「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」のキャッチフレーズで、さまざまな子育て支援策を行ったことにより、人口増加率6年連続1位(全国792市の内)となった流山市。子どもの数の増加に伴って、学校教育の充実も期待されるところ。流山の施策を牽引してきた井崎義治流山市長の考える教育とは?
お話を聞いたのは…
流山市 井崎義治市長昭和29年 東京都杉並区生まれ、千葉県柏市育ち。平成元年から流山在住。立正大学卒、San Francisco State University大学院人間環境研究科修士課程修了(地理学専攻)。昭和56年 Jefferson Associates- Inc.,Quadrant Consultants Inc., 昭和63年から住信基礎研究所、エース総合研究所を経て、平成15年から現職。
>>千葉県流山市 井崎義治市長 公式ページ
―少子化で学校を統・廃合する自治体が多い中、流山市は、人口増に伴い、小・中学校の新設(2015年以降、小学校4校、中学校2校)を進められています。子どもの数が一気に増えても、そのあと、少子化が進んだ時のことを考え、なかなか学校の新増設はできないという実情が自治体にはあると思いますが、どのような戦略で進められているのですか。井崎市長:文科省は、3年先の児童生徒数の推計をもとに、学校の新増設に対して補助金を出しますが、流山市では6年先まで推計しています。また最近、新設した小学校2校、中学校1校については、児童・生徒数のピークアウト後に、校舎の一部又は全体を建替えが必要となる公共施設として利用できるよう設計し、公共施設の床面積が増え過ぎないよう留意しています。
―児童生徒推計は、議会からの提案だったのですか。井崎市長:そうです。ただ、文科省は、3年という推計と規定しているので、流山では「3年の推計値」と「6年の想定値」に言葉は変えています。
―それは、住民の方がある程度、流山に定着しているということでもありますね。井崎市長:多少の出入りはあります。特にアパートに住まわれている若い方ですと、出産後に一戸建てや広めのマンションに市内転居する傾向が強いです。ですので、宅地やマンションの開発計画で、着工や入居のタイミングなど、都市計画課と関係部局で共有していますが、今では、誤差は1、2%だと思います。
―今の時代は、AIなどで?井崎市長:いえ(笑)、手計算ですね。ただ、もう十数年やっていますから、計算方法はきちんと確立しています。
―英語教育にも力を入れられていますね。井崎市長:小学校5、6年生の英語が教科化されたのは、2020年度でしたが、流山市ではそれより10年ほど前から、小学校の1年生から英語の授業を行なっている学校もありました。まずは、英語を好きになってもらうための教科書を、英語のALTの先生に作ってもらって始めました。そこから中学校へ繋げて、当時は、中学卒業時点での、英検3級取得レベルは全国平均より2割程度多いという結果にもなっています。
―英語教育が重要だということは論を待たないことと思いますが、井崎市長ご自身の米国での長年のご経験からも、特に力を入れられたのですか。井崎市長:そうですね。私自身、米国で修士号をとって、そのまま米国の都市計画のコンサルタントとして永住権も取得し、働いていましたから、その経験からも、流山の子どもたちが将来、日本で働くのか海外で働くのか、人生設計において選択できるようにしたかったというのはありますね。
―日本はいつまで経っても、「英語コンプレックス」から抜け出せないのも、英語のみならず、教育の至るところに問題があると、私自身も強く思います。井崎市長:その意味からすると、「主体的な学び」にも力を入れています。例えば、長期休暇の宿題を廃止した学校もあります。そうすると、大学の先生が感心するような自由研究をする子どもが出てきたり、あるいは、いくつかの学校では、先生は「教える」のではなく、子どもが主体的に勉強することを「支援する」学習に取り組み始めています。
―私も、子どもの主体性を尊重する教育が、もっと行われるべきだと思っています。井崎市長:教え込まれてしまうので、記憶力のいい子はなんとかなりますが、そうではないと、落ちこぼれてしまう可能性もある。やはり自分で興味を持って、学びたいと思ってからの学習は生徒の学力を伸ばします。
―その他には、学校全体でお子さんの状況を把握できるようなシステムも入れられたとか?井崎市長:はい、校務データと学習系のデータの一元化を進めています。これによって、担任だけでなく、学校全体で子どもの状態がわかるようになりました。特に若い先生が増えているので、子どもの心の状況を把握することの一助になっていると思います。例えば、「心の天気」というのを、毎日子どもたちに入力させるのですが、「天気」の変化によって、こどもの状態を早めに察知して、大きな問題に発展しないようにすることができています。ただ、最近は、子どもが「いい子」を演じてしまい、本当の「心の天気」を付けない子もいて、難しいケースも散見されることも事実です。
―親の前ではいい子で、学校でストレス発散をしているというケースをよく耳にします。親こそ、子どもの状態をしっかり把握しなくてはいけないのにと思いますね。色々な施策を戦略的に進められていますが、流山の子どもたちには、将来どのような人になってもらいたいですか。井崎市長:私の願いは、明治維新で薩長の若者たちが日本を動かしたように、20年後に色々な分野で流山出身の子どもたちが日本を活性化してもらいたいなと思っています。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
(細川珠生)