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卵子凍結や体外受精と子どもの障害…その関連性は? 実情を医師が解説「いろいろな知識が混在してしまっている」

2023-11-22 eltha

様々な憶測で語られがちな卵子凍結

様々な憶測で語られがちな卵子凍結

 今秋、東京都が18〜39歳の都内在住女性に対し、卵子凍結にかかる費用の助成を発表し、2000人超もの応募があったことが話題となりました。病気の治療によって妊娠できなくなる可能性がある人を対象とした「医学的卵子凍結」に対し、東京都が行ったのは、将来の妊娠に向けて、キャリアを築きながらも加齢による妊娠率低下の影響を回避するための「社会的卵子凍結」。この言葉の浸透により、卵子凍結を考える人は以前よりも増加傾向に。その一方で「凍結された卵子って劣化しないの?」「子どもの障がいに関わるのでは?」「金銭的余裕がないと難しい」など様々な意見も。憶測で語られることが多い卵子凍結について、さらにその後の体外受精について、そのメリット、デメリットなど正しい知識を、神宮外苑ウーマンライフクリニックの小川誠司医師に教えてもらいました。

卵子凍結の助成開始も「どういう人が優先的に受けるべきかきちんと考えて」

 卵子凍結とは、卵巣から採取した卵子を凍結し、長期間の保存を可能にする療法です。若い年齢での卵子を保存でき、妊娠したいと思ったタイミングで融解し、顕微授精することで、妊娠を可能にできるので、加齢による卵巣や卵子の老化など妊娠のタイムリミットを案じることなく、妊娠・出産を自分のライフスタイル内で考えることができます。そして、「卵子凍結をする人はここ1〜2年で増えている」と小川先生。さらに「東京都など自治体からの助成金が出るようになれば、今後、もっと爆発的に増えるだろう」と予想します。

 しかし、だからこそ、「どういう人が優先的にやるべきかをきちんと考えてもらいたい」と先生は問題提議します。

「日本生殖医学会のガイドラインでは、卵子の採卵は40歳未満までと示されていますが、私は卵子の質が下がってくる35〜36歳の方が積極的にやるのが効率的なのではないかと考えています。というのも、20代で凍結したとしても、35歳くらいで結婚すれば自然妊娠する場合があります。反対に、40代過ぎると、凍結しても使わずに終わったり、卵子自体が良い状態ではないので、結局、解かしてもうまく受精できない可能性も高いからです」

 保険診療ではないため、治療にかかる金額はすべて自費となります。何年も冷凍保存しておけば、毎年保存料もかかるので、決して、気軽に行えるものではありません。さらに、選択にあたって、先生は、もうひとつ、考えておいてほしいこととして、“覚悟”を提示します。

「20代で凍結して45歳で使うとなったとき、卵子が若ければ当然妊娠することはできます。しかし、妊娠後はその時点での母体の状態が関わります。当然、高齢出産になりますので、早産や高血圧など、出産時のリスクは高まります」

 さらに、凍結する前、まず、卵子を採取する際にはこんなデメリットも覚悟しておかなければなりません。

「卵子の場合ある程度数が必要になりますから、そのために卵子を育てる注射を受けてもらうことになります。そのために何度も通院していただかなければなりませんし、注射の痛みも伴います。出血や感染など採卵によるリスクもゼロではありません。また、卵子をたくさん採ると卵巣が腫れるので、おなかが張るという症状も出ます」

注視すべきは「体外受精をしなければ妊娠できなかった患者さんの背景」

日本における体外受精による双子の妊娠率は世界で一番低い

日本における体外受精による双子の妊娠率は世界で一番低い

 卵子凍結においては、その後、体外受精(顕微授精)へとステップを進めることになるため、障害児のリスクを気にする声も聞かれます。これに対して先生は「いろいろな知識が混在してしまって、あらぬ心配をされている方が多い」と案じます。

「お母さんの年齢が上がれば、卵子の質が低下し、染色体異常のお子さんが生まれるリスクが高くなるのは事実です。とくに染色体の数の異常で生じるダウン症に関しては、30代だと1000人に1人くらいのリスクですが、40歳になると10倍になるというデータがあります。一方、体外受精で異常な赤ちゃんが生まれるかどうかについては、あるという論文とまったくないという論文がありますが、一般的にはリスクは高くないと言われています。ではなぜ、高くなるというデータが出てくるのかというと、治療自体ではなく、体外受精をしなければ妊娠できなかった患者さんの背景に差があるのではないかと多くの論文では語られています。

 例えば、日本の論文で、1人目を体外受精で産み2人目を自然妊娠された方と、その逆の方の調査を行ったものがあるのですが、どちらも奇形になる割合に差はありませんでした。また、フランスのデータで自然妊娠と人工授精と体外受精を比べたものでは、自然妊娠と人工授精、自然妊娠と体外受精では奇形になる割合に差が出たけれど、人工授精と体外受精では差が出ませんでした。つまり、お子さんの異常は、体外受精自体に起因しているのではなく、体外で人工的に受精をさせなければ妊娠できなかった患者さんの背景によって出ることが証明されたわけです」

 「発達障害にも同じことが言える」と先生。

「ごく最近、台湾の論文で自然妊娠と比較して顕微授精では発達遅延のリスクと関連があるという論文が出ましたが、膨大なデータ数を持つ北欧では体外受精による発達障害のリスクは上昇しないといわれており、まだ確立された論はありません」

初の体外受精からわずか45年「メリットデメリットをしっかり説明しなければならない」

プレコンセプションケアでカラダを整えておくことも大切

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 卵子を凍結すると双子や多胎児を出産しやすくなるのではないか?という声も聞きますが、実際はどうでしょう。

「体外受精においては、昔は妊娠率をあげるために、2個3個受精卵をお母さんのおなかに戻していました。ですからうまくいけば双子や三つ子が生まれました。しかし、日本では2018年に学会が、35歳以上か2回以上成功していない人以外、原則1個しか戻してはいけないという見解を出しました。法的拘束力はないのですが、たいていのクリニックでは守っているので、現在、日本の体外受精での双子の割合は世界で一番低くなっています」

 巷でささやかれていることには間違いも多いというわけですが、体外受精に関しては、「実はまだどんなリスクがあるかわからない」と先生は打ち明けます。

「最初に体外受精で産まれたイギリス人は、今、45歳です。1例目からまだ45年しか経っていないのでわからないことも多いというのが実情です。ただ、体外受精でしか妊娠できない方は少なからずいらっしゃるので、選択される際は、そのメリットデメリットをしっかり聞いていただく。医師側でもしっかり説明しなければならない部分です。ご夫婦で納得したうえで治療を進めていただくことが一番大事だと思います。とくに、難しいのは治療のやめどきです。体外受精の場合、20代の方であればまずうまくいきますが、40歳くらいになると長丁場を覚悟していただかなければなりません。体外受精は魔法ではありませんから、40歳過ぎた方や卵巣機能が低い方でも絶対うまくいくとはいえません。ですから、受ける際は、どこまでやるのかということをご夫婦で最初に考えていただきたいと思います。途中で考えると、もう1回やったら妊娠するんじゃないかと考え、もう1回もう1回となってしまうのは人間の当然の心理です。ですから、2人の間で45歳までとか、何回までと考えて治療していただくことも、とくに高齢の方は大事だと思います」

 一方で、卵巣の予備能を改善させる最新医療の幹細胞治療など、生殖補助医療は、日々、目覚ましい技術の進歩を遂げており、子どもを持ちたい人たちにとって大きなメリットです。卵子凍結もそのひとつです。

「昔は卵子を凍結させても半分くらいダメになっていましたが、今は8割くらいが成功しています。また、卵を採る前に行う注射も、最近は自分で打っていただくペン型タイプがあり、針もすごく細いので、それほどの痛みもなく、頻繁に病院に行かなくても大丈夫です」

 ちなみに「凍結しておくと卵子が劣化するのではないか?」と危惧する人もいますが、「その心配はありません」と先生。「受精卵と同じく、半永久的に保存でき、何年凍結しても変わらない」と語ります。

 医療である以上、メリットもデメリットもある生殖補助医療。卵子凍結を検討する際は、「いつか来るかもしれないほしい日のために」という漠然とした考えではなく、理解を深めたうえで、「いつ凍結していつ産むのか」ライフプランを立てて臨むべきといえるでしょう。

取材・文/河上いつ子
小川誠司

PROFILE 小川誠司

1978年、兵庫県生まれ。2006年名古屋市立大学医学部を卒業。卒後研修終了後に慶應義塾大学産科婦人科学教室へ入局。2010年慶應義塾大学大学院へ進学。2014年慶應義塾大学産婦人科助教。2019年那須赤十字病院副部長。2021年仙台ARTクリニック副院長。2023年より神宮外苑ウーマンライフクリニック、藤田医科大学羽田クリニック講師。医学博士。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医学会専門医。

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