【気になるあの人にインタビュー】柳美里さん/作家
2007-10-03 14:00 eltha
2000年のベストセラー『命』のもう一つの物語として、季刊文芸誌『en-taxi』(扶桑社)で連載していた、連作小説『黒』が7月に刊行された。『命』の主人公でもある柳美里さんと故・東由多加さんの出会い、別れ、死に際、そして死者からの言葉が綴られた、衝撃的な小説だ。 ――さまざまな反響があったと思いますが・・・。 「どうなんでしょう?本が発売された後は、なるべく作品に関わらないようにしているんです(笑)。 私と亡くなった東由多加さんをモチーフに書いてはいるけれど、読者が手にする本には、文字が並んでいるだけですよね。映画と違って、小説は読んだ人それぞれに、思い浮かぶ映像があったり、記憶と重なる部分があったりするわけで、それは私の頭の中のイメージや記憶とは違うはず。そういう意味で、私の小説が読者1人ひとりの物語になってくれればいいわけで、著者の意見なんて必要ないと思うんですよ」 |
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「背表紙にタイトルと名前があるだけで、店頭で平積みされたら、誰の、何の本なのかわからないように、あえてしたというか。4部作『命』は、私の視点で書いたものだけど、別の視点から見たらまったく違う物語になるはず。『命』では描けなかった真っ黒な『命』の真実を書こうと思ったんです。だから、東さんを描写するのではなくて、東さんの声を書き写すという試みなので、柳美里という名前もいらないんじゃないかと」
この連作小説は、私(柳さん)が別の男性のところへ行って朝帰りをしたために、がんセンターでの診察を受けることができなかった朝を「黒」、末期癌の病状が悪化し、モルヒネの副作用で意識が混濁して亡くなるまでの2ヶ月間を「白」、焼場の炎の中からはじまる6年間を「緑」で、それもすべて東さんの視点で語られている。
「あの日、私が外泊しないで、2人で国立がんセンターに診察に行っていれば、癌は初期で見つかって、今も生きていたかもしれない。その罪は重く、逃れられるものではない。生まれてくることも、死ぬことも取り返しのつかないことだから、その取り返しのつかない形で続いていくものを描きたかった」
――柳さんが、東さんになりきって書いた?
「なりきったわけではないのですが、東さんだったから書けたというのはある。16才から30才まで、一緒に暮らしたりしていたんですよ。私は、東さんから物事の考え方を教わったと言ってもいい。東さんはとにかく議論好きで、あいまいな意見、発言には容赦がなかった。お互いに言葉を尽くしたから、彼と私の考え方の相違もわかるというか・・・。作為的にならないように、そこはきっちりと線を引きました」
――97年、『家族シネマ』で芥川賞を受賞してから10年ですね。 「えっ、あっ、そうだ。すごい昔のことのようですね。というか、10年しか経っていないんだっていう思いが強いかな。いろんなことがありすぎて。だいぶ丸くなりました(笑)。東さんに、君は演じるより、書いた方がいいとすすめられて、戯曲を書き始めたのが18才の時だから、執筆活動がちょうど20年。アニバーサリーイヤーでしたね」 ――これからの10年について考えていることはありますか? 「まったくありませんね。1年後、私が生きているかどうか、わからなじゃないですか。そういうつもりで1作1作書いていますから。ただ、常に新しい試みはしていきたいし、これ書きたいなっていう着想をすべて書いたら10年くらいはあっという間に経ってしまうんだろうなぁ、とは思います」 今回の『黒』では、過激なまでに「私」の交遊ぶりについても書かれている。現在は、7才になる息子と15才年下の恋人と3人暮らしとか。ちょっと聞いてみたかったのは、なんでそんなに男性にモテるのか――。 「10代〜20代は誘われたら、好き嫌いではなく全部つきあっていた感じはありましたかね(笑)。恋愛対象にこだわりというか、顔立ちがいいとか、背が高いとか、そういう条件はまったくないので(笑)。 そういうスタンスでいることが、なんとなく相手にも伝わるんじゃないでしょうかね。それを“スキがある”とか言うのかもしれませんが・・・。 もちろん、つきあいが続くかどうかはまた別問題で、2人きりでまったく気まずくなることなく朝まで話せる相手だったら、やっていけるかなぁって思う。そういう人って、やっぱり少ないですけどね」 【プレゼント】 直筆サイン入り『黒』を1名にプレゼントします。 応募はこちら | 『黒』 |