イラスト:koyome
前回、「『心を強くする経験』は、これからの子育てを考える時、一番のキーワードになります」と、花まる学習会の高濱正伸さんに教えていただきました。
そのためには、「『そういうこともある!』と、『事件にしない』という形で、親が子どもに状況を提示してあげる必要があります」とも。
では、最近増えている不登校は、どのように考えればいいですか? 引き続きお話しを伺いました。
花まる学習会 高濱正伸さん
■不登校と言っても実態はさまざまあるイラスト:koyome
――最近、不登校が増えていることについては、どうお考えですか?「不登校」と一言で言っても、その実態はさまざまです。じつは、「
学校が『つまらない場所』だから行きたくない」という子も一定数います。そういった子は、
大人になって自立さえできれば、不登校でも問題はないと思います。
――「不登校だからダメ」と一概には言えない?もちろんです。ただ、長期の引きこもりの人たちの履歴を見ると、不登校からスタートしている場合も多いので、「入口の対応」という意味では「不登校であるという状態」をどう扱うかは大切です。長期化すると、「外に出るのが怖い」とか「朝晩逆転」といったことに繋がることもありますから。
――不登校については、何から考え始めたらいいのでしょうか。(c) yukinoshirokuma - stock.adobe.com
一言で言えば、
愛です。ラポールです。
【ラポール】
ラポールとは、フランス語で「橋を架ける」という意味。心が通い合い、互いに信頼し合い、相手を受け入れている状態のこと。
今の学校の先生の中には、
子どもとの信頼関係が築けていない人もいます。そんな先生のことを、子どもはどう見ているのか?
「この人は、授業をやらないとお給料がもらえない人。この人が困るから、黙って授業を聞くしかない」といった目で見ている可能性もあります。
先生に悪気がないのはわかります。でも、「そこに、【ラポール】〜子どもとの信頼関係〜があるのか?」という話です。
■今の学校は古い?(c) apiox - stock.adobe.com
――先生と信頼関係が築けないお子さんにはどんな特徴がありますか?知能が高かったり、才能がある子ほど、ラポールに敏感です。今、そういった子たちが、
学校の中に居場所を見つけられないという現実があります。
――学校に居場所がない子どもはどうすればいいんでしょうか?私は、この現実を受けて、花まるエレメンタリースクールというフリースクールをつくりました。昨年が一年目で、今は二年目なんですが、手ごたえを感じています。
――フリースクルーでの手ごたえとは?昨年からいる(1年目からいる)24人が、先輩面するんです。「俺も暴れていたから、わかるよ」みたいなことを言う(笑)。大人に言われるより、
「自分もそうだった」という先輩(そう言っても子どもですが…)の言葉を届けることができることが大きいんです。
そういった仕組みを作ることが大事だったんです。
「現状の学校に収まりきらないタイプの不登校」に対しては、花まるエレメンタリースクールの教育実践を通して、ひとつの答えが出ました。
――どんな答えですか?子どもが心から安心できる居場所を作ればいいのです。要は、
「仕組み」の問題なんです。この話も何度もしていますが、
今の学校がもう古いんです。先生一人一人には、絶対に悪い人はいないんです。
■日本の教育は、何が問題か?
高濱先生は、いまの日本の教育の問題点として、「粒のそろった兵隊を作る教育」なところと挙げています。そして高濱さんは、「上の言うことを忠実に聞く兵隊を作るのではなく、これからの教育では『自走する人間』を育てていく必要があるんです」と、言います。
■居場所を見つけられない子どもに届く言葉とは(c) polkadot - stock.adobe.com
――居場所に辿り着けてないご家庭は、どうしたらいいでしょうか?「子どもを癒やすのは何か?」という話です。それは、
「大丈夫。あなたは、私の子どもなんだから、絶対に大丈夫」という
親の言葉です。この言葉が、効きます。私は本当に、たくさんのいろいろなタイプの親子を見てきました。だからこそ、言えるのです。「あなたは、大丈夫。母さんの子どもだから、大丈夫」という言葉が、もっとも子どもの心に響くのです。
子どもは親から「大丈夫!」と言われたいし、その言葉を信じたいのです。毎日、家庭でしっかりと愛情を与えていれば、少々、外でつらいこと、嫌なことがあっても耐えることができます。
前話の話にも通じますが、多少の試練は、心の免疫をつけるために必要です。親元にいる時に、心の免疫をつけてあげる、と考えてみてはどうでしょうか?
■子どもが不登校になったとき母親がしてはいけないこと――お母さん自身が、子どもに対して「あなたは、大丈夫」と言い切れるエネルギーがない場合もあると思うのです。その時は、どうすれば良いですか?そんな時は、お母さんが孤立しているのです。
「孤立した母」というのは、現代の社会が抱える問題です。この問題の解決策として言えることは、「繋がりを持ちましょう」ということです。
(c) yamasan - stock.adobe.com
子育てとまったく関係のない、趣味のサークルに入るのでもいいし、パートに出るのでもいいし、大学時代の友達に会うのでもいい…。繋がりをいくつか作ったなかで、誰か一人でいいから、心を開いて話ができる人、居場所を、お母さん自身が確保するのがもっとも大事です。
お母さん自身も、正解が欲しいわけではないでしょう? 「うん、うん、そうだよね」と話を聞いてもらって、安心したいのです。
――お母さん自身の居場所を、まずは確保するのですね(c) buritora - stock.adobe.com
そうです。昔は、隣近所にそういう人がいたかもしれません。けれども、今は
「自分で意識して、居場所を確保しないとならない時代なんだ」と、お母さんがしっかりと踏まえておくことが大切です。
子どもが不登校の時、「私がちゃんとしなければ!」と、一人で抱え込んでしまう人がいます。大切なのは、
一人で頑張ることではありません。人と繋がり、自分自身の居場所をまずは見つけて欲しいです。
――キーワードは「繋がり」ですねはい。居場所は、専門的な相談場所でもいいし、気のおけない友だちとカフェで喋るといった時間(心の置き場)でもいいのです。とにかく、
誰かと繋がって、孤立をしないようにする。
子どもは、そんな母を見て、安心するのです。「お母さん、楽しそう!」と思うと、子どもも、なんとかなりそうな気がしてくるものですよ。
――子どもが、「なんとかなりそうな気がしてくる」って大事ですね私の経験から言わせてもらえば、
14歳までに自己肯定感に穴ぼこができなければ、大体のことは大丈夫です。14歳は、昔の元服です。人が育つ本質は、そう変わらないのです。
不登校で多少、勉強が遅れていたとしても、自己肯定感さえあって、「やっぱり俺、ちゃんとやるわ!」と本人が言い出せば、大丈夫です。
――高濱先生に「大丈夫」と言っていただけると、何だか安心します。「あの問題児が!?」と、いい意味で裏切られる子とたくさん出会ってきました。別人になりますからね(笑)。嘆き悩んでいたお母さん方が、「本当に『大丈夫』でした」とおっしゃる例も、たくさん見てきました。大学に入るのが1〜2年遅れたとしても、そんなのたいした話ではありません。
■高濱先生は三浪四留!?
高濱先生は、東京大学に入るまでに三浪していて、大学に入ってからは四回留年しています。二浪した人からは、「自分が、『人生、回り道した』などと言っていて、お恥ずかしい限りです。すいませんでした」と、謝られるとか…。
高濱先生のお話を聞いていると、自分の悩みが小さく感じられます……。
次回は、編集部に寄せられたお悩み、「わが子が他の子をいじめていた。その時、母親がすべきことは?」について、高濱先生にお話しして頂きます。
■今回お話を伺った高濱 正伸先生の著書
『どんな時代でも幸せをつかめる大人にする つぶさない子育て』高濱 正伸 (著)/ PHP研究所(1,540円(税込))
子どもの人生の選択肢を増やしてあげたい。あの時、子どもに「あれをやらせておけばよかった」と後悔したくない。そんな深い親の愛が時に暴走してしまうことがある…。
「どうしてできない!?」と子どもを責めたり、「そんな点数じゃ、○○中学なんて入れないぞ!」と脅してしまったり…。それで、子どもがつぶれては本末転倒です。
そんなお母さん、お父さんたちに意識して欲しいのが「伸ばすよりも、つぶさない子育て」。子どもとの適切な距離感がわかり、子育て不安が軽くなる1冊です。
高濱 正伸(たかはま まさのぶ)先生
1959年熊本県生まれ。東京大学農学部卒。
花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。算数オリンピック作問委員。日本棋院理事。
武蔵野美術大学客員教授。環太平洋大学(IPU)特任教授。
花まる学習会 高濱正伸さん
(楢戸ひかる)