車椅子で「ラーメン二郎」亀戸店に来店、神対応にジロリアンも称賛「生きてて良かった!」
2024-05-10 08:30 eltha
■温かいコメントに驚き、他の飲食店も広がってほしい対応
もともと予備校で世界史を教えていた諸岡さんは、5年前に病気が原因で重度の身体障害者になったという。「自分が障害者になるなんて夢にも思っていませんでした」と語る諸岡さん。現在はYouTubeの自身のチャンネル『諸岡の世界史』で時事問題の解説、世界史の授業動画を公開している。
――投稿には「素晴らしい対応」「味も接客も最高」とたくさんの声が寄せられていました。
【諸岡浩太郎さん】想像を超える大きな反響でした。車椅子に関しては、心ないリアクションが寄せられることが多いのでXに書くのは控えていました。今回は、同居する彼女に亀戸二郎の対応を話すと、これは書くべきだと促されたので書きました。店主への感謝の言葉が広がることで、他の飲食店でもこのようなバリアフリーを意識した対応が広がることを期待しています。
――「生きてて良かった!と思うくらい美味しかった。味も接客も最高」と亀戸店の店主への感謝の言葉も投稿されていました。
【諸岡浩太郎さん】スマートな対応に感動しました。とってつけたような対応ではなく、あらかじめよく考え抜かれた対応だと感じました。『車椅子でも大丈夫ですか?』と店内に声をかけると、すぐに店員さんが出てきて、『車椅子で入れる席はカウンターの左端の席になります。席が空くまで外でお待ちください。提供する順番は変わりません』と説明を受けました。
――『提供する順番は変わりません』、その一言があるだけで印象が違いますね。
【諸岡浩太郎さん】はい。店内に入ると、同行するヘルパーさんに、『食べなくても大丈夫なので、もしよかったら隣の席に座ってください』と言いながら、ヘルパーさんにも水差しとコップを出してくれました。一人でも多くの客を入れようと思えば、この1席は無駄になるのに。こうした配慮はなかなかできるものではありません。私は腕と首しか動きません。食べやすいようにと、私はなにも言っていないのに、親切にもレンゲと小さな器を出してくれました。店主に『最高に美味しかったです』と声をかけると、こちらの目を見て笑顔で挨拶してくれました。
■学生時代から二郎ファン、創始者の想いを亀戸店でも感じた
――極太麺の大盛りラーメンの代名詞の「ラーメン二郎」ですが、諸岡さんもジロリアン(ラーメン二郎愛好家)だったんですか?
【諸岡浩太郎さん】大学が慶應だったので、三田の本店に学生時代からずっと通っていました。二郎歴は30年以上になります。私のコールは『野菜少なめ、アブラ、カラメ、ニンニク』。亀戸店はスープが非乳化で、醤油の旨みをダイレクトに感じる好みの味なんです。二郎の創始者である山田拓美さんは、一見、気難しそうですが、心遣いの細やかな方です。カップルが来ると、必ず並んで座れるようにしてくれます。いつも豪快に笑っていて、店主を見るだけでいつも癒しになっていました。亀戸二郎の店主にも、その温かい心配りの精神が受け継がれていると感じました。
――諸岡さんの投稿へ亀戸店からもリアクションがありましたね。お店からは「当店に対する心のハードルを下げて」という言葉もありましたが、ご覧になっていますか?
【諸岡浩太郎さん】もちろん見ました。あまりにバズったので、車椅子の客が多く集まってしまうことを私も心配しました。なにしろ車椅子用の席は1つなので…。
――やはりラーメン店などの場合、車椅子を利用されている方は、カウンターメインの飲食店というのは避けがちですか?
【諸岡浩太郎さん】ラーメン店に限らずですが、車椅子生活になってから、まず気にするのは『段差』です。飲食店に行くときは、食べログなどで写真をチェックして、車椅子で入りやすいかを確認します。そして、たいていは電話で『車椅子でも大丈夫ですか』と事前に問い合わせます。ビストロなどは10軒問い合わせて、10軒とも断られたことがあります。
カウンターメインだから避けるということはありません。カウンターよりも大切なのは『スペース』です。車椅子で店内に入るスペースがあるかということ。亀戸店のスペースは狭いのですが、はじめから車椅子は左端の席と指定してあるので、かえって入りやすかったです。
■5年前に車椅子生活に…「バズっても書き込みは見ない」
――最初に諸岡さんもおっしゃっていましたが、車椅子だけでなく障害についての投稿は、SNSでは温かい声だけではなく、様々な意見が寄せられます。
【諸岡浩太郎さん】こんなふうにバズったときは、コメントを読まないようにしています。心ない書き込みがあるとわかっているので、精神衛生上、見ないようにしているのです。
――場合によっては批判的な声を向けられることもあるかと思います。そういった意見を向けられることへの想いをお聞かせください。
【諸岡浩太郎さん】相手が“障害者”というだけで、上から目線で偉そうな態度になる人たちがいることを、障害者になって初めて知りました。しかし、そういう人間はどの社会にも一定数いるものです。基本的には、この国の多くは善良で親切な人たちです。いままでに2度、路上で倒れて起き上がれないことがありました。そんなとき、即座に駆け寄って助けてくれた優しい人たちの顔を私は忘れません。
現在、電動車椅子でも電車やバスに乗ることができます。こうなるまでには多くの障害者たちが、健常者に“わがまま”と罵倒されながら権利を主張する苦難の歴史があったはずです。障害者は、電車やバスなどの公共交通機関が使えるだけで劇的に活動範囲が広がります。“わがまま”かどうかを決めるのは、障害者を攻撃する人たちではなく、国際社会の動向も踏まえたこの国の人権意識です。
また、バリアフリーの恩恵を受けるのは障害者だけではありません。高齢者も病人も疲れた人も、駅のエレベーターには助けられているはずです。そして、誰もが障害者になりうるのだということ。弱った人間に優しい社会こそ、成熟した市民社会だと私は思います。