(c) takasu - stock.adobe.com
毎日、子育てをしていて、何となく不安…。それは、もしかしたら「子どもを育てる土台」が整っていないからなのかもしれません。
では、子どもを育てる土台とは、何なのでしょうか? カリスマ的な人気がある元小学校校長の木村泰子先生と、子育てスキルの解説に定評がある高山恵子先生の対談から筆者が探ります。
●木村泰子(きむら・やすこ)先生
文部科学省特別選定にもなったドキュメンタリー映画「みんなの学校」は、2015年2月に封切られてロングラン、今もなお全国の自治体などで自主上映され続けています。木村泰子先生は、この映画の舞台である大阪市立大空小学校の初代校長。2015年に退職後は、全国各地で公演活動を行っています。
》「『みんなの学校』流「生き抜く力」の育て方」
●高山恵子(たかやま・けいこ)先生
NPO法人えじそんくらぶ代表。保育所・幼稚園などへの巡回指導を通じて、子育ての現場支援に携わっています。著書に『しからずにすむ子育てのヒント(高山恵子/Gakken)』など、子育てのスキルをのわかりやすい解説に定評があります。「ママのストレスを少しでも減らしたい!」が、活動の原動力。
》「ママのためのアンガーマネジメント」■「子どもが言うことを聞く」ために必要なこと(c) maroke - stock.adobe.com
―子どもが全然言うことを聞きません! そんな時、どうしたらいいですか?木村泰子先生(以下、木村):子どもへの関わり方は、「手法」ではありません。子どもが「この目の前の大人は、自分のために言っているよな」と感じるときは、「うるせぇな」などと表面的にどれだけ悪態をついていようが、必ず自分の身体のなかに、その言葉をトンと沁み込ませています。
子どもは、目の前の大人が、
「本当に自分のために言ってくれている」と感じたときは、必ず大人を信用します。これはすべての子どもがもっている「本能」なんです。
高山恵子先生(以下、高山):子どもに言うことを聞いてもらうには、まず
信頼関係が基本です。「教える」という土台には、人間同士の信頼関係が大切です。「自分のことをわかってくれている人だ」と子どもが感じられることが基本なんです。
■子どもが信頼できる大人の条件とは?(c) paylessimages - stock.adobe.com
―では、子どもと信頼関係を築くには、どうすれば良いのでしょうか?木村:子どもが本当に困ったとき、
「信頼できる大人の条件」って、どんなことだと思われますか? これについて、大空小学校の校長をしているときに「そこなのね?」と、衝撃的に学んだ事実があるのです。
高山:ぜひ、伺いたいですね。
木村:(他人を信頼していなかった子どもが校長である木村先生だけ信頼した理由を)「だってな、校長先生は最後までずっと横にいとってくれる」と、言ったんです。それだけです。
「ただ、横にそっとおるだけや」という話です。助けてくれるわけでも、ためになる話をするわけでもないけれど、最後の最後まで横にいる。
高山:たしかに「寄り添う」ということ、とても大事ですね。大人は、頭では理解をしていると思うんです。ただ、じつは、「子どものかたわらに、ただいる」って、すごく難しいですよね。
子どものかたわらにただいるということが、「すごく難しいこと」になってしまっているのは、ママたちが
「この子を、自分が正しく導かなければならない!」という使命感をもっていらっしゃるからなんだと思うんです。
―毎日、「子どもにやらせるべきToDo」に追われています高山:子どもに対して、いろいろなことをやらなければいけないという思いが強くて、ママたちは、なかなか「まず寄り添う」という気持ちになれないと思います。
だからこそ、
「寄り添う」ということを
「意識して、やっていこう」という気持ちが、大切だと思います。そうするうちに、だんだんと子どもに自然と寄り添い、評価せずにただ話を聴くことができるようになって、信頼関係も生まれていくのだと思います。
■子どもと信頼関係を結ぶために知っておきたいこと(c) yamasan - stock.adobe.com
―おっしゃることはわかります。でも、なかなか、そう切り替えられません。高山:子どもが大人の言うことを聞く、つまりは子どもがスムーズに学ぶためには、
子どもの心身が安定していないと難しいんです。これに関して、私はよく「マズローの欲求階層図」のお話しをしています。難しい理論のように聞こえるかもしれませんが、これは大学の教育系学部では必ず学ぶ、教育のベーシックな知識なんですよ。
●マズローの欲求階層図『「みんなの学校」から社会を変える: 障害のある子を排除しない教育への道』より抜粋。ウーマンエキサイト編集部にて作成
高山:アメリカの心理学者マズローは、人間には基本となる欲求が5つあり、それは階層になっていて、下から順に満たされると良いと考えました。(上記の図参照)
ここでのポイントは、「欲求には優先順位があり、下から順に満たしていくことが大切」という点です。どういうことかというと、人はまず図の@からCまでの欲求が満たされてから、Dの「自分の能力を発揮して何かを成し遂げたいという気持ち(自己実現欲求)」が起こる、という考え方なんです。
つまり、ママが子どもと信頼関係を結ぶことができれば、「A(安全欲求)」「B(所属・愛情欲求)」、「C(自己承認欲求)」が満たされます。そうして初めて、「子どもが言うことを聞く耳を持つ」状態になるんです。この理論が頭に入っていると、急がば回れ、子どもが言うことを聞くためには、
「親子関係の土台づくりから」という気持ちになりませんか?
いかがでしたか? ママは、溢れかえる育児情報の中で、ついつい「アレもコレも」と思ってしまいがち。けれども教育学の知識が少しあるだけで、情報を「間引き」するヒントになりそうです。
<親の意識を変えるポイント>
1)子どもは、信頼関係が築けている大人の言うことは聞く
2)子どもと信頼関係を築くには、「寄り添う」ことが大事
3)マズローの欲求階層図で、「子どもが言うことを聞く耳を持つ」までの過程を理解する
(c) UTS - stock.adobe.com
■参考文献
『「みんなの学校」から社会を変える: 障害のある子を排除しない教育への道』(木村泰子・高山恵子 著/小学館刊 本体800円(税))
(楢戸ひかる)