ホーム エンタメ > 「自分が主語のキャリア」を女性が実現するには? 男性職員の育休取得率80%超えの杉並区のビジョン【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.32】

「自分が主語のキャリア」を女性が実現するには? 男性職員の育休取得率80%超えの杉並区のビジョン【細川珠生のここなら分かる政治のコト Vol.32】


オランダとベルギーで長年NGOとして活動し、子育てもされてきた岸本聡子杉並区長。どのような経緯から区長選に出馬し、そして海外での経験を活かして、どのような社会を作りたいと思っているのか。インタビュー第3弾は、そんな岸本区長のキャリアストーリーを中心にお聞きしました。


お話を聞いたのは…
杉並区 岸本聡子区長

1974年7月15日生まれ、東京都大田区出身。神奈川県立川和高校、日本大学文理学部卒業。大学入学後、国際青年環境NGO A SEED JAPAN(ア シード ジャパン)に参加。大学卒業後、同法人有給専従スタッフに。その後、2001年にオランダに移住。国際政策シンクタンクNGOトランスナショナル研究所研究員。ベルギーに移住し、2022年4月に帰国し、杉並区に居。同年7月から杉並区長に。
>>杉並区 岸本聡子区長 公式ページ




―岸本区長は、長年NGOや海外で活動されてきたそうですね。そこからどうして区長という道に進まれたのですか?
岸本区長:NGOで公共政策、特に「公共財」と「公共サービス」について研究していました。たとえば公園や図書館、学校などの公共財と、それに付随するサービスのあり方をどう民主的かつ持続可能に運営するかが私のメインテーマでした。特に市民参加を重視していて、市民が真ん中にあるサービスのあり方、ガバナンス(組織のあり方)や財政や資金がどうあるべきかということです。公的なものですからガバナンスには「民主的であること」というものがあります。市民参加、透明性や説明責任を高めていく方法を、研究を通じて世界中の自治体と関わってきましたが、自分の出身国・日本の自治体、杉並区で実践できる機会が訪れたんです。私が書いた本や記事を読んでくださった方々から「この人なら区政を市民とともに作ってくれる」と声をかけていただいたことがきっかけでした。

―そのときはベルギーに住んでいらっしゃったんですよね?
岸本区長:はい。ベルギーに住んでいましたが、ちょうど長期休暇で一時帰国していたときにお話があり、あっという間にポスターができて選挙へと進むことになりました。

―ご家族はどう受け止められましたか?
岸本区長:下の子が当時16歳で、子どもが18歳になるまでは養育義務がありますから遠く離れることに、とても悩みました。一緒に住んでいた元夫と私、彼と子どもが良好な関係でしたので、決断できました。

―ご家族とは離れることになったのですね。
岸本区長:そうですね。大きな決断ではありましたが、子どもとは毎週末話していますし、離れているからこそ、お互いを大切に思う気持ちを表現しています。父親と子どもの成長についてよく話をしています。

―ご研究と繋がっているキャリアでもあるから、皆さんが後押ししてくれた、ということでしょうか。
岸本区長:選挙に出るのは、全く想定外でした。ただ、機会をいただく以上は、もちろん選挙の結果次第にはなるのですが、精一杯やろう、と思いました。

―選挙って、とても大きな決断が必要だと思いますが、それができたのはなぜですか。
岸本区長:あまり知らなかったからじゃないですかね。

―そうなんですか?!
岸本区長:選挙について知らなきゃいけないことを知らなかったかもしれないけれど、知るべきことを知っていたというのはあります。私は、自分の使命と倫理を大事にしています。選挙がどのように大変なことかはあまり知らなかったけれど、自分のキャリアをここに生きている人たちのために役に立てられる可能性を感じたので、これは宿命的なものだと思って、挑戦しました。

―それは素晴らしいですね。自分ができることがはっきりとわかる、という。
岸本区長:ウーマンエキサイトの読者にも伝わるといいなと思いますけど、子育てをしている女性たちは、職場でも家庭でもいろいろな制約の中で、自分のキャリアを考えていかなければならないと思います。でも、その困難さを取り除いていくのが社会の役割です。「自分」が主語のキャリア形成を貫きながら、社会もサポートする。私たちの場合は地方自治体ですけれども、企業なども含めてしっかり支える社会にして、みんなの能力が発揮される社会をつくっていかなければいけないなと思っています。

―自分が主語のキャリア、とても印象的な言葉です。
岸本区長:私たち、特に女性は、「家族のために」と何かと諦めてしまうことが多い。女性は家族の幸せを背負ってそれを内在化してしまう傾向にあります。でも本来は、男性も女性も、そして子どもも「自分」が主語で協力しあえると思います。一人ひとりが、「自分らしく生きられる社会」にするために社会のあり様を考えること、行動することで社会は少しずつ変わっていくと思います。

―ジェンダー平等についての課題も多いと思いますが、杉並区としての取り組みはいかがですか。
岸本区長:男性職員の育休取得率が80%を超えているのは、杉並区の誇りです。自治体は働きやすい職場であるべきだし、制度があってもそれを使えなければ意味がない。男女問わず長く、安心して働ける職場をつくること。それが基礎自治体の責任だと思っています。

―最後に、読者やこれからキャリアを考える方々へのメッセージをお願いします。
岸本区長:社会の制約のなかで、自分のキャリアを考えることは本当に難しい。でも、「自分」を主語にするキャリア形成は決してわがままではありません。私たち地方自治体も、企業も、社会全体でそれを支えていく。そうすることで、誰もが自分の力を発揮できる社会にしていきたい。今の私の挑戦は、その小さな一歩だと思っています。

取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生


政治ジャーナリスト 細川珠生

聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。







(細川珠生)

Facebook

関連記事

P R
お悩み調査実施中! アンケートモニター登録はコチラ

eltha(エルザ by オリコンニュース)

ページトップへ