抱いた瞬間に溢れてきた涙、何気ない1コマ1コマが特別な日々「幸せをもらっている」
――その後、2年間の不妊治療を経て特別養子縁組を決断したということですが、養子を迎えることに迷いはなかったですか?
迷いは特にはなかったです。仕事上、いろんな特徴を持った子がいるのも重々知っていたので、どんな子が来てくれるかはわかりませんでしたが、自分はどうしたいんだろうって問いかけたら、やっぱり「子育てがしたい」と。自分でもし産んでいたとしても、どんな特徴がある子が生まれてくるかはわからないし、それも1つの大切な命ですので。それで特別養子縁組をしたいということを夫に話をして、2人の中で気持ちが固まった後は、もう迷いはなかったです。
――息子さんと初めて対面した時はどんな印象でしたか?
これはね、もうたぶん一生忘れないと思います。ちっちゃくって可愛くって、愛おしさがこみ上げてきましたね。抱いた瞬間に涙が溢れて、かわいい!って思ったのを覚えています。待っていたよーって(涙)。
――「歩けるようになった息子の小さな靴が玄関にちょこんと並んでいて感動している」とのツイートに大きな反響がありましたが、実際にご自宅に迎えて、子育てをしてみてどうですか?
子育てはもう楽しい…、幸せ。今1年と4ヵ月なんですけど、振り返ってみると、大変ではあるけど、毎日が感動の連続であっという間です。今「いないないばあ」の「ばあ!」っていうのが息子の中で流行っているんですけど、朝起きて布団の中で目が合ったら「ばあ!」って。それがもう…かわいい…(笑)。そういう何気ない1コマ1コマが特別かなあって思っています。
――そういった毎日の中で、ツイートにあった「息子に愛されながらいまここにいるんだ」という言葉が出てきたのですね。
台所に立っているときとかも息子が足元に来るんですよ。「ママ、ママ」みたいな感じでくっついてきて、作業が全然進まないんですけれども(笑)、そうやって私のことを全力全身で求めてくる。そんな風に求められるって他にはないって思います。これだけ息子から愛されているんだと思って、自分の方が幸せをもらっているなあって感じます(涙)。
「“真実告知”の練習を今からしている」生みの親と対面時に1つだけした“お願い”とは
――生みの親の方とお話はされましたか?
お会いしないケースもあるようですが、私たちの場合は生んでくれた人から私と夫に会いたいという要望があり、NPOの方が間に入ってやりとりをしました。その際、私たちから1つだけお願いをしました。もし将来息子が会いたいって言ったときに会って欲しいと。子どもが大きくなっていくと自分のルーツを探すと思うんですよね。そのときに、いつでも会える状態、健康で幸せでいてほしいということをお伝えしました。
――将来お子さんに養子であることを打ち明ける“真実告知”は義務化されているんですよね。
はい。とても勇気がいると思うので、まだ息子が言葉が理解できない今のうちから、夫と一緒に伝える練習をしています。私はあなたを産んではいないけれども、あなたのことをとっても大事にしているよ、愛してるよって伝えようと思っています。
――育児をしていく上で、自分で産んだ子と養子の子で違いはあると思いますか?
真実告知をしなければならないということ以外は特にないと思います。産んだからっていうことではなくて、毎日毎日一緒に過ごして、その積み重ねでお互いに愛情が育まれていくものかなと思うので、普通の育児と違いはないかなと感じます。
――養子制度についてはどんなお考えをお持ちですか?
日本だとハードルが高い感じがしますよね。周りで養子縁組をしましたって人も少ないし。海外を見てみるとそれが当たり前の社会になっているところもありますし、日本もそうなればいいなと思いますね。実際に養子縁組をやってみて、みんなが幸せになれる制度だなあと感じるんです。育てたくてもいろんな事情で育てられない産んでくれた人も幸せ、もちろん育てる親も幸せ、私たちの両親や兄弟もとても可愛がってくれて、その人たちも幸せ、子ども本人も幸せ。みんなが幸せになれる制度だと思います。
――最後に、妊活に励む方にアドバイスがあればお願いします。
私自身も、「なんでこんなに頑張っているのにできないんだろう」「自分はなんてダメなんだろう」って自分を責める時期があって、そういう気持ちになる方も多いのではないかと思います。だけど、こんなに苦しい思いをして頑張れるだけ頑張っているじゃない、あなたすごいよって言ってあげたい。私たちも、夫と2人で「私たちよく頑張ったよね」と言い合うことができたから、不妊治療から特別養子縁組に迷いなく進むことができたんです。本当の自分はどうしたいのか、自分にとっての幸せはどういうものなのか、自分とまずは対話するのが大事なのではないかと思います。そして、後悔のない選択をしてほしいです。
今回、ふーさんの声や表情、そして息子さんとのやりとりから、養子でも、産んだ子と同じように、もしくはそれ以上の愛情でつながることはできるのだと強く実感した。養子縁組制度を利用するのはその人の自由ではあるが、まずは“特別”ではなく身近な制度になるよう願うばかりである。
(文=田崎理紗)