不妊治療を始めたアラフォー世代が悩む「卵子の老化」、食い止められない? 卵巣の予備機能を改善させる最新医療
2023-11-29 eltha

不妊治療をはじめる多くの人が直面する卵子の老化
根本的な体質改善で結果が出ないときの“希望の光”となる幹細胞治療
「肌と同じように、血流が悪くなることによって、卵巣は線維化し、年齢とともにだんだん委縮し、硬くなり、機能が低下します。卵子も数や質が低下するなど老化します。そして、卵子がうまく育たない、排卵が起こらないといった不妊の原因につながります」(小川先生/以下同)
卵巣と卵子の老化には、「年齢のほか、生活習慣も大きく影響する」と先生は説明します。
「細胞は常に遺伝子を修復しながら正常な形で増殖していきます。しかし、ストレスが高くなると、正常な修復が行われず、どんどん細胞が死んでいってしまいます。そのため、ストレスは卵巣と卵子の老化に大きく関わると言われています」
このほか、体の中をサビつかせる酸化ストレスの原因となる喫煙や睡眠不足、不規則な食事、急激なダイエット、運動不足も卵巣や卵子の老化を促進させるといいます。
「とくに若い時から過度なダイエットをしていて、その生活習慣が抜け切れていない人もいます。ダイエットはホルモンバランスに密接にかかわるため、卵巣機能の低下に繋がります。長くダイエットを続けることは避けていただきたいと思います。また30代の女性は特に仕事が忙しい時期かもしれませんが、不眠は酸化ストレスを上げることなり、卵巣機能の低下を進めます。これは喫煙も同じです。冷えなど血流を悪くすることも避けた方がいいでしょう」
生理がある限り妊娠できると思っている人は多いですが、それは大きな間違いです。年齢や生活習慣からくる卵巣や卵子の老化によって、生理があっても妊娠しにくくなってしまうのは避けられない現実です。しかし、老化を早める習慣を避け、体質改善することによって老化のスピードを遅らせることはできるのですから、日々、気をつけておきましょう。
一方、男性も「年齢とともに精子は老化する」そうです。
「女性のように何歳になったからと明確に言えるものではなく、個人差も大きいですが、最近の論文で、加齢変化によって、女性よりスピードはゆっくりではあるけれど、男性の生殖機能も老化することが明らかになっています」
精子の老化を早める原因には、血流を悪くするような締め付ける下着、酸化ストレスを高める喫煙、肥満などがありますが、妊活にまつわる男性の問題点として先生が一番にあげるのは、その意識の低さです。
「不妊治療が昨年より保険適用となったことを受けて受診者が増え、夫婦同伴が条件であることから男性の来院数もかなり増えましたが、男性は意識が低いことを実感しています。不妊症の半分は男性因子といわれ、実際、男性が原因ということは非常に多くあります。良い精子と良い卵子がなければ赤ちゃんはできませんので、男性にも正しい知識を持ってもらえるよう、学校教育での啓蒙が必要だと感じています」
根本的な体質改善で結果が出ないときの“希望の光”となる幹細胞治療
「卵子や精子の質を保つためには、やはり酸化ストレスや生活習慣が大きく関わりますので、不妊治療を行う場合は、そういった根本的な体質改善を視野に入れてあたっています。それにより採れる卵の数が増えたり、今まで受精しなかった卵が受精するようになったケースもありますので、まずは体質改善を試みる。それでも『もう年齢的にも体質改善の結果を見ても手遅れかも……』と思われる方は、卵巣自体の予備機能を改善させる再生医療に取り組むケースもあります」
再生医療というと、大リーグの大谷翔平選手が、靱帯損傷の際、血液中に含まれる成長因子を多く含んだPRP(多血小板血漿)を患部に注射したことが、最近、話題となりましたが、このPRPは不妊治療でも用いられてきました。小川先生が取り組むのは、さらにその先の最新治療として体の元となる幹細胞を卵巣に注入するというものです。
「最初は受精卵が着床するための子宮内膜が厚くなりづらい方の子宮にPRPを用いていました。その後、血流が悪くなることによって老化した卵巣の機能にも作用するのではないかと研究が進み、卵巣にも用いられるようになりました。しかし、子宮内への投与は効果が出ている一方で、卵巣投与ではまだなかなか劇的に改善する人がいないのが実情で、ならどうしたらいいかと考えたとき、因子だけを入れるのではなく、体の元となる幹細胞そのものを入れればいいのではないかという考えで、同じく再生治療の幹細胞治療が始まりました」
“卵巣の予備機能を高める”、PRPの限界を補う再生医療

「経血から幹細胞を取り出し、卵巣に注入する
「幹細胞はまわりの細胞に対していろいろな因子を出して、細胞の修復や血液の改善機能があるといわれています。ですから、注入することで、卵巣や子宮の損傷や血流が悪くなっているところの修復が期待されています。実際、海外では、生理が止まってしまっているような状態の方に投与したところ、生理が戻ったという報告もありますし、私の患者さんでも卵巣機能が下がった方に投与したところ、卵が採れるようになった例があります。また、子宮の手術をして子宮内が癒着してしまっている方は、PRP注射ではなかなか妊娠されませんが、幹細胞治療を行ったところ、内膜が厚くなって、妊娠されたという報告が海外の論文でも報告されていますので、子宮癒着の方には非常に効果が期待できます。PRPの限界のところを補う最新治療といえるでしょう」
幹細胞は脂肪や骨髄から採取する場合は針を刺さねばならないことから痛みを伴いますが、月経血からの抽出であれば、なんの負担もないところも大きなメリットです。いざというときには頼れる技術が用意されていることを安心材料のひとつとして、産みたいと思ったときに自信をもって選択できるよう、自分のからだを見つめ直し、いたわる努力を重ねていきましょう。

PROFILE 小川誠司
1978年、兵庫県生まれ。2006年名古屋市立大学医学部を卒業。卒後研修終了後に慶應義塾大学産科婦人科学教室へ入局。2010年慶應義塾大学大学院へ進学。2014年慶應義塾大学産婦人科助教。2019年那須赤十字病院副部長。2021年仙台ARTクリニック副院長。2023年より神宮外苑ウーマンライフクリニック、藤田医科大学羽田クリニック講師。医学博士。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医学会専門医。