会社を辞めて大学入学を決断した孫に「ごはんくらいなら作ったる」 食で支え合う祖母と孫の絆
2021-10-04 15:30 eltha
■”ごはんくらいなら作ったる” ありがたかった祖母の言葉
お孫さんの大迫さんは、2011年4月から、”おばあ”の作った手料理を食べている。きっかけは、大迫さんが勤めていた会社を辞めて大学に入学することになったからだという。
「2011年、僕は勤めていた会社を辞めて、大学に入学しました。学費や生活費を貯金だけでまかなうのは難しく、祖母が『ごはんくらいなら作ったる』と頼もしいことを言ってくれました。それで祖母の家の近くに住み、晩ご飯は祖母のところに食べに行くようになったんです」
さらに”おばあ”は、「昼はおにぎりくらいやったら作ったる」と、おにぎりやお弁当も作ってくれるように。「そう言ってくれて、ありがたかったですね。そうして昼と夜は祖母の作ったものを食べるようになりました。もちろん僕はそのかわりに、洗い物や掃除、生活用品の買い出しや日々の雑用など、高齢の祖母の手足となっています」。
SNSで注目されているのは”おばあめし”に取り入れられる、おかずのラインアップ。大迫さんによると「祖母の料理はどれもおいしいのですが、少しおかしなところがあるんです」という。
たとえば『揚げずにからあげ』という肉にまぶして焼くだけで唐揚げができる粉を使っているが、それをさらに油で揚げて調理していたり、酢豚と思って食べたら、肉が総菜の唐揚げで「酢鶏」になっていたり…。
「最近も、タコの形に切った『タコさんウインナー』がたっぷり入った煮込み料理が出てきてびっくりしました。でも、そんな『おばあめし』のことを人に話すと、面白がってくれたんですよね。はじめは、ただおいしいと思って食べていたのですが、祖母の料理が『面白い』ということにも気がつきました。それでこの面白さをいろんな人と共有したくて、ブログやインスタグラムなどで発信するようになったんです」
■「ひとつひとつをじっくり味わい楽しんで『おばあめし』を伝えていきたい」
ガラケーで電話を受けるのが精一杯で、インスタグラムのコメントは大迫さんがおばあに読んで聞かせている。おばあはどんなコメントがされているか黙って聞いていて、感想はほとんど語らないという。
「ちょっと頑固なところがあるので、黙って聞いています。でもたくさん反響があった次の日には、料理が豪華になっていることがあるんです。そんなふうに、祖母は自分が作る料理でうれしさを表現しているようです。言葉より行動で示す、昔かたぎの職人みたいな性格です」
87歳という高齢となり、「手足の節々が痛い」「昔のように体が動かない」とボヤいていることもあるが、台所に立つと背筋が伸び、動きもキビキビと無駄がなく、孫の大迫さんが手伝おうとすると邪魔者扱いされてしまうことも。
「祖母は今でも、手間ひまをかけて工夫を凝らした料理を作ってくれて、その姿には、以前と変わらない頼もしさを感じます。それでも、以前はできていたことが、難しくなってきています。例えば数年前、近所に配るほど大量に手作りしていた恵方巻は、今はスーパーで買ってきています。
出来合いの総菜や冷凍食品の出番が増えても、それはそれで祖母の作る『おばあめし』ということに違いはないと思っています。これからどんな料理やおにぎりが出てきても、ひとつひとつをじっくり味わい楽しんで、『おばあめし』を伝えていきたいです」