが読み取れます。
天理市備前町の天皇神社がいかに貴重な神社であるか、おわかりいただけたでしょうか。ありふれた鎮守の森に国の重要文化財が眠っているところに、古都・奈良の歴史的建造物の層の厚さがうかがえますね。天皇神社に参拝し、本殿の優美な意匠をとくとご覧ください。
住所:奈良県天理市備前町251
アクセス:JR長柄駅より徒歩約10分
2023年11月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
■関連MEMO
天皇神社―文化庁国指定文化財等データベース(外部リンク)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/2601
【トラベルjp・ナビゲーター】
乾口 達司
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