誕生から11年、『LINEスタンプ』の現在地 トレンドは「既読以上、スタンプ未満」の“カワイイ”から“やさしい”に変化
2022-12-23 07:30 eltha
■初のスタンプは“ムーン”1種類のみ 「いかに表情やしぐさが表現できるかを重視」
『LINE』が生まれたのは、2011年6月23日。家族や友人など、身近な人と無料でコミュニケーションをとることができるスマートフォン向けサービスとして誕生した。トークを彩る機能を持つ「スタンプ」は、4ヵ月後の10月に登場。ガラケーに比べ大きくなったスマホの画面に合わせ、デザインも含め今までとは違った感覚のスタンプを模索。最初は、現在も人気のキャラクター“ムーン”1種類からスタートさせた。
リリース後の反響は上々。トークに添えるスタンプとして活用されるようになったムーンの特徴は、表情にあると渡辺氏は語る。
「キャラクターを育てようというよりは、いかに表情や仕草が表現できるかを重視して生まれたのがムーンです。ムーンは性別も分からないし、表情に振り切っているキャラ。その後、性別や動物など違う要素を加えた“コニー”や“ブラウン”など、様々なキャラが誕生しました」
半年後の2012年4月には「スタンプショップ」がオープンし、それまで無料配信だったが、有料のものや、コラボスタンプなどが誕生する。しかし当初は実績のないアプリに積極的に参加する企業は多くなく、試行錯誤しながら努力を重ねる日々が続いた。
「実績がないとなかなか先方の意思決定が難しいこともあり、2012年はいかにスタンプをリリースして、買っていただき実績を作るかを考えていましたね。その後、徐々に色々なコラボが実現し、グローバルに使われるものも生まれていきました。日本のマンガやアニメの文化に支えられた部分は、非常に大きかったと思います」
なかには、リリース当初からLINEスタンプのおもしろさに気づき、賛同してくれる作家も。種類が増えていくことでユーザーからの認知度も高まり、スタンプは国内だけでなく海外でも使われるまでに成長を遂げていったのだ。
■“クリエイターズマーケット”が転機に グローバル展開はもちろん、身内だけで盛り上がるコミュニティも形成
同サービスは、LINEに登録している人なら誰でも、オリジナルのスタンプや絵文字を作ることができるシステム。それまでは数十万個、数百万円の売り上げが見込めないと作れなかったスタンプが、身近な人に少数でも届けば作れる世界ができあがり、手軽に作ることができるようになったのだ。
リリースと当時に、審査が追いつかないほどたくさんのクリエイターが登録。最近では、子どもやペットの写真からスタンプを作れるアプリ「LINEスタンプメーカー」登場。コロナ禍でさらに登録者は増え続け、現在、「LINE Creators Market」の登録クリエイター数は500万人以上、販売中のスタンプは1500万セット以上のマーケットに成長した。
また、LINEスタンプをきっかけにキャラクターがグッズ化されるほど人気になるクリエイターも。2015年を象徴するクリエイターズスタンプLINEスタンプのグランプリに輝いた「うさまる」は、sakumaruさんが作り出したうさぎのキャラクター。ゆるかわの見た目が癒やされると人気を呼び、アニメやオリジナルグッズが生まれるなど一躍人気者に。最近でも、「サメにゃん」や「エビにゃん」など、エビフライやサメを被った猫のキャラクターを生み出したmofusandさんは、ファッションブランドや100円ショップとコラボした商品を発売。LINEスタンプ発のクリエイターが、業界を牽引する存在に。
LINE株式会社では、こういったクリエイター発掘のために、「LINE Creators Support Program」という独自のサポートプログラムを実施。編集者的な立場で、アドバイスしながら支えている。
「データを元に、将来有望なクリエイターを毎年3〜10名弱選抜しています。“もっとこういう表情にするといいよね”など、コミュニケーションを取りながらサポートしている状態です」
最近では、イラストレーターの名前は知らなくても、スタンプのキャラクターは知っていることも多いはず。LINEスタンプは、無名の一般人でも有名になれる新たな生き方を作ったと言えるだろう。
■スタンプの売上は過去最高も「成功とは言えない」 形態も反応も“かわいい”から“やさしい”に変化
LINEスタンプが登場した当時と現在で大きく違うのは、スタンプをリリースする文化が定着したこと。今やスタンプはアニメやドラマなどの映像だけでなく、行政や地方自治体からも発売され、認知度アップにも貢献している。
形態も、カスタムやメッセージ、エフェクト、ボイス付き、サウンド付きなど進化を遂げてきた。4〜5年前までは、リリースされたスタンプに含まれる形容詞のうち「白い」、「丸い」、「かわいい」が上位を独占する状態だったという。しかし最近では、「やさしい」というワードが新たに登場し、1位を獲得したことも。
「あまりスペースを取らないタイプも人気です。あと“絵文字”をスタンプとして使うと、小さくコンパクトに使えるんですよね。コメントの吹き出しに表情で応えられるメッセージリアクションも人気です。通知はいかないけれど、“見ている(既読)”という気持ちが伝わる“既読以上、スタンプ未満”のやさしさが表れているのかもしれません」
誕生から11年を経て大きく成長したLINEスタンプは、売上も右肩上がりで、過去最高の状態だ。しかし渡辺さんは、まだ「成功したとは言えない」と話す。
「いいマーケットに育ってきたと思う一方で、まだまだユーザーのニーズに答えられていない面もあると感じています。スタンプの種類が増えたことによって『探しづらい』や『使いづらい』などといった課題点も多くいただいているので、今後も改善を続けていきたいと思っています」
また、Twitterやインスタグラム、TikTokなど様々なSNSの登場で競争が激化していることに対しては、「適切な危機感を持ちたい」とも。
「LINEはソーシャルというよりは、身近な関係性の人とのコミュニケーションがベースにあります。『LINEのIDを共有し合う』という密接な関係は重要なポイントだと思うので、そこでおもしろいと思えることをやっていきたいですね」
さらに、初めてLINEが登場した時のような新しい驚きを提供することも目標だ。
「1999年にiモード、2011年にLINEが誕生。サイクルが必ずしも10年程度で動いているとは言えないですが、2022年になった今、次なるものも提供していかないといけないと思っています。便利なツールとして成長したLINEを大事にしながらも、ユーザーの会話をさらに豊かにするような、あっと驚くサービスを模索したいですね」
発売から11年、最初のスタンプとして登場した原点の“ムーン”は、今でも多くのユーザーが新作を待ちわびている人気スタンプの一つだ。愛されキャラとなったムーンが初めて誕生した時のように、次はどんな驚きを届けてくれるのか楽しみに待ちたい。