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『silent』支えた手話監修を手がけたアイドルの中嶋元美「役者に合わせて翻訳を変える場合もある」

2022-12-24 eltha

 Twitterの世界トレンド1位やTVerでの民放歴代最高記録を更新し、今期最高の話題となった川口春奈主演ドラマ『silent』(フジテレビ系)が、最終回を迎えた。同ドラマで手話監修・指導した中嶋元美は、佐倉想(目黒蓮)と同じ中途失聴者で、ZERO PROJECTでアイドルとしても活躍している。視聴者の心を掴み、共感を得たドラマの手話監修について聞いた。

『silent』で手話監修・指導する中嶋元美

役者に合わせて翻訳を変える場合も…まずは耳が聞こえないことを知ることが重要

――ドラマや映画などでの「手話監修・指導」をされていますが、どのようなお仕事なのでしょうか?

中嶋元美 私は、主に中途失聴者の心境や行動、手話勉強中の聴者の指導監修をしています。耳が聞こえる役者さんが、聞こえない役の芝居をするので、台詞がなくても音に反応していないかを確認します。例えば、突然声を出された時にびっくりしていないか、会話の最中にうなずくタイミングや聞こえているように見えないかなど、演出に関わるのでプロデューサーさんや監督さんとやり取りし、よりナチュラルに見えるように指導・監修しています。

――『silent』以外にも、多くの作品の手話監修・指導に携わっていますが、難しさを感じることはありますか?

中嶋元美 どこまで自然にできるかが難しいところです。役者さんによって手話の得意や不得意もあります。また、短期間で覚えないといけないという時間の問題もあります。しいて言えば、英語で会話する役と似ているのかもしれません。

――役者に対して手話監修・指導する際に、どのようなことを大切にしていますか?

中嶋元美 当たり前ですが、耳が聞こえないことを体験できません。そうした状況で役者さんは演じています。たくさんアドバイスをして、聞こえないことがどういうことなのかを知ってもらうことを大切にしています。声を出して台詞を言うのと同じように、手話も強弱やスピードが異なります。短い時間の中でよりスムーズに見せるためには、どんな手話を使ったら良いのかを考えるだけでなく、役者さんに合わせた翻訳に変える場合もあります。
――翻訳を変える状況とは、具体的にどんな場合なのでしょか?

中嶋元美 状況によってさまざまです。例えば、練習の時に役者さんの苦手な手の動きがあるならば、違う単語でより自然に見せるようにします。相手役との芝居が、会話として成り立っているのだろうか、作品の雰囲気に合わせた手話に変えたりもします。また、監督が希望する雰囲気などを聞き単語を変え、より良い手話を見せられるように、常に相談しながら作っています。

――翻訳を変える際の具体的な判断基準を教えてください。

中嶋元美 練習時や実際に芝居を見た際に、判断します。基本的には役者さん、監督さんのイメージを尊重し、それに合わせられるようにしていきます。

もともと聞こえていた中途失聴者が、第一言語を“手話”にしたワケ

――『silent』の手話と字幕についてSNSでは、「手話の字幕が実際の意味と少し違う」といった声もありました。他国の言葉を訳した映画やドラマでも同様なことがありますが、どのようことに気をつけて手話監修を行っているのでしょうか?

中嶋元美 台本の流れや人物の背景、前後の繋がりだけでなく、誰から手話を教わったのかでも、使う手話が異なります。さまざまなことに気をつけて、監修するようにしています。

――手話の単語の使い方には、人によって癖や個性があるのでしょうか?

中嶋元美 健聴者もいろいろな喋り方があるように、手話も同じです。若者と年配者でも使う手話は異なり、早口の人や丁寧な話し方をする人がいたりとそれぞれです。ちなみに私は、はっきりと物事を言う“強め発言多い系”です(笑)。

――『silent』についてTwitterでは、「私自身も中途失聴者ですごく共感する部分もあった」と言っていました。どんな場面に共感しましたか?

中嶋元美 撮影や手話指導をする前に、役者さん、プロデューサーさん、脚本家さん、監督さんに私自身の体験や日常生活での違いを話しました。佐倉想のモデルは私ではありませんが、プロデューサーさんが「(中嶋さんの)体験談で心に残ったことを取り入れてみた」と言っていました。参考にしていただいた面もあり、より共感する部分は多かったです。
――特に心に残った場面はありますか?

中嶋元美 中途失聴者である佐倉想が、声を使わずに手話で会話するところに共感しました。もともと聞こえていた中途失聴者は、「声で話す」という一般概念があります。私も「なんで喋らないの?」とよく言われました。

――ドラマでも中途失聴者の佐倉想が声で話さないことに疑問を感じ、青羽紬が質問するシーンがありました。視聴者も考えさせられるとても印象的なシーンでしたが、どのように感じましたか?

中嶋元美 私が手話を第一言語にしている理由は、“自分の声が聞こえない”ということだけでなく、声で話すと聞こえると勘違いされて、「わからない」と言えない状況ができてしまうからです。そこに生きにくさを感じています。私はいま声で話すのは、家族だけです。それ以外の場では、筆談やスマホのタイピングなど、ドラマと同じ方法を使っています。

――家族以外の人と声を出して話さない理由について、佐倉想は青羽紬に「声が出せないわけではないが、自分で感じとれないことへの怖さがある」と説明していました。中嶋さんも同じような思いがあるのでしょうか?

中嶋元美 以前、同じような経験をしました。職場で“聞こえている”と思われるのが嫌で、声で話さず筆談やスマホで会話していました。健聴者の同僚から「なんで喋らないの?」「心を開いていないの?」と言われました。その後は声で話すようになったのですが、働きにくさが増し、しんどくなりました。その経験から声で話すよりも手話や筆談、“ろう者として生きたい”という想いが強くなりました。声で話すと“聞こえている”と勘違いされ、自分がわからないまま物事が進む不安があります。私は、相手に想いがしっかり伝わる方法でコミュニケーションを取りたいので、声以外で会話したいと思っています。

ドラマをきっかけに増える手話への理解「英語と同じように、手話も言語として学んでほしい」

――『silent』をきっかけに、手話を習う人やYouTubeで手話動画を観る人も増えているようですが、どのように感じますか?

中嶋元美 手話との出会いは、それぞれあると思います。このドラマをきっかけに手話やろう者の文化について、知ってもらえて嬉しいです。英語を勉強するように、手話も言語として学んでもらえたらいいなと思っています。

――ドラマを通してエンタテインメントの素晴らしさを、改めて感じさせられました。中嶋さんもエンタテインメントによって助けられたことはありますか?

中嶋元美 私は全く聞こえませんが、いまでも音楽が大好きです。聞こえなくなる前は、クラシックやミュージカル音楽を好んで聴いていたのですが、いまは全身で感じられるロックやバンドサウンドが好きです。音楽を嫌いになった時期もあったのですが、たまたま音楽番組でバンドが楽器を弾く姿を目にし、楽しいと感じられました。実際にライブに行くと、振動が身体に伝わり、改めて音楽の楽しさを実感しました。それから「音楽の仕事をしたい」と思うようになったので、いま私に夢があるのは、エンタテインメントのおかげだと感じています。

――『silent』のヒットで広く一般的に手話への理解が深まるなか、懸念していることはありますか?

中嶋元美 『silent』は、中途失聴者のリアルな姿が描かれています。ですが、ドラマはあくまで一例であり、ろう者がみんな同じではありません。健聴者もいろいろな考え方や生き方の人がいるように、決めけや偏った考え方を持たないでもらえたら嬉しいです。

『silent』手話監修・指導したZERO PROJECTでアイドルとしても活躍の中嶋元美

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