■人に物を渡すって、簡単なことじゃない週末、久しぶりに娘と一緒に衣替えをした。
芽依は「これ、もう小さいね〜!」と嬉しそうに服を引っ張っては、自分の成長をアピールする。
「ねぇママ、これもお友だちにあげる?」
そう言って彼女が差し出したのは、去年の春にヘビロテしていた黄色のワンピース。シミはないけれど、袖口の色は少しだけあせていた。

私はそう言いながら、その服を丁寧にたたんで、そっと収納ケースにしまった。
芽依は不思議そうな顔をしたけれど、すぐに別の服に目を向けて笑っていた。
本当は――誰かに着てもらえるなら、それは嬉しいことだと思ってた。服は、しまい込むより着てもらった方がいい。
でも、それと同じくらい、「人に物を渡す」ってことは、やっぱり簡単じゃない。
■あの日以来、転売したママ友と話すことはなく…私は、服を譲ったつもりになっていた。
よく考えてみたら“あの頃の娘”との思い出も全て、そこに詰まっているものを渡して、後ろ髪を引いていたのだ。
だから、それがあっさりと売り物になっていたのを見たとき、「大事なものを捨てられた」と感じたのだと思う。
善意で譲ったはずなのに、見返りを求めてたわけじゃないのに。
それでも、気持ちを踏みにじられたように思ってしまった自分がいた。
あの日以来、えりかさんと話すことはなくなった。
必要な挨拶だけを交わして、それ以上は深入りしない。きっと向こうも同じように思っているはずだ。
無理に分かり合おうとしない。その距離が、今の私にはちょうどいい。
衣装ケースのふたを閉めると、カチッと軽い音がした。
部屋の中に差し込む春の日差しが、芽依の髪を優しく照らしていた。私はその光の中で、ふとつぶやいた。

だけど、それが自分だから。
これからは大事なものはちゃんと手元に置いておこう。たとえ、誰かが困っていたとしてもーー。
※この漫画は読者の実話を元に編集しています。また、イラスト・テキスト制作に一部生成系AIを利用しています。
(ウーマンエキサイト編集部)