――薄毛の女性が生きやすい社会を目指して、漫画やイベントを通して様々な治療法を実践し、情報を発信しています。やまもとさん21歳で薄毛になったのですが、もともと私は「女性だからこんなスタイルであるべき」といったジェンダー意識がなかったので、あまり気にしていませんでした。ところが、「女なのに治療も隠しもしないなんて…」という世間の冷たい視線を浴びるようになったんです。私がいることで場の雰囲気が悪くなることもあったので、この生きづらさを解消するには、薄毛を治療するか、隠すしかないと考えるようになりました。それで、薄毛にまつわるいろんな情報を漫画にして、私より深刻に悩んでいる薄毛女子のために、自分の頭を使って役立てるならと考えたのが始まりでした。
――でもその後、治療を止めることを決断します。やまもとさん「薄毛を隠さないと」と思うこと自体、社会に刷り込まれた価値観であって、自発的な想いではないことに気づいたんです。それでいったん治療を止めて、自分に選択肢を与えてみました。考えは、間違っていなかったですね。
――とはいえ、「女性の薄毛は隠すべき」などの浸透した価値観のせいで、薄毛女性の大半はなかなかオープンにはなれないと思います。やまもとさん私のTwitterでも、フォローしてくれている人はほんの一握りで、身バレしたくないと登録せずに遠くから私のことを見ている方も多いです。イベントなどでお会いする方は、治療せずウイッグなどでカバーされている方や、治療法や人間関係で悩んでいる方など様々。話せる人や共感できる人が周囲におらず、SNSを通じた非対面式の当事者コミュニティしかありません。まだ社会に声を上げづらい状態だと思います。
――昨年6月のNHK『あさイチ』で女性の薄毛が取り上げられ、やまもとさんも出演しました。女性の薄毛問題が、だいぶ可視化されてきたように思います。やまもとさん薄毛治療クリニックでも、広告に女性の薄毛を打ち出すようになりましたからね。女性の髪にまつわる業界が、“美髪”から“薄毛”に着目しつつあるのも感じていています。もちろん薄毛の女性は多くいますが、一方で、他人から見ると薄毛ではないのに自分は薄毛だと思い込んでしまって、あらゆる治療法を試してお金を費やす方がかなり増えてきたと感じます。薄毛で悩まれている女性は情報共有のために、SNSで頭頂部の画像を公開されているのですが、フサフサの髪を「薄い」と嘆く方の画像を見て、「この人全然薄毛じゃないのに…」と頼みの綱である SNSでさらに傷つく、という負のループも生まれています。