それは、有名ゲーム原作の映画が公開された時でした。
今まで映画はDVDで見ていた息子が、「映画館で見たい!」と言い出したのです。
息子もこの時、年長さん。映画館デビューにはちょうどいいくらいです。
そんなわけで、わが家は休日を利用して、息子と映画を見に行くことに。
しかし、これにはまさかの長ーい戦いが待ち受けていたのです…。
■息子、はじめての映画館!今まで、映画を見たい時は、私と夫どちらかが息子と遊び、どちらかが娘と映画を見るというパターンでした。
でも、今回は息子と映画を見られる!
しかし、夫は同じ時間帯に上映される違う映画を見たいと言い出し、夫ひとりチームと、私と子どもたちのチームに分かれ、映画を見ることに。
息子は早速ポップコーンとドリンクを買い、ニコニコ顔。
娘もうれしそうな弟にニコニコです。

そして、チケットを出して入場!
すると…。

通路でピタ、と足を止め、息子の表情が、ふと、曇っていることに気づきました。
「どうした…?」
「なんか…怖い…」え…!?
確かに映画館、チケット改札を抜けると、ショッピングモールやレジャー施設とはまた違う、独特の雰囲気が漂っています。
少し暗くて、微かに聞こえる重低音やいろいろな音…。
確かに、怖いと言えば怖い…。
「でも、今日見る映画は楽しい映画だから、シアターに入っちゃえば大丈夫だよ!」
息子の手を引くと…。
「怖い…」息子、まったく動きません。
こ、これはマズい…。
「ママ、はじまっちゃうよー!」
一方で娘はノリノリ。

とりあえず通路の真ん中で立ち尽くすのもあれなので、すみっこの壁に寄って私は息子を説得することにしました。
■通路で動けない息子「何が怖い?」
息子に聞くと…。
「わかんない…」その一点張り。
確かに、確かに気持ちはわかる…!
この独特の雰囲気、分厚いドアの先はどうなっているかわからない。
たまに怖い映画のポスターも貼ってあるし…!!
私は楽しげにシアターに向かうお客さんや笑顔の子どもたちを息子に見せながら、
「見て! みんな楽しそうだよ! そうまも大丈夫だよ!」
と息子に声をかけるも、
「………」
息子はフリーズしています。
どうしよう…。
そんなこんなしているうちに、上映時間になってしまった。
このまま見られないとなると、娘もかわいそうだし…。
「みーちゃん、ひとりで席行ける…?」
「行ける!!」
すでに映画鑑賞のプロとなった娘は、一人でも見られると息巻いています。
ちょっと不安だけど、娘は見たがっている。
説得したら後を追うから!と約束し、私は娘を見送りました。
この時、娘は小学三年生。頼もしくなったものだ…。
映画館デビューは娘もビビっていたけど…。
こうして息子と一対一になった私は、引き続き息子の説得に当たります。
説得と言うか、もうこうなったら、何を言ってもどうしようもありません。
息子が自分の気持ちを整理して踏ん切りがつくまで待つ、という表現が正しいのかもしれません。
私は、鳴くまで待とうホトトギスの精神で、息子が動くのを待つことにしました。
映画のチケットはそれなりに高いけれど
これで無理をさせて映画が嫌な思い出になってしまったら一番悲しい。
私は息子と手をつなぎながら、ボソボソとしゃべりながら、行き交う人々と流れる時間を見つめていました。

しかし、息子は動きません。
というか、やっぱり娘が心配になってきた…。
なんでこんな時に夫は一人、気楽に好きな映画を見てやがるんだ…。
という怒りを覚えつつも、映画鑑賞中は連絡するわけにもいきませんでした。
■ひとりで見に行った娘も心配どうしよう…娘を見に行きたいけど、息子は動かない…!
そこで、目が合ったのはチケット改札のお兄さん。
今はちょうど上映時間ど真ん中で、ちょっと余裕がありそうだ…!
「すみません、中の娘を見に行きたいので、その間、そこからで構いませんので!この子をちょっと見ていてくださいませんか…!」
厚かましい…! ごめんなさい…!!
恥ずかしさと申し訳なさで変な汗をかいていると…。
「はい! ずっと気になっていました! 見ているので行ってあげてください!」
神かーーーー!!
私は息子に動かないように告げるとダッシュでシアターへ。
娘、ちゃんと指定席に着けただろうか…。
ポップコーンをぶちまけて泣いてないだろうか…。
席に向かうと…。
「めっちゃおもしろいよ…!」娘、超余裕でした。
頼もしくなったものだ…。
一安心してまた息子と合流。
お兄さんにお礼をして、私たちはそのまま、10分、20分…。
一時間もの時間を通路で静かに過ごしました。
すると…。
「行ってみる…」ついに息子は、動いてくれました。
何がきっかけというか、本当にそういうことはなく、ゆっくりゆっくり、自分の心と向き合っていたという感じでした。
「よし、行こう!」
息子が席に着いた時には物語はもうど真ん中。
何が何やら理解するのに時間はかかりましたが、息子は笑顔で、瞳をキラキラ輝かせながら映画を見始めました。
連れてきてよかった。この瞬間、あの通路での一時間は一気に報われました。
そのまま私たちは映画を楽しみ、スタッフロール。
息子はぼそっと「もっとはやく入ればよかった…」と笑っていました。
そうだね。次はもっと早く入れるといいね。
こうして息子の映画館デビューは、笑顔で終わることができました。
その後、息子はすっかり映画館を好きになり。
今では大好きなヒーロー映画を公開初日に見に行くまでになりました。
怖い時は何を言われても怖いし動けない。
でも、時がくれば進むことができる。
きっと何事もそう。
そんなことを教えてもらったような、そんな息子の映画館デビューでした。
今回で私の連載はおしまいになります。
これからもボロボロながら楽しく育児していく様子をSNSで発信していこうと思います。
お付き合いありがとうございました!
(たんこ)