三浦透子、デビューから20年でブレイク 快進撃の裏で乗り越えた“迷いとコンプレックス”
2022-12-22 eltha
初共演の東出昌大は「すごく頼りになる存在」 “微妙な距離感”のヒロインを好演
「東出さんとは10年ほど前に初めてお会いして、知り合ってからは長いのですが、共演は初でした。決して楽ではないスケジュールの中で、体力的に過酷なシーンもあったんですけど、とてもフラットな方で、すごく頼りになる存在でした」
「それがこの映画の一番の核であり、この出逢いは本作の象徴かもしれません。恋愛でも友情でも家族でもない、ちょっと距離のある誰かだからこそほぐせる心の何か、距離があるからポロっと言えてしまう何かがあるのではないでしょうか。無言で一緒にいる。そうした時間を実際に広島という土地で重ねていった結果、見えてくる関係性のようなものも感じました」
「本質的には、やっぱり彼女は何か曲げられない強さがあった。だからその反動でちょっと視野が狭くなってしまい、心が疲れてしまったのではないかと思います。脚本に描かれる出来事を1つ1つ結んで、彼女の性格や背景を丁寧に考えながら演じました」
高校進学のタイミングで芸能界引退を考えていた…抱えていた“コンプレックス”とは
「お芝居は好きなんですけど、人前に立つことが楽しいと心底思えているタイプではなかったんです。俳優だからといって、決してお芝居だけが仕事ではない。芸能界に入って10年ぐらい経った時に、その部分が苦手かもしれないと悩んでしまったんです」
「ですが、周りにお芝居を続けて欲しいと思ってくださった方がいたこと。また、これだけ長い時間やり続けてこられたというのは、何か意味があるものだったのではないかと客観的に思って。…もしかしたら、その“意味”というものをもう少しちゃんと知りたいと思ったのかもしれません」
それから10年――三浦は代表作『ドライブ・マイ・カー』に出会う。本作で俳優としての確かな手ごたえを得たことも大きかったが、濱口竜介監督からその“意味”を知るヒントを授かっていた。
「私が人前で上手く言葉が出てこなかった経験を話した時に、『言わざるを得ない時が言うべき時です』っておっしゃってくれたんです。もちろんせっかくだから目の前にいる人と分かり合いたいし、伝える努力はしようと思っているんですけど、その言葉はお守りのように持っておこうかなって思ってます」
父が暮らす島への訪問が凛子のターニングポイントとなるが、三浦自身の転機は“上京”だったという。
「故郷の北海道では周りに同じ仕事をしている人は少なくて、ある意味、特別になりすぎてしまって、普段の生活が大変になることもあったんです。でも東京に来て、同世代の役者さんと出会って、色々な刺激を受けて。自分の仕事をより深く見つめられるようになって、俳優の仕事がさらに好きになりました。北海道に住み続けていたら、辞めていたかもしれないですね」
俳優と歌手を「両立している感覚はない」ブレイクしても変わらぬ“表現者”としての姿勢
「2つのことを両立しているという感覚はあまりないんですよね。もちろん表現方法は違うんですが、私の中では自然に心が行き来しているというか、どちらも“表現者”であることは変わりませんし、今後も“表現者”としての道を歩めたらと思っています」
「それはありがたいなと思いつつ、環境や状況、人の見る目が変わっても変わらなくても、自分のやることは自分で決めていくのには変わりません。これまで丁寧にやってきたことの積み重ねをしていければいいのではないかと思うんです」
それは“ブレない”ということとも少し違う。「変わらないことが絶対唯一の良いことだと思ってるわけではなくて、変わりたいと思う瞬間も、自分の中から湧き上がってくるものでありたいなって。“人からこう見られるからこうしよう”ではなく、“なりたい自分になろう”と変化していきたい。今まで続けてきたことがあるからこそ今の状況があると思っているので、今の状況に感謝しているんだったら、今までやってきたことをきちんと続けていくべきかなと思っています」
その為にも「“表現者”として、にじみ出るものが大切。まず人として、自分が素敵だと思える自分で生きていたい」とまっすぐな目で語る三浦透子。自分自身が「迷いやすい」と自覚している彼女の言葉だからこそ、その一本通った生き方の道筋は、果てしなく強度の高い、“決意”のようにも感じられた。
(取材・文=衣輪晋一)
映画『とべない風船』
2023年1月6日(金)より 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、
アップリンク吉祥寺、MOVIX 昭島ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:宮川博至
出演:東出昌大、三浦透子、小林薫、浅田美代子
原日出子、堀部圭亮、笠原秀幸、有香、中川晴樹、柿辰丸、根矢涼香、遠山雄、なかむらさち