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なぜ学校の「色覚検査」はなくなった? “色覚異常”や“色覚障害”から呼び方も変化、理由を眼科医が解説

2024-10-17 08:30 eltha

 中年層以上の人は、小学校で「色覚検査」を受けた人も多いでしょう。同系色のドットの集合の中に描かれた、別の色の数字が読み取れるか…といったものです。ですが現在は、ほとんどの学校で実施されていないそう。かつては、「色覚異常」「色覚障害」と言われていた呼び方も、「色覚多様性(特性)」と変わっています。一方で、予備校などでは「見えづらい」色のチョークの使用を止めたり、「色覚チョーク」という商品が使われたりもしています。検査はしなくなっても配慮は増えた? そもそも検査をしないと不都合は起こる? 医療法人社団久視会いわみ眼科の岩見久司先生に、背景や現状を聞きました。

「色覚異常」「色覚障害」、呼び方も変わった?

「色覚異常」「色覚障害」、呼び方も変わった?

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■「異常」「障害」から「多様性」に変化、「過剰に差別を受ける原因に」

――まず、「色覚多様性(特性)」とはどんなものですか?

 「色には名前がついておりますが、実はそれぞれの人によって色の見え方には差があり、同じ色と思っていても実は微妙に違うように感じています。これは、目の中の色を感じる細胞である錐体(すいたい)細胞の分布の違いによります。この、錐体細胞が体質によって異なり、色の感じ方が異なる人がまずまずの割合で存在します。これを色覚多様性と呼びます。色覚多様性にはいくつかの種類がありますが、赤と緑の違いがわかりにくいことが多いです」

――以前は「色覚異常」「色覚障害」という言葉が使われていたそうですが、いつから「色覚多様性(特性)」に変わったのでしょうか。

 「かつては色覚多様性のある方は、色の違いがわかりにくいことから職業上の問題等を抱えていると考えられてきました。しかし、この問題はあまり重要な違いではなく、本当に問題になるのはごく特殊な条件である場面であり、この違いは些細なものであることが分かってきました。そのため、ハンディキャップを意味する『異常』や『障害』という言葉を避け、個人差を意味する『多様性』という言葉が使われるようになってきました」

――昔は学校でも色覚検査が実施されていましたが、現在は任意に。必須でなくなった背景や現状は?

 「色覚検査の由来は19世紀末にさかのぼるそうです。鉄道の信号の色に赤と緑が導入され、その判別が得意ではない人々の存在が明らかになりました。さらに、色覚多様性は遺伝によって決まることがわかり、かつての優生学思想のような誤解から早期に発見すべきとして学校で検査をされるようになりました。

 しかし、色覚多様性のある方々も、その後の生活経験によって『条件が良ければわかる』『何となくわかる』などの適応を得ることが多いです。色覚多様性は、多くはそれほど問題がないにもかかわらず、過剰に差別を受けるなどの原因になってきました。そのため、21世紀に入って学校における色覚全例検査は廃止されました。しかし、生活上の困難もあり得ることから、自らの状態を知っておくべきとして任意検査で行われるようになりました」

記事監修してくれた眼科専門医の岩見久司先生

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――大手予備校・河合塾では、色覚多様性に配慮し、板書の際に「赤・蛍光赤チョーク」の使用が不可に。ほかにも、色覚特性の生徒に向けた「色覚チョーク」というものも作られているようです。色覚多様性があると、教育の現場ではどのような不具合が生じるのでしょうか。

 「黒板の色は、実際は黒ではなく緑。緑の背景に赤チョークは、緑と赤の違いがわかりにくい色覚多様性の方にはたいへん見にくいものになります。ただ、そもそもコントラスト差が高くないので、色覚多様性がない方々からも見にくいといった意見もあったようです。多色で授業をしたい先生は少し困るかもしれませんが、そもそも無くていいものだったのかもしれません。学校現場でのこういった取り組みは、やはり公的機関なので遅れがちです。河合塾が先駆けて対応を表明したのはとても素晴らしいことだと思います」

――色覚多様性のため、つけない職業もあるとか。大人になって困ることがあれば教えてください。

 「色覚多様性のある方は、色の違いを誤ることがあります。そのため、確実な判断が必要になる職業として、パイロットなどの運転関係、毒劇物取り扱いやふぐ調理師免許等は制限があります。インテリアデザイナーなど色を扱う仕事では、会社によって異なるようです。ただ、有名な画家のフィンセント・ファン・ゴッホも色覚多様性があったとされていて、必ずしも色を扱う仕事ができないというわけではありません。

 インターネットを探せば『この職業に向いていません』と書いてある記事も見つけられます。しかし、困難を感じた場合の対応策を講じていれば良いという条件付きのところも多いので、すぐに鵜呑みにせず具体的に確認していきましょう」

■子どもの色覚に疑問を持ったら、保護者はどう対応すれば?

――国内外で色覚多様性のある方はどれくらいの割合いるのでしょうか? また増減はありますか?

 「色覚多様性は、遺伝による因子によって決まります。学校健診などの制度は変化していますが、色覚多様性を持っている人の割合は全く増えたり減ったりするものではありません。性染色体というものがあり、男性はX型+Y型、女性はX型+X型になります。この性染色体のX型の部分に色覚多様性の変化が含まれています。Xを1個しか持たない男性は、因子を持っている時点で色覚多様性が確定します。Xを2個持つ女性は、Xの因子を2個とも持っている時点で色覚多様性になり、因子を1個だけ持っている女性は保因者と呼ばれます。

 日本では男性の20人に1人、女性の400人に1人が色覚多様性を持っていると言われます。ちなみに海外ではその割合が異なり、北欧では男性の10人に1人、女性の100人に1人に色覚多様性があるとのことです」

――色覚多様性と診断された場合、どうしたらいいですか?

 「色覚多様性と診断された場合は、その種類によってどんな色が見にくい、間違いやすいか確認してください。そうすることで間違いやすい場面を確認する習慣がつき、適応していくことが可能です。また、車のブレーキランプの赤が見えにくい等の安全に関わる場面もあります」

――子どもの色覚について、保護者が疑問を感じた場合は?

 「もしかして…と思ったら、検査を受けましょう。また、遺伝の関係で色覚多様性のある男の人から生まれた女の子は必ず保因者になります。なので、おじいさんに色覚多様性があるお母さんの息子は、1/2の確率でなります。そういった家系がある場合も積極的な検査をおすすめします」

――色覚チョークや河合塾の取り組み、プレゼンなどで使用されるレーザーポインターの色など、表立っては言われていませんが、色覚多様性への配慮は様々なシーンで行なわれているようです。ですが、色覚多様性があまり社会的な問題として扱われないのはなぜでしょうか。

 「色覚多様性に対するバリアフリーとして、カラーユニバーサルデザインというものが提唱され、色の使い方に対する推奨指針が示されています。しかし、現実には情報の普及は今ひとつと言った印象です。日本は全体的に多様性=ダイバーシティへの取り組みが遅れているとされています。差異を認識したうえで、それを受け入れる文化が未熟なのかもしれません。皆が生きやすいと感じる世界を作るために、我々は変わるべきだと思います。そういった努力の一つとして、私はこのような啓蒙活動を続けていきたいと考えています」

【監修】
岩見久司先生
医療法人社団久視会 いわみ眼科理事長。眼科専門医。レーザー専門医。医学博士。2018年にいわみ眼科を開業。専門は加齢黄斑変性などの網膜疾患だが、前眼部から後眼部まで、眼科全般の診療を行う。小児の近視治療にも力を入れている。ライフワークは「眼科医療の底上げ」であり、啓蒙活動や後輩の教育にも力を入れている。



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