高級アイスクリームの根幹支える”ご褒美バニラ”の研鑽、安くないからこそ「お客様は裏切れない」
2022-12-01 eltha
![ハーゲンダッツ ミニカップ『バニラ』](https://beauty-cdn.oricon.co.jp/special_img/101000/101677/detail/img660/1669820442247.jpg)
ハーゲンダッツ ミニカップ『バニラ』
“ご褒美感”ブランディングで、夏より冬の方が売れる稀有なアイスクリーム
実際、ハーゲンダッツの売上高は528億円、前年比10%増と過去最高売上を更新。特に複数のフレーバーが入ったアソートボックスが、家にいる時に外出せずともいつでも子どもに食べさせてあげられるよう購入され、そうしたストック需要がこの売上高の一助となったという。
ハーゲンダッツならではという話で言えば、売上のボリューム時期も他社とやや違いがある。基本、夏であったり、天候が良い、暑いという状況であればアイスクリームの売上は伸びるが、ハーゲンダッツがもっとも売れるのは“夏よりも冬”。1年頑張ったご褒美として、12月の売上がもっとも高くなることは、昨今のニュースでも度々取り上げられている。この“ご褒美”感は、創業にまで遡る。ハーゲンダッツの原点である“バニラ”フレーバーの開発秘話だ。
「ハーゲンダッツがアメリカで誕生したのは60年。日本には84年に上陸しました。当時、アメリカのアイスクリームはカラフルで多くの添加物が入っていたところ、ハーゲンダッツは“キッチンフレンドリー”というキャッチフレーズで家庭にあるような身近な素材だけでバニラを開発した。ミルクと砂糖、卵、バニラ。安心の素材にこだわってバニラアイスクリームを作る。その企業理念が受け、開業当時に海外のセレブが買い付けに来るなど、元々ラグジュアリー感があった。それを日本法人でも受け継いでいるという形です。いわばバニラ味が弊社のブランドを象徴するフレーバーとなります」(田村さん)
安くないからこそ、掲げられる信念「お客様を絶対に裏切ることはできない」
また売上は当然、景気や社会情勢に合わせて変化していく。消費税が10%になるなど、やや日本の明るさが沈んだ18年、19年には、売上がダウン。その頃に開発が始まったのが前出の「悪魔のささやき」だ。開発には実に3年を要した。ハーゲンダッツらしからぬネーミングで、味についても“悪魔的な誘惑に誘われる”と反響があり、購入者数は今年発売されたミニカップ新商品の約1.8倍を記録したという。変わり種フレーバーの多様化が進み、定番回帰の流れもある中、なぜこの商品は今、ヒットしたのか。
![ハーゲンダッツ ミニカップ 悪魔のささやき『チョコレート』『キャラメル』(期間限定)](https://beauty-cdn.oricon.co.jp/special_img/101000/101677/detail/img660/1669820565293.jpg)
ハーゲンダッツ ミニカップ 悪魔のささやき『チョコレート』『キャラメル』(期間限定)
とは言え、その価格は319円。アイスクリームとしては決して安くはない。そもそも80年代に日本で展開を始めた際も(ミニカップ価格)約200円という高級アイスクリームとして登場した。当時、日本がバブル前夜ということもあったとは言え、やはりアイスクリーム1つに200円という価格は衝撃であり、そうそう手が伸びるものではない。
「だからこそ、お客様の期待を裏切ることはできない。せっかく購入していただいたのに『外したな〜』とは絶対に思ってほしくないんです。その一心で当社は新フレーバーの開発に取り組んでいます。今年ヒットした『悪魔のささやき』の“3年”という開発期間は一般的な商品に比べて長く取られています。開けた時の感動やワクワク感まで計算し、ねっとりしたソースやクッキーが蓋にくっつかないよう何回も何回も試作を繰り返して、相当なこだわりのもと作られたものでした」(田村さん)
![ハーゲンダッツ ミニカップ 悪魔のささやき『チョコレート』の表面。ねっとりしたビターチョコレートソース、チョコクッキーがトッピングされている。これらが蓋につかないよう、何度も試作を重ねたという](https://beauty-cdn.oricon.co.jp/special_img/101000/101677/detail/img660/1669820586919.jpg)
ハーゲンダッツ ミニカップ 悪魔のささやき『チョコレート』の表面。ねっとりしたビターチョコレートソース、チョコクッキーがトッピングされている。これらが蓋につかないよう、何度も試作を重ねたという
レシピ変更は「元より“美味しい”と断言できるとき」だけ 変わらない味を届ける気概
![ハーゲンダッツ ミニカップ『バニラ』](https://beauty-cdn.oricon.co.jp/special_img/101000/101677/detail/img660/1669820691540.jpg)
ハーゲンダッツ ミニカップ『バニラ』
それでも、バニラやストロベリーといった定番商品に関しては開発当時からあえてレシピを変えていないという。少し味が変わる程度のマイナーチェンジに意味はなく、唯一レシピを変えるタイミングがあるとするなら「元のレシピより“美味しい”と断言できるとき」。原料に徹底してこだわり、変わらない味を提供することに価値があるという考えだ。
アイスクリームのミルクは北海道の根釧地区のミルクを仕様。その牛が食べる牧草が育つ土壌からも分析して牛1頭1頭の体調に応じて餌の配合も考えるなど徹底している。ストロベリーに関しても、着色料は使わずにきれいなピンク色を出している。その理由は、ハーゲンダッツ独自のいちごを使用しているからだという。普通のいちごは切ると中身部分が白いが、同社が使ういちごは、その中身までもが赤い変わり種の品種。社内では“ハーゲンダッツ種”と呼ばれている。
![”ハーゲンダッツ種”と呼ばれるいちご。中身まで色付いている](https://beauty-cdn.oricon.co.jp/special_img/101000/101677/detail/img660/1669820738577.jpg)
”ハーゲンダッツ種”と呼ばれるいちご。中身まで色付いている
![「ランニング×ハーゲンダッツ」という新たな取り組みも。都内でハーゲンダッツ ミニカップ『バニラ』の無料サンプリングが行われた](https://beauty-cdn.oricon.co.jp/special_img/101000/101677/detail/img660/1669820912271.png)
「ランニング×ハーゲンダッツ」という新たな取り組みも。都内でハーゲンダッツ ミニカップ『バニラ』の無料サンプリングが行われた
「アイスクリームという枠にとらわれず広い視点で。皆さんに寄り添えるアイテムとして選んでいただきたい、そんなマーケティング戦略で今後も、皆様に美味しいアイスクリームをお送りしたいと思います」(北山さん)
(取材・文/衣輪晋一)