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“母乳で育てなきゃ”“無痛分娩はダメ”世にあふれる偏見に産婦人科医が警鐘、「“我慢する”だけが解決策ではない」

2023-09-13 eltha

産婦人科専門医・産業医の三輪綾子先生

産婦人科専門医・産業医の三輪綾子先生

 生理、妊娠・出産、不妊治療など、女性特有の身体の変化や悩みに直面したとき「いかに仕事と両立するか」は多くの人が抱える課題です。産婦人科専門医・産業医の三輪綾子先生は、「周りに迷惑をかけたくないと、体調の悪さを我慢しがちであることが問題」と言います。三輪先生は働く女性たちの声を聞くなかで、健康領域の問題や課題をどう考えているのでしょうか。話を聞きました。

「数日で終わる」と辛くても我慢できてしまう生理、悩みがなくならない理由

ーー先生の元に相談に来られる方は、どのような悩みの方が多いんでしょうか?

「やはり生理痛がひどいとか、生理の悩みが圧倒的に多いです。我慢に我慢を重ねてきたけど、これは受診した方がいいなと思って来ましたって」

ーー印象的だった相談はありますか?

「挙げ出したらキリがないんですけど、生理痛が原因で救急車で何回か運ばれたことがあるという経験がある方って結構いるんですよ。実際、私が大学病院に所属していたとき、夜間で2〜3件は生理痛で運ばれてくる人がいて。私自身は、そこまで痛みの症状は強く出ていなかったので、生理痛で救急車に乗る人がこんなにいることを知らなかったんですね」

ーー想像以上に多いんですね。

「ただ、その救急車で運ばれてきた女性が、以降ちゃんと管理をしているかというと、そのままだったりするんですよ。ピルに対して抵抗があったり、知識がなかったり。本来、20歳以上の女性は2年に1回子宮頸がんの検診を受けることが推奨されているのですが、20代後半になって『初めて産婦人科に行きました』とおっしゃる方も多いと感じています」

ーーたしかに。我慢できちゃうことも多いので、行くタイミングが難しいからでしょうか。

「おっしゃる通りだと思います。生理って月に数日しかないから、我慢すればどうにか乗り越えられちゃうんですよね。それで『どうしよう』と思っていると生理が終わって、『また次、ひどかったら』って先延ばしにしちゃう方が多いんですよね」

ーー先生としては、どんなタイミングで来てほしいと考えていますか?

「症状がなくても定期的に行ってほしいですね。例えば、子宮頸がんは進行するまでは、全く症状がなくて。子宮頸がんになる前に見つけたければ、症状がなくても、絶対に受診しなきゃいけないんです。ただ、それを理解している人が非常に少ない。自分の体が正常かどうかのチェックは、医師に任せてほしいなと思っています」

“我慢する”だけが解決策ではない、見識を広める必要性

ーー生理痛やPMSがひどい女性、妊娠・出産・不妊治療等の時期に働いている女性などに共通しているのが“我慢”を強いれるときがどうしてもあることだと感じています。先生自身、開業される前に組織の中で働いてたときは、ご自身でも結構我慢することはあった?

「これはどうしようもないんですけど、生理が辛い時に普段と同じようなパフォーマンスを発揮しなければいけないことはありました。生理中でも6時間のオペはやはり執刀しなければいけないし、どんなに生理で体調が悪かったとしても当直はしなきゃいけなかったので」

ーーその時先生は、どのように解決していたのでしょう?

「私は、どのアイテムを使えば、一番ストレスが少ないのかをちょっとずつ見出していった感覚があります。何が自分は一番楽なのかは、自分で模索できます。どうしても我慢しなければいけない理不尽な側面はあるけれど、我慢をするだけが1つの回答じゃないともお伝えしたいです」

ーーたしかに見識を広げることは大切ですよね。先生は、女性のヘルスケアにおける困りごとを解決していくために、ご自身の立場からどんなことをしたいと考えていますか?

「偏見のない情報の伝え方をしなきゃいけないなと思っています。『無痛分娩は愛情が薄くなる』や、『母乳で育てないと育ちが悪くなる』なども含めて、すごく偏見が多いような気がしているんです」

――確かに、定期的に話題になる印象です。先生に相談にいらっしゃる方からは、どのような声が届いていますか? どんなアドバイスをしていますか?

「たとえば、無痛分娩は『私は無痛にしたいんですけど、姑が無痛は否定的で…』と相談を受けることも多いです。自分の身体のことは自分で決めるのが当然のことです。もし家族が無痛に対して心配な要素があるなら、家族みんなで話を聞きに来てくださいと私はお伝えします。産み方がどうあっても、すべてのお産は尊いのです。『母乳で育てなきゃ…』というのも、間違った認識です。大変なお産の直後から、お母さんたちは授乳の大変さとも戦います。新生児はちょっとしか飲めないので、体重増加がよろしくない子にはもう少し頻度をあげたり、人工乳を足したりします。色々な工夫をしながら悩んでいることを分かっていただきたい。もちろん、完全ミルクでも問題ありません、と伝えています」

――その情報に自分が該当しなかったら…と焦りますよね。

「自分で自分を苦しめてしまうことになります。間違った認識がどんどん広がって、行動できない方もいると思うので。今さら聞くのも恥ずかしい、周囲の声が気になるなど色々あるかもしれないですけど、そういうのを1回置いて、冷静に相談してみることが大事だなと思います」

「悩みを切り分けて判断したり、寄り添って相談できる場所に」産婦人科の立ち位置

DMMオンラインサロンのイベント「BEUTY BRIDGE」で、フェムケアの課題と展望について語った三輪綾子先生

DMMオンラインサロンのイベント「BEUTY BRIDGE」で、フェムケアの課題と展望について語った三輪綾子先生

ーー健康領域に関する悩みを会社の上司に相談する場合、『どうせ言ってもわかってもらえないのでは…』と考える方も多そうですよね。

「意外と、打ち明けたらちゃんと聞いてくれる方も多いと私は思っています。大切なのは、自分自身でハードルを上げないこと。そのためには男性も、しっかりと女性の生理だったり、ホルモンの変動を理解しなければいけないと思います。女性も自分の症状だけを基準に考えないで、色々な人がいることを理解することが大切です」

ーーたしかに。女性の枠組みだけで解決しようとするのは違うかもしれませんね。

「女性の問題を女性だけの問題として捉えるのは、違うと思うんです。社員の半数が女性なら、それはもう会社全体の問題として扱わなきゃいけない。特別枠ではない認識をしなければいけないと思います。実際、私のオンラインサロンに入会したいという男性もいらっしゃいます。女性に対してちゃんと思いやりを持って接したいのに、どこで学べばいいかわからないという人が多いです。社会全体を見ると、このように思ってくれる方はまだまだ少ないのが現状です」

ーー先生は、子宮頸がんを予防するHPVワクチンの普及啓発活動についてもライフワークとされています。過去、ワクチンの副反応についてセンセーショナルな報道がなされ、そのイメージがいまだに根強くあり、接種に懐疑的な目をむける親御さんもいますが、先生はこの状況をどのように見ていますか?

「あれだけ怖いイメージを植え付けるような報道をされたら、そう思われても仕方がないと思います。でも、もう何年も前の話ですし、そこからちゃんと研究もされているんです。だから、トラウマ的に考えず、最近のデータ、ちゃんと予防できるだとか、副反応もそんなに多くないというところも合わせて、判断をしてほしいなと思いますね」

ーー海外との理解の差が埋まらないのはなぜだと思いますか?

「日本人は、まだまだ薬に対して保守的だと思います。痛み止め1つ取っても、飲まない方がいいんじゃないかとか、危ないんじゃないかと。ただ、ちゃんと適切に使うことによって得られるメリットも多いので、デメリットを重く受け止めてしまいがちかなと」

ーー働く女性たちの辛さを軽減するために、産婦人科医として、今後どのような問題に取り組み発信していきますか?

「まず悩みを打ち明け、誰かに頼ることをしてほしいと思っています。理想は応援してくれる産婦人科の先生を見つけてくれるといいなと思っていて、自分がこういう悩みがあるんですって言ったときに、切り分けて判断してくれたり、寄り添って相談できる人がいたらもっと安心できます。例えば休むにしても、医師が『それはお休みしたほうがいいね』と言ったほうが、申告しやすいじゃないですか。女性たちにとって、産婦人科がそう言う場所であるように、しっかりと情報発信していきたいです」
三輪綾子

PROFILE 三輪綾子

医師・産婦人科専門医。札幌医科大学卒業後、順天堂大学産婦人科額講座入局。 一般社団法人予防医療普及協会理事として様々なメディアを通じて子宮頸がんや女性のヘルスケアの啓発を行う。 株式会社GENOVA社外取締役。2021年よりDMMオンラインサロン「フェムテックサロン」運営。2022年6月に堀江貴文氏と共著「女性のヘルスケアを変えれば日本の経済が変わる」(青志社)を出版。 現在THIRD CLINIC GINZA院長。

〈経歴〉
産婦人科専門医、日本医師会認定産業医、母体保護法指定医
THIRD CLINIC GINZA院長
一般社団法人 予防医療普及協会理事
株式会社GENOVA 社外取締役
東京産婦人科医会広報委員

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