ホーム お悩み&コンプレックス > 「“ここは生まれ持ったもの”と言いたい」、個が重視されることで変化する日本の整形事情

「“ここは生まれ持ったもの”と言いたい」、個が重視されることで変化する日本の整形事情

2022-12-21 eltha

医師の塩満恵子氏

医師の塩満恵子氏

 「正直、この2〜3年、コロナ禍になってから美容外科の利用者は圧倒的に増えました」…そう語るのは“令和のトリリンガル美人女医ママ”として注目を集めている美容外科医の塩満(しおみつ)恵子さん。昨今はインフルエンサーやYouTuberが美容整形のカミングアウトをするなど整形に対する垣根は低くなっているが、それでもやはり、整形に対する偏見や反対の声は少なくない。整形をオープンにしていても「ここまで手術したことは公表したくない」など、公開する情報をあえて限定する人もいるという。現在の日本の整形事情を聞いた。

「顔パンツを脱ぐのが恥ずかしい」マスク生活が整形増加の要因に

 コロナが流行した2020年頃から、塩満さんが勤務していた美容外科クリニックにはテーマパークのような行列ができていたという。「人が殺到した理由として、家から出なくても済むので、整形後のダウンタイム(施術から顔の腫れなどが施術前のように回復するまでの期間)が気にならなくなるから。またこれまで旅行や外食に使っていたお金が浮いたから、コレを機にという方もいらっしゃいました」

 驚くのは中年男性の“目の整形”が急増したことだ。「中年男性の方はよほど美意識が高くなければ自分の顔をまじまじと見る機会は少なかったと思うんです。ですがリモートワークになると、画面に自分の顔が映し出される。そこで初めて“老け込んでる”と感じたり“笑ったりしゃべったりするとしわが目立つ”と、嫌でも自身の顔と直面。老いを目の当たりにするわけで、目の下のたるみを取ったり、老化で重くなったまぶたを二重にする方が増えました」。

 マスク生活となり、顔が半分隠れている状態が通常化したことも拍車をかけた。「マスクをしている時って、顔全体を出している時よりも口元がゆるんでしまう。すると筋肉が緩んで、たるみが起こってしまうんです。マスクをまだ外さなくてもいいタイミングで、リフトアップしたいという方も多くなりました。さらにマスクは、“顔パンツ”と呼ばれることも。パンツを脱ぐのが恥ずかしいように、マスクを外すのが恥ずかしいという方も増え、マスクを外した時にがっかりされたくないとか、さらに加工アプリでしか自分の顔が見られない人の増加も相まって、整形を望む方が多くなったのだと考えます」。

 美容整形についての考えも過去よりはカジュアルになってきた。「ある一部の方々などは逆に整形がステータスに。“3000万円も課金したんだよ”“私なんて4000万だよ”“私は鼻を3回修正したよ”など逆に誇りに感じられる方もいらっしゃり、過去と比べると美容整形に対する日本人の考え方もかなり変わってきているようです」。

昨今の整形のキーワードは“自然体”と“自分らしさ”

 昨今の整形のトレンドは、いかにナチュラルでいられるかだという。“自然体”に見せることができ、“自分らしさ”を生かすことに重きが置かれる。「過去は韓国のオルチャンメイクが流行って、韓流アイドルのような丸いおでこ、はっきりとした二重、高い鼻など“ザ・整形顔”とされるわかりやすいものが好まれていました。ですが今はナチュラルっぽさを好まれる方が断然に多い。顔の傾向でいえば、例えば広瀬すずさんとか新垣結衣さんとか、TWICEのモモちゃんとか。“自分の目に似合った整形”であったり、中年の方々が“若い頃の自分の顔に戻りたい”と、“自分”を土台に考える方が増えた印象です」。

 “自分”という個が重視されるようになり整形への意識も多様化した。「それにより公表していい整形とダメな整形というものが出てきたりします。本当は顎の骨まで削ったのに“糸リフトだけ”とおっしゃる方もいれば、“目を整形したことは言ってもいいけど、鼻をやったことは言いたくない”とか。これは日本ならではの文化かもしれません。“ここは生まれ持ったもの”と言いたい部分が個々であり、その部分を整形したことを“恥ずかしい”と思ってしまう。また鼻の形は家族皆一緒だから、鼻だけは崩したくないという方もいらっしゃり、本当に人それぞれです」。

 ただ、ボトックス、ヒアルロン酸、ハイフ、シミ消しなどは言いやすいが、目や鼻などの大きな外科手術になると半分以上が、あまり公表したくないと考えているそうだ。

 「また私が感じる日本ならではの傾向は、日本人男性が自分の妻には整形してほしくないとおっしゃる方が多い。ゆえに隠れてやるし、言いたくないという方もいらっしゃいます。やっぱりどうしてもお金がかかってしまうので、夫に相談しなければ、許可をもらわなければ、という日本の文化がまだあると思うんですね。自分のお金で施術するとしても、そのお金は“家族のお金”という意識が強い。日本ならではの感覚を診察室で感じることがあります」

 ちなみに彼女のもとを訪れる中国人の客の場合、「夫は関係ない。自分のお金だから」「別にバレないし」「バレたらなんとかする」という女性が多いそう。これは中国人女性のプライドが高いこともあるが、夫と妻は主従関係ではないという発想が根付いているからではないかと塩満さんは分析する。「とはいえ、夫も子どももOKというご家庭は過去より増えています」

 外見へのコンプレックスで病み、自己肯定感を上げるために門戸を叩く人も昔は多かったが今は2〜3割。残り7割はもう少しポップに前向きに整形について考えており、40歳の自分へのプレゼントだったり70〜80代の女性が訪れたり。「やはり女性っていつまでたっても鏡を見てキレイでいたいんだなと思いましたね」。

どんな美人にでもコンプレックスや悩みはある

2022年より東京・渋谷に「ASTRA BEAUTY CLINIC」を開業

2022年より東京・渋谷に「ASTRA BEAUTY CLINIC」を開業

 だが美容整形にももちろん落とし穴がある。何千何億もかけて整形への歯止めが利かなくなる現象だ。「ハマってしまう方もいます。どこかを治すことで、全体が気になり始める。最悪、取り返しがつかないところまで行く方もいらっしゃいます。そのためにも美容外科医自身がモラルを持つことが必須です。お金のためにだけではなく、危険な素材は使わない、神経を傷めない、やりすぎにしない。当院では取り返しがつく部分までしか扱いません。また明らかに失敗している方でも、それを失敗だと自分では決して認めたくなくなる現象が起こるなどリスクが高すぎるからです。私もリスクについてはお話しますし、自然に見える幅でしかやらないと事前にきちんと説明します」。

 その見本として自身にも施術を施し、さらに健康面やむくみなど見た目にもこだわっている。自分のセンスを信用してもらうことで、客が得られる安心感があるという。「私は仕事も家庭もハッピーじゃないと意味がないと思っています。お客様にもいろいろ提案し、お金のことも施術内容のことも、どのプランが一番ハッピーになれるか、楽しみながら選んでもらっています。そして結果、皆さんにハッピーになってもらいたい。そうすれば私もハッピーになれる」。

 充分に美しく感じられる客も来るが、悩みを聞くとちょっとした凹みが気になるなど、それぞれにコンプレックスがある。

「美容整形は外見の話題だと思われがちですが、基本的に内面に関わるんです。目に見えて私からここを治したほうが良いという提案をすることもあるし、その人にしかわからない、気づかない悩みもある。そこを手当てするのが美容医療。今後も、心の健康を求めて人の外面と内面、双方に向き合い続けていきます」

(取材・文/衣輪晋一 写真:小林友美)
タグ
Facebook

関連リンク

あなたにおすすめの記事

おすすめコンテンツ


P R
お悩み調査実施中! アンケートモニター登録はコチラ

eltha(エルザ by オリコンニュース)

ページトップへ