アイドルが感じた、夢と才能の乖離「勉強なんてできなくていいから、可愛い顔に生まれたかった」
2022-12-08 eltha

東大卒アイドル・なつぴなつさん
“東大生”の肩書を生かし切ることがアイドルへの道だった

なつぴなつさん
「まず一つ目に、歌とダンス、そしてアイドル自体も大好きで、私もこんな風に大好きな歌とダンスをやりたいという気持ちがありました。二つ目に、『たくさんの人に愛されているアイドルがうらやましい』という気持ちがありました。もともといわゆる『陰キャ』で、運動もできず友達も少なかったので、小学校や中学校で嫌がらせを受けたことがありました。毎日が憂鬱でしたが、そんな中AKB48を見るようになり、私もこんな風にありのままの自分をたくさんの人に愛されたいなと思うようになりました」
――なぜ“東大”であることにこだわられていたのでしょうか?
「私が唯一人よりできることが勉強しかなく、それを最大限に生かせるのが“東大生”という肩書だと思ったからです。私は幼いころから容姿に自信がなく、実際に中学生の時からAKB48のオーディションに応募し続けていましたが、書類選考では落選続きでした。こんな私が目にとめてもらうには、何かインパクトのある武器が必要だと思いました。私が人よりできることといえば勉強しかなく、それならば日本で一番の大学に行くしかないと思うようになりました。早稲田や慶応でも十分高学歴だとは思いますが、すでにそのレベルの学歴のメジャーアイドルは何人かいましたし、私の容姿の悪さを補うには不十分だと思いました」
――AKBのオーディションに落選した時「AKBになるために東大に入った」とSNSに気持ちを吐露。一夜にして大きな話題となり、さまざまな声が耳に入ってきたかと思います。当時どのようなお気持ちでしたか?
「人生で初めて顔も知らないような人々からの悪意を目の当たりにし、本当につらかったです。ご飯も食べられなくなり、眠るときも動悸がしてなかなか眠れなくなりました。ただ、その時の気持ちをしっかりと思い出すことはできません。あまりにもつらかったせいで脳が記憶にストップをかけているような感覚です」
――当時気持ちを打ち明けられる人はいたのでしょうか?
「元々容姿のコンプレックスで、私のようなブスがアイドルになりたいと思っていることがバレたら死んでしまうくらいに考えていたので、友人にも家族にすらアイドルになりたい気持ちは伝えていませんでした。そんな中この出来事があり、周りの人々が全員私を笑っているような気がしました。人が信用できなくなり、人と接するたびにびくびくしていました」
「東大にまで入ったのにもったいない」周囲から何百回と言われた“呪いの言葉”

「学歴の暴力」になつぴなつさんを誘ったのは、えもりえもさん(写真中央)。先日卒業をはたしたという
「AKBのオーディションに落ちてからも、アイドルの夢はなくなりませんでした。しかし、それからもオーディションを受けても受けてもまた落選の日々。ついに年齢制限にも引っかかるようになりましたが、アイドルの夢があきらめきれず、友人の所属するアイドルグループに入れてもらいましたが、就職の関係で半年で卒業しました。
もともとアイドル一本でやっていく気はなく、就職することは決めていたので、もうここできっぱり諦めようと思ったのですが、『やりたいことができなかった』という気持ちがずっと心にのしかかり、毎日このまま死んでしまいたいほど憂鬱な気持ちでした。そんななか、メンバーのえもりえもから『学歴の暴力というアイドルをやりませんか』と誘われ、やるしかないと思いました。『やりましょう!』とすぐに返しました」
――その後、社会人とアイドル活動を両立されてきましたが、人から言われる「東大にまで入ったのにもったいない」という言葉が、なつぴなつさんにとって“呪いの言葉”だったとブログに綴られていました。実際にそう言われたとき、どのように感じていたのでしょうか?
「もともと自分に自信がないタイプなので、言われるたびに『やはり私の人生は間違っていたのかな』と不安になります。しかし、最近はやりたいことがやれていると実感でき、そんな私を認めてくれる人も増えてきたので、あまり気にならないようになってきました」
――東大卒のアイドルという肩書を持つことは、ご自身のなかで正しいと思える選択でしたか?
「私にできる最良の選択肢だったと思います。見た目も地味で歌やダンスが特別秀でているわけでもない私が、アイドルとしてまず存在を認識してもらうための強力なフックになっていると思います。東大卒でなかったら、こんなに注目してもらえることは絶対になかったと思います」
「自分をさらけ出して人を幸せにする」アイドルの存在価値

なつぴなつさん
「まず前提として、私は国籍や性別に関係なく、アイドルが大好きです。K-POPアイドルも日本のアイドルも昔から大好きなので、今の現状に不満は特にありません。
ただしアイドルという存在は、その人の成果物だけでなく、その人自身が評価対象となる唯一の職業だと思っています。歌やダンスだけでなく、その努力や生き様までも評価の対象になります。自分の持つものをさらけ出して誰かを幸せにできたら、その時点でもうアイドルなのだと思います。SNSやYoutubeなどの発達により、そのような意味での『アイドル』が増えすぎてしまった現状もあると思います」
――なつぴなつさんのSNSでは、時に炎上も伴うような発信が注目されています。学歴や容姿についての発信もあり、投稿すると賛否の声があがることも。なつぴなつさんがSNSで発信する理由はどのようなところにありますか?
「まず、私としては炎上させる意図は一切ないので、いわゆる“炎上”をするたびに困惑しています。私がSNSを続ける理由はただ一つで、自分を『おもしろい人間』と思ってほしいからです。私は自分が考えていることを人に伝えるのがすごく苦手で、SNSは普段から考えていることや思いついたことを吐露できる唯一の大切なツールです。普段開示することを恐れている自分の内面を開示することで、『おもしろいな』『共感できるな』と思ってくださる方がいればうれしいですし、そのような方々にもっと楽しんでもらいたいという一心で、毎日楽しく自己開示をしています」
「やりたいことに挑戦する勇気が出ない人の背中を少しでも押せたら」
「高学歴ゆえに『エリート街道を外れてはいけない』というプレッシャーを感じ、自分のやりたいことに挑戦するのにすごく勇気がいりました。私にやりたいこと(=アイドル)とできること(=勉強)に乖離があったため、自分の才能をうまく使えていないことにも葛藤がありました。勉強なんてできなくていいから、その分かわいい顔で生まれたかったな、と何度も思いました。結局東大に行っても、女性が求められるのは“容姿”と“若さ”でした。東大でも評価される・愛されるのはかわいい女の子で、わかっていたことではありますが絶望を感じました」
――アイドル活動をされているからこそ、“若くいられること”の賞味期限を感じている?
「常に上がり続ける年齢には焦りがあります。私は大学院をすでに卒業した年齢なので、SNSで私たちに対する『こんなババアがアイドルやっても価値がない』というような心無い言葉も何度も目にしました。また、アイドルが楽しいので、アイドルをしているうちは結婚の予定はありませんが、周囲がどんどん結婚していく現状にも焦っています。男性は若い女性を求めるため、今この瞬間にもどんどん市場価値が失われていき、このままでは婚期を逃してしまうのでは、と不安も感じます」
――今後アイドル「学歴の暴力」として、どのようなメッセージを伝えていきたいですか?
「やりたいことに挑戦する勇気が出ない人の背中を少しでも押せたらいいなと思います。私たちは『国立大学まで出たのにアイドルをやっている』という、世間的に見ていわゆる王道の成功を収めているとは言えないと思いますが、やりたいことをやれている今がとても幸せで楽しいです。私たちが楽しく活動している姿を見て、だれか1人にでも勇気を与えられたら、アイドルとしてこんなに幸せなことはありません」
Twitter:@natsupikkk
YouTube:「学歴の暴力」