■西野博之(にしの ひろゆき)さんプロフィール

認定NPO法人フリースペースたまりば理事長/精神保健福祉士/神奈川大学非常勤講師
1986年より学校に行かない子どもや高校中退した若者の居場所作りをスタート。川崎市子ども権利条例調査研究委員会世話人、文部科学省「フリースクール等に関する検討会議」委員などの公職を歴任しながら、約40年間不登校の子どもとその親に寄り添ってきた第一人者。
■【親から見た世界】行かないのには理由があるはず!
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我が子に「学校に行きたくない」と言われてまず親が思うのは「なぜ?」ということではないでしょうか。学校で何か嫌なことがあるならば助けたい。そのためにも原因を突き止めなくては…。まずはそんな親の心の動きをマンガから見ていきましょう。


原因を聞かれた時に子どもが
「わからない」と答えることはごく一般的で、西野さんが出会ってきた不登校の子の多くもそうだったと言います。それでも原因を探したいのが親心。「原因がわかれば学校に行けるようになる」と信じて本を読んだり、ネット検索をしたり、答えとなるものを探そうと必死になる親も多いのだそうです。
▼原因を聞けば聞くほど長引く…?

しかし西野さんは、たとえ原因を探し出したとしても登校できるようになるとは限らないと言います。そもそも学校へ行けなくなった時点で子どもは
心身ともに疲れきっていて「学校に行けない自分はダメなんだ」と自分を責めているそうです。
そこに親から何度も原因を聞かれたり「ズル休み」と決めつけられたら…? また、学校へ行くことのストレスから身体症状が出た時に、ウソではないかと疑われたり、逃げ癖と指摘されたら…? 親の行動を受けて子どもはさらに「自分はダメなんだ」という思いを強め、
結果的に問題が長引くというのです。

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では、どうしたらいいか。
「まずは子どもを休ませてほしい」と西野さんは言います。安心できる居場所を作り、自己肯定感が下がって自分の気持ちをうまく言葉にできない子どもに寄り添うこと。それこそが我が子の心を回復させる第一歩なのです。
■【子どもから見た世界】学校行かずにボクがゲームしたいワケ
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子どもが学校に行かず、ゲームばかりしている。そんな時、親は複雑な感情を抱くのではないでしょうか。「気分転換も必要」と思う一方で「このままでは将来が不安…」「親の心配をよそにゲームばかり楽しむ子どもにモヤモヤ」…。
▼ゲームをするのは悪いこと?
「このままではいけない」と親子でゲームのルールを決めたり、ルールを守らない時には罰を考える親もいるかもしれません。しかし、ゲームをするのは悪いことなのでしょうか? そして、当の本人は何を思ってゲームをしているのでしょうか。


▼ゲームは唯一の「外との絆」
このマンガに登場する子にとってゲームはただ楽しいだけでなく、
唯一外の世界とつながるツールだったようです。
西野さんによると、学校に行かない子たちは、ふとした時に学校のことが浮かび、不安に襲われるのだそうです。自分が価値のない人間のように思えて「死んだほうがまし」と思うほど追い詰められている子も少なくない中で、
唯一「負の感情」と向き合わなくて済むのがゲーム(動画配信サービスやテレビなども同様)なのだといいます。
また、西野さんはかつて不登校だった子どもたちから
「ゲームがあったからなんとか生きてこられた」 「オンラインで出会った仲間がいて、一人じゃないと思えた」といった言葉を何度となく聞いてきたそうです。

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昼夜逆転してしまったり、依存症を心配したり…。確かにゲームのやりすぎは心配ですが、その時の我が子には意味があることで、
「生きるためにゲームをしているんだ」と知ってほしいと西野さんは言います。不登校の子にとって、ゲームは「かろうじて命をつなぐツール」と言っても大げさではないということ。親が考えをそのようにアップデートするだけでも、我が子の安心につながるのではないでしょうか。
■【子どもから見た世界】私だけ「ふつうの子」じゃないの?朝、通学路を見ると、たくさんの子どもたちが登校している。なのになぜ、我が子は学校へ行けないのだろう? ご近所や親戚から「また学校休んでるの?」と言われてしまう…。
子どもの気持ちは尊重したいけれど「学校へ行くのがふつう」と思っていた親には正解がわからなくて…。一方で大人たちから「ふつう」を求められる子どもの心の内は…。


▼「自分だけできない」に一番苦しんでいるのは子ども自身
親に「ふつうじゃない」と言われることがどんなに苦しいことか、マンガを通して伝わってきます。
この女の子は椅子がガタガタいう音で頭が割れそうになるつらさが重なり「学校に行きたくない」となってしまった様子。しかも、本人も親もそれに気づいておらず、「私だけおかしい」と自分を否定するようになってしまったようです。

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このように、不登校の原因のひとつに、外から見えにくい特性を持つ子どもが多くいるということがあると西野さんは言います。
さきほどの子のように聴覚過敏だったり、給食の匂いで吐きそうになる嗅覚過敏の子、強い香りの柔軟剤や消臭剤を使う子がいることで学校に行けなくなった子…。そういった特性を持った子が「ふつうじゃない」とされ、「ふつう」に合わせないと学校に行けない事態になっているのです。
▼不登校が「ふつうじゃない」と言えない理由
不登校の生徒の数は年々増加。2023年度は前年から4万人増え、34万人を超えて過去最多となりました。少子化で子どもの数は減っている中でここまで増えれば、不登校の子どもが「ふつうじゃない」というのはおかしいと言えます。学校教育の方が
「制度疲労」を起しているのだと西野さんは言います。
誰から見た「ふつう」が「ふつう」なのでしょうか。
親の考える「ふつう」をあてはめても、我が子は元気にはなりません。西野さんは、その子の「ありのまま」を受け止めて、一人ひとりに合う環境を整えていくことが、今私たち大人に求められていると言います。
「ふつう」という物差しに頼らずに、我が子と同じ目線で物事を見てみることが解決の糸口となるのではないでしょうか。
■我が子をまるごと受け止めるって?
本の中では、その他に学校とのやり取りの仕方、不登校をめぐって変わりつつある社会の仕組み、進路の選択肢についてなど、西野さんのアドバイスが懇切丁寧に書かれています。さらに、かつて不登校を経験した子どもや親の座談会で当事者の生の声を知ることもできます。
▼子どもが心身ともに休めるようになるには…
元気に学校へ行けなくなって悩む我が子を見るのは、親としてとてもつらいことです。そんな時、まずは子どもに肯定的なまなざしを注ぐこと。その子の
存在をまるごと受け止め、その子の中にともる命の灯を消さないことが大切だ、と西野さんは言います。
親や信頼できる大人にそんなふうに見守られれば、子どもは心身ともに休むことができ、やがて安心して過ごすことができるようになるのだそう。そして、
そうなって初めて外に向かおうというエネルギーが湧いてきて、自然に歩き出すと言います。

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それぞれ抱えている問題や状況は違うでしょうし、親の気持ちも日々揺れ動くもの。そんな時でも、不登校の子どもに約40年間寄り添い、その変化を目の当りにしてきた西野さんが教えてくれる「考え方のヒント」はきっと親にとっての道しるべとなることでしょう。

約40年間不登校の子どもと親に寄り添い、居場所作りをしてきた西野博之さんが、我が子の不登校に悩む親に向けて「考え方のヒント」をつづった1冊。その長い経験から不登校の子どもたちが見ている世界と、親が見ている世界の違いをマンガでわかりやすく解説し、子どもの心を回復させるための親の関わり方を提案する。