地上波初の女性用風俗ドラマ『買われた男』、タブー視乗り越え社長に直談判「“性の抑圧”に苦しむ女性はたくさんいる」
2024-04-24 08:40 eltha
■地上波ドラマで初、“女性用風俗”扱う内容がSNSでも話題に
女性用風俗とは、文字通り女性のための風俗サービス店のこと。性自認が女性の客に対し、男性セラピストがリラックスや癒し、性的な快楽を目的としたサービスを提供する。サービス内容は雑談や添い寝、デートといった肉体的な接触を伴わないものから、性的な満足を得られるマッサージまでさまざまだ。
近年、マンガでは女性用風俗をテーマにした作品が増えており、単なるエロを超えて支持されている作品も多い。4月17日にスタートしたドラマ『買われた男』も同名コミック(『買われた男〜女性限定快感セラピスト〜』(C) 三並央実/芹沢由紀子/ソルマーレ編集部・コミックシーモアのオリジナルコミック)が原作で、口コミには登場人物に深い共感を寄せるコメントが並ぶ。
一方、地上波ドラマで女性用風俗を扱うのは、『買われた男』が初。ゆえに反響は大きく、コミック購買もドラマ化発表の前後7日間比較で約131.6倍と大きく伸長。初回放送後のXでは、「女性の性とメンタルの悩みが丁寧に描かれた良作」「セクシーな面に目が行きがちだけど、悩みや苦しみを抱える人とそれに真摯に向き合ってくれる人。そんな人間と人間の物語だった」など、さまざまな意見が飛び交った。
中でも目立ったのが「映像がきれい」という評価だ。これらの反響を受けて、佐々木美優プロデューサーは、「まずはホッとしています。局側からは『くれぐれも下品にならないように』と釘を刺されていたので」と振り返る。
「そもそも『女性の性はなぜタブー視されるのか?』という素朴な疑問がありました。不倫ドラマの会議では性的なワードも飛び交うのですが、女性スタッフが口にすると『はしたない』みたいな空気になったり…。今回も女性用風俗というテーマを企画に上げたところ、男性スタッフから『ヨメが通っていたら立ち直れない』という声もありました。地上波テレビ局では比較的、“攻めた局”と言われている弊社ですらそうならば、“性の抑圧”に苦しんでいる女性はたくさんいるのでは? そう考えて、どうしてもこのテーマに取り組んでみたかったんです」
■“攻めた局”でもあった懸念の声、原作を読んで「男性スタッフの認識が大きく変わった」
ドラマ『買われた男』は、俳優・瀬戸利樹が演じる主人公をはじめ、3人の男性セラピストがさまざまな事情を抱えた女性客の心と体を施術を通して癒すストーリー。これがオムニバス形式で描かれる。
「企画を上げた段階では、社内から『風俗を扱うの?』といった懸念の声もありましたが、原作を読んでもらって評価が一変しました。特に男性スタッフは、『男性用風俗は性的な快楽を満たすことに重きが置かれるけど、女性は精神的な癒しを求めていることがよくわかった。しかも女性が心の痛みを抱える原因は多様。これはいいヒューマンドラマの題材になりそうだ』と、認識が大きく変わったようです」
リアルを追求するべく、女性用風俗店への取材も重ねた。
「ある程度の事前情報は入れていたものの、実際に施術をデモンストレーションで見せていただいた時は衝撃的でした。セラピストさんの立ち振る舞いからお客さまへの接し方まで、『これは女性が受けられる最上級のホスピタリティなのでは…』と(笑)。ただ本ドラマは“女性向けアダルトビデオ風”にはならないように意識しています。テーマ的にエロティックな描写は必須なので、地上波のギリギリを攻めつつ、でも描きたいのは『イケメンのセラピストに癒されて最高!』といったことではありません。施術によって女性の心情がどのように移ろっていくのか、役者さんたちの繊細な演技にはとても助けられています」
第1話のテーマは、セックスレス。たまにケンカはしても夫婦仲は悪くなく、キスや手繋ぎといったイチャイチャはする。だけどセックスは3年間していない──というモヤモヤを抱えた女性のストーリーだ。
「女性用風俗への取材では、利用者の半数以上がセックスレスだと聞きました。日本では、夫婦の7割がセックスレスだというデータもあります」
初回放送後のXには、「ときめきだったり、女性として大切にされている感だったり…。一番好きな人が埋めてくれたら簡単なのに、そうじゃないことが多いから難しいよね」という切実なつぶやきもあった。いわば、多くの女性が感情移入できるテーマ。とはいえ“お茶の間”では視聴しづらかったのか、「気になってたドラマ。ダンナが寝てからこっそりスマホで観ました」という視聴者もいた。
原作コミックの第1話では、乳がんの手術を控えた女性のエピソードが描かれている。
「『買われた男』という作品が何を描きたかったのかが、このエピソードに凝縮されていました。ドラマでも全10話のどこかで必ず扱いたいと思っています」
■利用を勧めるのではなく…、「私だけじゃない」思い悩む女性の孤独感の払拭に
女性用風俗への取材では、来店はしたもののサービスを受けずに帰ってしまう女性や、セラピストにつらく当たる女性といった、現場の実態を吸い上げてきた。
「ドラマにはそうした“難しいお客さま”に悪戦苦闘するセラピスト側の視点も盛り込みました。ただ、なぜその女性が“難しいお客さま”になってしまうのか、そこには必ず背景があると思うんです。特に、性にまつわることは『こんなこと考えているの、私だけなのかな』と思い悩みがち。さまざまな事情を抱えた女性を描くことで、視聴者の方が『私だけじゃないんだ』と胸のつかえが下りたり、孤独感が払拭できたり、そんなドラマにしたいですね」
多くの人にとって、まだまだ知られざる世界である女性用風俗。そのリアルが地上波でオープンに描かれることで、利用者も増えるかもしれない。ただし佐々木プロデューサーは「女性用風俗の利用を勧めるドラマではない」という。
「ただ利用する・しないに関わらず、こうしたサービスがあることを情報として知っておくことには一定のメリットがあるのではないでしょうか。何かに思い悩んだとき、心が満たされないとき、誰かに寄り添ってもらいたいとき、駆け込むことのできる選択肢は1つでも多く知っておいたほうがいいと思います」
自宅でもなく、職場でもなく、身近な友人宅でもなく、自分を解放できる場所。男性用風俗は長らくそうしたサードプレイスの1つとして機能してきた。しかし、抱えるストレスに性差がなくなった現代、女性が性に対して能動的になれるサービスが求められるのは必然かもしれない。
(文:児玉澄子)