2025-04-23
「ネムリ神」という神様、ご存知ですか?「ネムリ神」とは、兵庫県丹波篠山市の神社にまつられている線描画のことですが、その由緒来歴、語源は地元民にさえすでに忘れ去られており、謎めいた存在としてあり続けています。「ネムリ神」とは、いったいどのような存在なのでしょうか。今回は由緒来歴が不明のまま、毎年、まつられる謎の「ネムリ神」と、その関連性が考えられるもう一つの線描画をご紹介しましょう。
「ネムリ神」がまつられているのは、兵庫県丹波篠山市上板井に鎮座する天満神社。ご多分にもれず、こちらの天満神社でも菅原道真が祭神としてまつられています。そのささやかな規模は地区の鎮守社にふさわしいものであり、一見、とりたてて珍しいものは見当たりません。
しかし、本殿の裏手にまわってみると、ご覧のような小さな4枚の木の板が背面の石垣に立て掛けられる形でまつられています。そうです。これこそ、地元で「ネムリ神」と呼ばれているモノなのです。
ネムリ神はヒノキを二つに割ったもので、その断面に線描画が描かれています。木の板は毎年新調され、元日におこなわれる「シシオイ」と「ハナフリ」と呼ばれる神事で使われます。
かつて「ネムリ神」を取材した「丹波新聞」2020年12月30日(WEB版)の記事「いわれ不明の正月神事 薄れ行く風習 謎の『ネムリ神』」によると、「シシオイ」と「ハナフリ」は農耕儀礼の一種であり、ほかの地域でも見られるものではあるものの、神事のなかで使われる板を「ネムリ神」と呼ぶのは「類例がない」とのこと。しかも、民俗芸能学会評議員の久下隆史氏の証言として「昭和50年代に調査に入った際、すでにいわれを知る人はいなかった」と紹介されています。
つまり、その由緒来歴は地元民からも忘れ去られていながら、ネムリ神はいまでも上板井の地区内で大切にまつられているのです。由緒来歴の不明な神様。興味がわいてきませんか?
石垣に立て掛けられた4枚の線描画をじっくりご覧ください。板の表面に男女の立像が墨書されているのが、おわかりいただけるでしょう。
よく見ると、男女は二組から成り、一方はネクタイをしめたスーツ姿の男性とワンピース姿の女性、もう一方は裃を身にまとい、ちょんまげを結った男性とやはり髷を結い、長い丈の着物を身にまとった女性の姿で描かれています。すなわち、現代の成人男女の姿と江戸時代を連想させる過去の男女の姿が描かれています。
ただし、由緒来歴が不明であるため、二組の男女の立像がいったい何を意味しているのか、それが何を指し示しているのか、わかりません。
それにしても、このゆる〜い表情、思わず脱力してしまいますね。
境内の一角にある家屋の内部には、額装された2枚の絵が掲げられています。2枚の絵に描かれているのは、男女の洋装および和装の姿。毎年、ネムリ神が新調されるときは、こちらの絵をお手本にして描きなおされるのでしょう。
したがって、ネムリ神の由緒来歴を探る手掛かりとなるようなものではありませんが、この額装からは、ネムリ神の姿が必ず写真の姿でなければならないということが逆にわかります。
留意したいのは、ネムリ神が安置されているのが、本殿の裏手だけではないということ。本殿裏手のほかにも、参道脇に生える樹木の根元にネムリ神がまつられています。樹木は神様の依代としての意味を持っているものと考えられます。
写真は境内南側の大木に置かれたネムリ神です。
やはり丸太を割って、その断面に和装と洋装とから成る二組の男女の立像が描かれています。
こちらは北側の木の根元に置かれたネムリ神。その造形はほかのものと同様です。
<天満神社(上板井)の基本情報>
住所:兵庫県丹波篠山市上板井345-1
アクセス:神姫バス「上板井」停留所より徒歩約5分
ネムリ神について、もう一点、ご紹介したいことがあります。それは天満神社から南東へ10分ほどのところにある高屋地区の天満神社にも、ネムリ神とよく似たモノがまつられているということ。
上板井の天満神社と同様、高屋の天満神社も地区の鎮守社といったおもむきの小さな神社です。
写真は境内に建てられた石碑を撮影したものですが、二つの石碑のあいだを目を凝らしてご覧ください。奥の石垣に小さな木の板が立てかけられているのが、おわかりいただけるでしょう。
写真はそれをアップで撮影したものですが、ネムリ神と同様、木の板に男女の上半身が描かれています。長方形の板はネムリ神のものの半分以下の大きさで、縦が15センチから20センチ程度。木製の表札のように、表面もきれいに加工されています。線描はそんな加工された表面にマジックインキのようなもので丁寧に描かれています。
こちらは少年と少女のペアです。
一方、高齢の夫婦と思しきペアも描かれています。
このように、高屋の天満神社で見られるそれは、上板井のネムリ神とは異なる点が多々見られますが、その一方、境内の3箇所に男女のペアを描いた板が立てかけられているという点は共通しています。
上板井・天満神社のネムリ神と同様、高屋の天満神社に見られるこれらの線描画の由緒来歴も分かっていません。しかし、上板井の天満神社とは距離が近いこと、まつられているのがやはり天満神社であることを踏まえると、こちらもネムリ神との関連性が疑われる存在であることは容易に思いつくでしょう。
<天満神社(高屋)の基本情報>
住所:兵庫県丹波篠山市高屋25-1
アクセス:神姫バス「高屋」停留所よりすぐ
ネムリ神がいかに謎めいた存在であるか、おわかりいただけたでしょうか。現在、ネムリ神やそれに似たモノの存在が判明しているのは上板井および高屋の天満神社の2箇所に限られていますが、詳しく調査をしていくと、ほかにも同様のモノが見つかるかも知れませんね。由緒来歴も不明なら、その語源もわからないネムリ神。その謎めいた存在に翻弄されながら、ネムリ神の世界をご堪能ください。
※ネムリ神は、毎年、年始に新調され、その年の年末に廃棄されます。今回、ご紹介したネムリ神は2025年の年始に新調されたものです。
2025年4月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
■関連MEMO
兵庫県神社庁―天満神社(外部リンク)
https://www.hyogo-jinjacho.com/data/6307062.html
【トラベルjp・ナビゲーター】
乾口 達司
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