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絵本の読み聞かせ、“本来の目的”とは? 育むべきは「親と子の関係性」

2023-01-31 eltha

語彙力を養う教材としての期待値が高まる、絵本の読み聞かせ

語彙力を養う教材としての期待値が高まる、絵本の読み聞かせ

 SNSでは子の発達の早さを話題にする投稿が目につき、テレビでは東大生が活躍して親の教育法にまで関心が集まる。家庭で取り組む“絵本の読み聞かせ”においても、語彙力や思考力を高めるものとしての期待値は高いが、「1日○冊読む」ノルマを課したり、興味のないジャンルの絵本を無理矢理読んだり、親のエゴが入りすぎてしまうことも。幼いうちから教育に力を入れなければと取り組む一方で、“天才を育てようとすること”に疲れている世の機運も感じる。絵本や物語を通じた英語教育を手がけるラボ教育センターの竹内美貴子さんは「絵本の読み聞かせの“本来の目的”は、別のところにある」と話す。

絵本の読み聞かせの最大のメリットは自己肯定感と親子の絆を育めること

「語彙が増える」「読解力を養う」など、“育脳”のツールとして脚光を浴びている絵本の読み聞かせ。近年は学習面での効果にばかり注目が集まるが、竹内さんは「本来の目的は違う」と話す。

「絵本は文字を学ばせ、知識を与えるために読むものではありません。そう思っている方が多いために、文字が読めるようになると読み聞かせをしなくなるご家庭も多いですが、絵本は子どもの心を満たすためのものであり、絵本の読み聞かせは、その楽しい時間を読んでくれる人と共有し、絆を深めることができるコミュニケーションの手段です。ですから、文字が読めるようになってからでも、子どもが『自分で読む』とか『もういいよ』と言わない限りは、読んであげてほしいと思います」

 そのメリットを表すこんな具体例を挙げてくれた。

「『三びきのやぎのがらがらどん』や『三びきのこぶた』など、絵本には“3”をテーマにした作品があります。これらは“2”だったら、一か八か、成功するかしないかになるけれど、“3”であることで、失敗して失敗しても、もう1回挑戦するんだと思えるお話になっています。また、『おおきなかぶ』では最後に一番小さいねずみが出てきたことでかぶが抜けますが、これは、小さい存在でも十分役割があるんだ、だからさまざまな人がいていいんだ、僕は僕でいいんだと思えるお話です。このように絵本は子どもの心を育むとともに、子どもはそのお話を読んでもらうことによって、読み手に大切に思われていることも実感できます。その両方が子どもの自己肯定感につながるんです」

 将来、経験するであろうさまざまな困難や問題を乗り越える力の土台となるといわれる自己肯定感。それを育めることが絵本の読み聞かせのメリットということだ。さらに、読み聞かせを繰り返すことによって、結果、子どもには様々な力が備わると言う。

「絵本を読んでもらいながら、子どもは『なぜ?』『どうして?』など、自己内対話を促進させます。それを積み重ねることで、語彙も豊かになり、思考力や想像力も育まれていきます」

じっと聞いてくれない子どもへの対処法と、読み手がやってはいけない“あるある”

密着して”温もり”を感じさせることが重要

密着して”温もり”を感じさせることが重要

 そんな絵本の読み聞かせのメリットを得るためには、まず、子どもが聞いてくれる態勢を整えることが必要だが、幼少期の子どもにとって、これはなかなかむずかしい。竹内さんは、そんな“絵本読み聞かせあるある”の悩みについてこうアドバイスする。

「まず、どこかに行ってしまった場合は、それでも読むのをやめずに、そのまま読み続けてください。そして、最後まで読んだあと、『あー、面白かった〜』と言ってください。そうすると、子どもは何? あれは面白かったのか? と絵本に興味を持つようになり、読んでもらいたいと思うようになります。

 また、勝手にページをめくってしまったときは、興味がある絵があったからか、たまたまめくってしまっただけなのかはわかりませんが、その子が欲したところから読み始めてください。そういうことをしてしまう年代の子どもは、まだストーリーの因果関係がわかっていなくて、場面で切ってとらえている状態です。それでも、絵を見て、耳で聞いて、その絵の中で探しものをすることに楽しみを覚え始めています。根気よく繰り返していくうちに、絵本って楽しいと思うようになり、途中でめくることなく、最初から最後までお話を聞くようになるはずです」

 子どもが聞く態勢になる上手な読み聞かせ方法として、竹内さんは「膝の上に乗せて読んであげる」ことも薦める。

「読み手の温もりを背中に感じながら、重なり合ってひとつのものに向かうというのは、子どもにとってとても居心地がよいものです。そのことで一層、心を安定させることができますし、膝の上に座って読んでもらうことの心地よさを感じれば、絵本が好きになります」

 一方、読み手側にもやってはいけない“絵本読み聞かせあるある”があるという。

「読んでいる最中、『これ何色?』とか『これ何だっけ?』と子どもに質問したり、指さしをする方がいらっしゃいますが、絶対やってはいけません。子どもはお話を聞き、絵を見ながら、自分の頭の中で想像することを楽しんでいます。質問や指さしは、その楽しみを邪魔する行為です。同じ意味で、アドリブを入れたり、動きをつけるように絵本を動かしたり、絵の説明をするのも禁物です。極端に声を変えて演じるのも薦められません。読み手は余計なことは一切しないで、絵本に忠実にただ淡々と読むことに徹すること。大人の押しつけは、子どもの想像力の育成を阻害すると考えてください」

さまざまなジャンルとデザインの絵本を読んであげてほしい

図書館でボロボロになっている絵本は逆にねらい目

図書館でボロボロになっている絵本は逆にねらい目

 しかし、そもそも、絵本の読み聞かせが良いことはわかっていても、忙しくてなかなか時間が作れない家庭も多いことだろう。竹内さんは、「毎日1冊を読むなどのルールにしばられる必要はない」と助言する。

「読み手が楽しくなければ子どもは楽しくありません。ですから、決して無理はしないで、各ご家庭の事情に合わせて、例えば、今日は忙しくて子どもとの時間がゆっくりとれなかったから、せめて寝る前に1冊くらい絵本を読んであげようかしらと考えるくらいでいいと思います」

 ただし、どんなに忙しくても、子どもに言ってはいけないNGワードがあるという。

「子どもに『読んで』と言われたとき、『忙しいからダメ』とか、キレ気味に『ちょっと待って!』とは言わないでください。子どもは、絵本を読むことがママやパパは楽しみじゃないんだと思い、遠慮して読んでと言わなくなり、絵本そのものが嫌いになる可能性もあります。忙しくても、『洗濯物をたたみ終わったら読もうね』とか『寝る前に読もうね』など、子どもが楽しみに待てるように返答してあげてください」

 子どもが絵本を読んでもらうことを楽しみにする方法としては、シチュエーション作りも役に立つという。

「子どもが手に取りやすく、選びやすい場所に絵本を並べておいてほしいです。できれば、表紙が見えるように、季節によって作品を変えるのも子どもの心をくすぐる良い方法だと思います」

 では、数ある絵本の中から、どのような作品を選べばいいのだろう。

「私は自己肯定感を育むためにも、ハッピーエンドのお話をお薦めしています。中でも、アメリカのコールデコット賞など、賞を獲った絵本や、発行年が古い絵本はぜひ選んでいただきたいと思います。今、書店に並んでいる絵本には100年前に発刊されたものもあります。それだけの長い年月、販売され続けてきたということは、子どもに愛され選ばれてきた絵本ということ。これは賞を獲った本にも言えることですが、いい絵本は言葉が洗練されていますし、絵や装丁もとても考えられて作られているのでお薦めです」

 さらに「バリエーション豊かに選んでほしい」と竹内さん。

「乗り物が好きだから乗り物の本だけというのではなく、昔話やファンタジーなど、さまざまなジャンルの絵本を選んであげてください。大きさやカラーも、今はモノクロの絵本もありますので、さまざまなものを選んであげるといいでしょう。中にはいつも同じ本ばかり選ぶ子もいますが、1冊はそれを読んであげて、できればもう1冊は読み手が選んだ作品を読んでほしいですね。

 新たな本に出合うために、図書館に行くこともおすすめです。10冊くらい借りられると思いますので、3冊は子どもが選んで、7冊は保護者が選ぶというのがいいと思います。年季が入ったボロボロの絵本は多くの子どもに愛されている作品ですので、注目してみてください。子どもの新たな興味を引き出せるかもしれません」
取材・文/河上いつ子

おススメの絵本 BEST5

 最後に竹内さんがお薦めの絵本BEST5を紹介するので、選ぶ際の参考にしてほしい。

1.『かいじゅうたちのいるところ』(モーリス・センダック/冨山房)
「絵本の巨匠モーリス・センダックの最高傑作です。いたずらをして部屋に放り込まれた主人公マックスが、かいじゅうたちのいる島に行く物語。最後は、冒険から戻ったマックスをお母さんの温かいスープが待っています。月が満ち欠けし、イラストも大きく変化し、主人公マックスの心が解放されていく様子がていねいに描かれています。コールデコット賞、および国際アンデルセン賞を受賞作」
2.『三びきのやぎのがらがらどん』(マーシャ・ブラウン/福音館書店)
「ノルウエーの昔話。山に登って太ろうとする三びきのやぎを,山に住んでいるトロルが『ひとのみにしてやるぞ』と立ちはだかります。北欧の自然の中に住んでいる妖精トロルを相手にたたかう三びきのやぎにドキドキ、ワクワクします。昔話によく登場する3の数字。1回、2回と失敗しても、もう一度挑戦しようとする勇気を子どもは身につけることでしょう」
3.『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』(バージニア・リー・バートン/福音館書店)
「毎日同じことのくり返しで飽きてしまっている機関車のちゅうちゅう。自分もひとりで早く走って注目をあびたいちゅうちゅうは、ある日、機関庫を飛び出します。主人公が旅に出て成長して戻ってくる物語。冒険心と、失敗をしてもまわりの人が温かく迎え入れてくれることを、子どもが感じられる作品です。文字も場面にあった配置になっていて,イラストの一部のように感じられます」
4.『てぶくろ』(エウゲーニー・M・ラチョフ/福音館書店)
「雪の森でおじいさんが落としたてぶくろに,次々と動物たちが住み始めます。おおかみやくま、いのししまでやってきて、てぶくろはいっぱいに。ウクライナの昔話で、動物たちにはウクライナの民族衣装が描かれています。動物が増えるたびに、てぶくろの家の造りが変化していき、てぶくろのなかで何が起きているのか、想像するのが楽しい絵本です」
5.『ねむりひめ』(フェリクス・ホフマン/福音館書店)
「グリム童話。ある国の王とお妃のもとに待望の女の子が生まれ,盛大なお祝いが開かれます。けれどもひとりだけ招待されなかったうらないおんなが『ひめは、15になったら、つむにさされて、たおれてしぬ』と叫びます。やがて15歳になった姫はつむに指を差し、深い眠りに落ちてしまうのでした。絵本の隅々にさまざまな登場人物のドラマが描かれ、それを探すのが楽しい絵本です」
竹内美貴子

監修者 竹内美貴子

株式会社ラボ教育センターが運営する幼児教室・英語教室「ラボ・パーティ」
https://www.labo-party.jp/

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