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【起業家】ジェンダー平等の実現と乖離した日本の服装文化…女性向けのメンズ仕立てスーツを作るワケ「スーツに性別は必要ない」

2022/01/20

 体型に合った女性向けのメンズ仕立てスーツや生理用ナプキン対応のボクサーパンツなどを販売している「keuzes(クーゼス)」。LGBTQの当事者である代表取締役・田中史緒里さんは、「成人式や結婚式で女性が着れるメンズスーツが存在しない」という実体験からブランドを設立。「ジェンダー平等の実現」はSDGsの取り組みのひとつであるが、未だに日本では「就職活動ファッション」が変わらずテンプレ化されている。そうした現状や同社設立の背景について、田中さんが自身の経験を通して語った。

着ていくスーツがなくて成人式を欠席…服装を理由にいろいろなことを諦めてしまっていた

――「keuzes」を立ち上げた経緯について教えてください。

田中史緒里さん 高校生2年生の頃に、「振袖は着たくない…」と成人式について考えていました。レディーススーツはシルエットが強調されるイメージがあり、その時に初めて女性が着れるメンズスーツについてネットで調べてみました。紳士服販売チェーンの「洋服の青山」や「AOKI」に行けば買えることを知りました。でも当時、茨城の田舎に住んでいた私は、「もし知り合いに会ったら…」「メンズスーツが欲しいと言ったら、店員にどう思われるのだろうか…」といろいろ考え、勇気がなく店舗に買いに行くことができませんでした。そして成人式に出席することを諦めました。

――その後、18歳で上京。改めてスーツについて考えるタイミングが来たとのことですが。

田中史緒里さん 20歳の頃に友人が結婚式に招待してくれました。そこでまたスーツを探さなくてはいけないタイミングがきました。都会に行けば女性でも着れるメンズ仕立てのスーツがあると思っていましたが、高校生の頃と何も変わっていませんでした。しかたなく、セットアップのような洋服を買い、参加しました。友人の幸せな姿が見れて嬉しい反面、これからも服装で悩まなくてはいけないのか、という複雑な気持ちになりました。その結婚式の後、「スーツが欲しいけど、どうしたらいいの?」と同じ悩みを持つ友人に相談されました。その時に、どれくらいの人が服装を理由にいろいろなことを諦めているのだろうかと思い、keuzesの立ち上げを決めました。

――いつ頃から性について考えるようになったのでしょうか?

田中史緒里さん 今でも自分自身と向き合い、100%自分を理解できているかと言われると難しい部分もあります。LGBTQの当事者だということを受け入れるようになったのは、上京した18歳の時でした。幼少期から違和感に感じることはあったものの、性について向き合うことをしてこなかったので、悩みもほとんどありませんでした。成人式を迎えるタイミングで、「少し周りとは違うのかもしれない…」と感じていました。でもその時は、事実を受け入れることや向き合うことができませんでした。

メンズスーツをただ小さくすればいい…女性らしいシルエットを出さない工夫を

――自身の性について受け入れるきっかけとなった出来事があったのでしょうか?

田中史緒里さん 初めて就職した会社に、当事者である方が数名いました。その同僚との出会いが転機になりました。自分自身で受け入れたというよりは、同僚が自分らしい方向へ導いてくれたことで、自然と受け止めることができました。

――その後、田中さんが25歳の時、2020年12月に「keuzes」を設立。体型に合った女性向けのメンズ仕立てスーツは、“メンズスーツをただ小さくすればいい”のではないのでしょうか?

田中史緒里さん 私も事業を立ち上げる前は、同じように思っていました。女性の場合、骨盤が男性よりも広がっているため、メンズスーツを小さくしただけでは骨盤が目立ってしまいます。また胸やウエストなど、体の凹凸にも対応できていないため、緩い箇所やきつい箇所が発生します。「女性らしいシルエットを出さない」ということに注意しながら仕立てています。

――簡単には作れないということなのでしょうか?

田中史緒里さん 事業を立ち上げる上で、一番苦労したのは工場探しでした。メンズとレディースで工場がわかれている上に、予めサイズも工場で決められている。こちらがお願いしたいサイズに対応できる工場がありませんでした。何社も連絡を取るなか、唯一1社だけ「なぜそういうスーツを作りたいのか?」と聞いてくれました。そこで私の経験を元に、スーツの必要性をお話ししたところ、生産を受けてくれることになりました。

――Keuzesを通して実感したことはありますか?

田中史緒里さん 自分が思っている以上に服装で悩んでいる人が、たくさんいるということを知りました。仕事着としてスーツを注文してくれたお客さまは、職場の男性に「女性なのになんでメンズスーツを着ているの?」と言われたそうです。普段着であればボーイッシュな服を着ていても、友人や家族から何か言われることもありません。しかし、成人式や結婚式、職場となると、服装マナーが性別でわけられている。女性がメンズパターンのスーツを着るということは、とても勇気のいることだと思います。

――「生理用ナプキン対応のボクサーパンツ」も販売されていますが、どのような経緯で商品化されたのでしょうか?

田中史緒里さん 「下着を買いに行きづらい」「履けなくなるまで使うことが多い」「理想的なものが無く、近いもので断念している」「形はボクサーパンツが好きだけど、生理用品が着けられないから困っている」など、お客さまから下着に関する相談も多く受けました。下着は消耗品にも関わらず、私自身も頻繁に買うものではなくなっていたことに気がつきました。理想の商品がなく、我慢して違うものを選び、諦めてしまっていた。誰でも自分らしくいられるようなきっかけや選択肢を作りたいと思い、下着の販売もスタートしました。

スーツに性別は必要ない、性別に関係なく全ての方が利用できるサービスにしたい

――現在、競合企業はあるのでしょうか?

田中史緒里さん 競合企業はありません。一番になること以上に、今後同じようなサービスが増え、より多くの人がストレスなく好きな服を買うことができるようになることが、重要だと思います。

――なぜメンズパターンのオーダースーツにこだわったのでしょうか? 近年は、レディースとメンズを区別せず着用可能な洋服も増えています。男女兼用で着れるようなジェンダーレスなスーツではダメなのでしょうか?

田中史緒里さん スーツをかっこよく着こなしたいというのもありますが、私の経験を元にkeuzesを立ち上げたので、今は女性の体に合うメンズ仕立てのスーツ販売を行っています。また、スーツや洋服に性別は必要ないということを伝えるためでもあります。最終的には、性別に関係なく全ての方が利用できるサービスにしていきたいです。

――「ジェンダー平等の実現」はSDGsの取り組みのひとつです。近年は、ジェンダーレスな学生服が取り入れられていますが、「就職活動ファッション」は変わらずテンプレ化されています。SDGsへの取り組みとも乖離した現状について、どのように思いますか?

田中史緒里さん 私個人の考えとしては、そうした就活ルールのようなものは、撤廃していいのではないかと思います。自分が好きな姿で就職活動を行ってほしいし、個性や考え方、人間性が少しでもわかるきっかけが、服装にもあると感じています。しかし、会社全体が一致団結して進んでいくために、足並みを揃えるという意味では、皆が同じように見える「就職活動ファッション」も必要な場合があるのかなと思う部分もあります。とても難しい決断であり、根深い問題だなと感じています。

――LGBTQ当事者として伝えたいことはありますか?

田中史緒里さん 私自身は、辛い過去や当事者であることを悩んだことはありませんでした。何かアドバイスができる立場ではないと思っていますが、私目線の意見や体験を伝えることで、少しでも自分を肯定できるきっかけになれたら嬉しいです。
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