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中学受験って、意味あるの? 不合格で絶望するSNSの声…親はどう子どもに声掛けすべきか?

2024-03-14 eltha

中学受験に失敗、SNSでは保護者から絶望の声も

中学受験に不合格、SNSでは保護者から絶望の声も

 過去最多受験者数だった2023年に引き続き、多くの子どもたちが中学受験に挑んだ2024年。各校の合格発表後、SNSなどでは親たちの様々な思いが飛び交い話題となりました。特に第一志望ではなく、すべり止めの学校に行く場合、親も子も計り知れない時間をかけたぶん、なかなか気持ちを切り替えられないケースも見られます。そこで今回は、不合格になったとしても中学受験にどう意味合いをつけるのか。親のマインドセットのあり方を、中学受験専門塾「伸学会」代表の菊池洋匡さんに聞きました。

第一志望に不合格、そんな時、真っ先に必要なのは「親が気持ちを切り替えること」

 親子二人三脚で受験勉強に励んできたのに、受け取ったのは不合格通知。受験にかけた時間やお金を考え、家庭内が重い空気感になることも想像に難くありません。子どもが期待通りの結果を出せなかった時、親はどのような態度で子どもに接したら良いのでしょうか。オンラインサロンや保護者セミナーを通じて多くの家族と関わってきた菊池さんは、“親子間のギャップ”を指摘します。

「まずは、親御さん自身の気持ちの切り替えが必要です。お子さん自身は受験に落ちて落ち込むことってそんなにないというか…むしろケロッと切り替える子の方が多いんです。落ちた直後は悔し泣きしたとしても、遅かれ早かれ落ち着きます。ただ、親御さんがいつまでも気にしてウジウジしていると、子どもも気にして、ずっと引きずり続けてしまいます。だから、親御さんが気持ちを整理することが“真っ先に必要”なんです」

 小学生はまだ「親に褒められること」をモチベーションとする時期でもあり、不合格で「親をがっかりさせてしまった…」と悲しむことも。そんな子どもには、どのような声掛けや意識づけが必要なのでしょうか。

「まず、本人が悔しくて泣くのと、親をがっかりさせてしまったと思ってションボリするのは、全く別モノです。親がするべきことは、落ち込んだ子どもの気持ちを引き上げる働きです。でも親をがっかりさせてしまったと思って子どもがションボリするというのはそれとは逆ですよね。親が子どもの気持ちを引き下げてしまっています。これは良くないですよね。

 ただ、そうならないように本当はがっかりしているのにがっかりしていないふりをしても、残念ながら子どもには伝わってしまいます。だから、まずは親御さんが心から『どんな結果になろうと、結果以上に大事なのはこれまで頑張ってきたことだ』という信念を持てるように、何度も自分に言い聞かせておきましょう。そして、その価値観を家庭で意思統一することが大切です。もしお子さんが不合格になって落ち込んでいたら『どんな結果になっても頑張ってきたことが大事だし、応援してきて楽しかったよ』とあらためて伝えてあげてください。そうすれば、結果だけにとらわれることなく、お子さんも切り替えやすいと思います。もしこれを読んでいる方がこれから受験をされる方であれば、事前に伝えておくとより良いでしょう」

 結果ではなく、これまでの道のりを肯定し、前向きな言葉をかけることで、子どもは前に進めると菊池さんは考えています。しかも、第一希望にこだわる必要がないことを裏付けるデータもあるのです。

「そもそも第一志望の中学に行っても、第二志望の中学に行っても、人生の幸福度は大して変わらないということが、教育経済学の研究で分かっているんです。親御さんたちは、第一志望に落ちたらこの子の人生は不幸なものになるかもしれないと心配してしまうのですが、それは実体として間違っていて、第一志望の学校に行っても第二志望に行っても大学受験の時の成績はたいして変わらないという追跡調査の結果があるんです。大学進学率の差も、偏差値の高い子が入学した結果生まれる差であり、入学後の成長が生み出した差ではないと思います」

 入学する中学により、大きな差は生まれないと菊池さんが考える理由は、他にもあります。

「ご家庭によって好きな校風って似ているじゃないですか。ゴリゴリに勉強をさせる学校と、自由奔放・好き勝手させる学校。その2つを比べたら、6年間でマインドや成績は変わってきそうですが、似たような校風の学校であれば、わずかな偏差値の違いがあったとしても、その後の人生が大きく変わることはありません。だから、第一志望に落ちたからと言って、心配する必要は全くないんです」

事前準備で「魅力的な第二志望」を見つけておくこと。それが、家族の助けになる

 合格発表後に取り乱さないためにも、受験本番までの家族間での話し合いや事前準備が大切だという菊池さん。良い親子関係を築き、落ち着いて受験に臨むために、具体的にはどのような取り組みが必要なのでしょうか。

「僕が主催するセミナーやサロンでは、事前に『魅力的な第二志望』をしっかり見つけてください、現実的に進学する可能性が高いのはここなんですよと伝えています。有名校、超進学校など倍率の高い第一志望の学校だけではなく、子どもの実力に見合った偏差値の学校の中から『心から通いたい』と思える第二志望の学校を見つけておくことで、第一志望が不合格だった時に落ち着いて対応することができるんです」

 実際、「ここが第1.5志望」といえるぐらい魅力的な学校を見つけ、受験に臨んだ親子は、第一志望の不合格通知を受け取った後も、しっかりとマインドを切り替え、その後の受験に挑むことができたといいます。

「あるお子さんは第一志望が不合格になった時はすごく泣いていたそうです。いくら第二志望の学校が魅力的だと思っていても、第一に落ちたら悔しいんですよね。これは当然のこと。でも、事前準備をしていたから、ここで親御さんが慌てないで済んだ。魅力的な第二志望があるから、親御さんは冷静に状況を見守り、本人の気持ちの整理を助けることができたんです。ここで親御さんも共鳴してしまって、なんなら親御さんの方が子ども以上に取り乱してしまうと、子どものメンタルがボロボロになってしまい、受かる学校も受からなくなってしまいます。だから、事前に家庭で共通認識を作っておくことがとても大事なんです」

子どものやる気を引き出す「観察力」と、勉強そのものの楽しさに目を向けさせる「タイミング」

 昨今の中学入試では、新小学4年生になるタイミングで受験塾に通う家庭が主流ですが、その時点で子どもに強い意志はなく、中学受験には親の意向が多く反映される傾向にあります。小学生の子どものマインドを、どのように「受験」にシフトさせていくのか…自分の意志で勉強を頑張れるようにするためには、どのような働きかけが必要だと菊池さんは考えているのでしょうか。

「まずは学校の文化祭や説明会に足を運んでみるなど、受験しないと通えない学校があるということを子ども自身が知る必要があります。知らないことに興味は持てませんから。その後、中学受験という目標に向かって歩み続けるためには、日々『それをやって良かった』『楽しかった』という動機づけが必要です。友達と一緒に勉強すると楽しい、お母さんに褒められると嬉しい…など、わかりやすいことでいいんです。車の両輪みたいなかんじで、遠くのモチベーションと近くのモチベーション、両方作っていくということを意識していくように親御さんにお伝えしていますね」

 その「近くのモチベーション」となる、勉強の楽しさ。それを子どもに感じてもらうために、親はどのような働きかけをすると良いのでしょうか。

「まずは、お子さんを観察することが大切です。親がどのような働きかけをしたら、子どもが楽しそうに勉強するのか、それを観察することで、子どものモチベーションを維持する方法が見つかります。例えば『ちゃんと勉強しなさい!』と声を掛けた時、子どもが楽しそうな表情で勉強しているかを見てみるんです。勉強はしているけど嫌そうな顔をしているな、と思ったら、自分の行動は間違っていたと思い、別のアプローチを考える。子どもが悪いから、子どもが変わらなくてはいけない…ではなく、自分の関わり方の結果が今の子どもの状態だと認識し、関わり方を変えていく。これが大事です」

 例えば「勉強をしたらシールを貼る」という取り組み。シールが一定数貯まったら一緒に駄菓子屋へ行き、好きなものを買う」というご褒美方式を導入した家庭のお子さんは、最終的に勉強そのものの楽しさにも目覚めたといいます。

「ポイント制自体は良くあるものだとしても、ご褒美を『一緒に駄菓子屋に行くこと』と決めたのは、こちらの家庭のオリジナル。親御さんがお子さんの喜ぶことを観察した結果、生まれたインセンティブです。親が試行錯誤しながら、子どもが楽しんでいっぱい勉強をするようなアプローチを続けていった結果、成績が上がり、学習塾でのクラスも上がったそうです。その後はクラスメイト達に影響を受け、『すごい子たちがいる、この子達と一緒に勉強したい』と、より勉強に熱が入るようになったといいます」

 子どもの成績が上がり始めた時、何か成果が出た時こそが、「勉強そのものの楽しさ」に気づかせるチャンスです。

「ご褒美は、勉強を楽しむための手段ではあるけれど、本質的な部分ではないんですよね。勉強をして、理解が進み、成績が上がると、勉強そのものが楽しくなる。仕事でいえば、お給料をもらえるだけではなく、仕事そのもののやりがいや成功体験も大事。そういうところだと思うんです。シール目当てに頑張っていた子どもが小テストでいい点を取れるようになった時、『頑張ったから、成果出たじゃん!』と、勉強そのものの楽しさ、やりがいに目を向けさせることができれば、より一層、好循環が期待できると思います」

 一方、中学受験で良い親子関係を築けず、子どもに反発されたり勉強嫌いにさせてしまったりした場合、まずは自分の子どもに対する接し方を振り返り、関わり方を変えていくことが大切になります。

「人の生存本能は強力なので、不安があると、対処したくなるんですよ。子どもを守りたいと思う親御さんは、それが特に強く働く。だから、『子どものできていないところを見つけて叱る』という行動に出てしまうんです。『宿題やらないと先生に怒られるでしょ』『この問題しっかり解きなおさないとテストで悪い点数とっちゃうでしょ』みたいな働きかけのほうが強くなりがちなんです。でも子どもの側からすると、それってしんどくなるし、もうやりたくないと思ってしまうんですね」

 危機感を煽っても、注意されることに子どもが慣れてしまうと、ますます強く煽らなければならなくなり、家庭内がギスギスした空気になることも。

「子どもが70点のテストを持って帰ってきた時に、30点のできてない部分を責めるような関わり方をする親は、子どものモチベーションをどんどん潰していくので気を付けて下さい。逆に40点のテストを持ってきたとしても、その40点分できたところを見つけて認めて褒めることができると、それが50点60点というように増えていく傾向にあります。アドラー心理学でも、「注目する行動は増える」と言っているのですが、子どもの良い行動に注目できるかというのが、子どものモチベーションを維持するためにはすごく大事なことかなと思います」

中学受験の価値は「勉強習慣」が身に着くこと。コツコツ努力できる人は、将来仕事も楽しめる

 自分自身が中学受験を経験し、伸学会を立ち上げてからは多くの受験生と触れ合ってきた菊池さん。中学受験にチャレンジすることの本当の価値は「合格を目指して頑張る部分」にあると言います。

「受験直前期、小学6年生は1日10時間も勉強したりするんですよね。それに子どもは耐えて頑張っているわけですよ。憧れの学校に合格したいという目標がなかったら、普通は頑張れません。サッカーやダンスを頑張るのと一緒で、本人にモチベーションがあるからできることで、そういうモチベーションの源泉になることが、中学受験の価値だと思うんです」

 さらに小学生時代に頑張れたこと、中学受験のために努力した経験は必ず人生の糧になると分析します。

「中学受験経験者は、勉強に対するハードルが下がっていると思うんですよね。ある程度、勉強するのが当たり前な状態になっていると思いますし、中高で中だるみしても、大学受験だから頑張るぞ!となった時、『小学生の時に1日10時間勉強できたんだから今なら12時間できるでしょ』とさらに頑張れるかもしれない。気づかないうちに、その子の糧になっている部分ってめちゃくちゃ多いんじゃないかと思います」

 大人になってから仕事を楽しめる人には学習習慣があるというデータ分析もあり、まさに「若いころの苦労は買ってでもしろ」状態。子どもの将来にプラスに作用することがたくさんあると菊池先生。ただ、受験期間中は視野が狭くなりがちで、合格がゴールのように思えてしまうのも事実です。中学受験は通過点のひとつ。そのことを意識してもらうために、菊池先生は各家庭に課題を出しています。

「最終的に、将来どんな人になってもらいたいかを各家庭で考えてもらうようにしています。例えば、僕は子どもたちには将来、『仕事を楽しむ人』になってもらいたいと思っています。仕事は起きている時間の半分以上を使う人生の大きな割合を占めるものなので、仕事がワクワクする、頑張れるものだと、人生も楽しくなると思うんです。コツコツ勉強することが収入を得ることにもつながるし、仕事を楽しむことにもつながるということがデータ分析の結果もはっきりしているので、中学受験を頑張れた人は、将来、仕事を楽しめる可能性が高いと思います。嫌いな勉強に耐えるトレーニングは、将来やりたくない仕事を嫌々やる…辛い人生を過ごしていくことに直結していくので、今どういう風に能動的に勉強を楽しむのか、そして大人になってから仕事のための勉強や仕事そのものをどう楽しむのか、ということを親御さんは意識していくことが大事なのではないかと思います」

 中学受験を終えても、長く続く子どもの人生。その未来に必要な勉強や努力を模索してきた数年間が無駄になるはずがありません。理想の結果が出なかったとしても、少し立ち止まったとしても、子ども自身また前へ向いて歩きだせる日が来ると信じ、高校受験、大学受験と今後訪れる通過点に向けて子どもがベストを尽くせるようサポートしていくことが、苛烈な受験を頑張る子どもたちの親に求められることなのかもしれません。

取材・分/森下なつ
菊池洋匡

PROFILE 菊池洋匡

DMMオンラインサロンにて、菊池洋匡オンラインサロン「中学受験同好会」主宰。中学受験専門塾「伸学会」代表。
算数オリンピック銀メダリスト。
開成中学・高校・慶應義塾大学法学部法律学科卒業。

10年間の塾講師歴を経て、2014年に中学受験専門塾伸学会を自由が丘に開校し、現在は目黒・中野を合わせて3教室に加え、オンライン指導も展開。「自ら伸びる力を育てる」というコンセプトで「ホームルーム」という独自の授業を実施し、スケジューリングやPDCAといったセルフマネジメントの技術指導に加え、成長するマインドセットのあり方を育てるコーチングしている。これらは全て最新の教育心理学の裏付けがあり、エビデンスに基づいた授業に対して特に理系の父母からの支持が厚い。伸学会の指導理念と指導法はメルマガとYoutubeでも配信し、現在メルマガは約7000人、Youtubeは約20,000人の登録者がいる。

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