編集長が語る『la farfa』が払拭した「服に体型を合わせる」という概念
2022-09-12 eltha
読者モデルからプロモデルに飛躍する人も…アパレル企業のプラスサイズへの意識変化
「発刊当時の読者には、『自分にはおしゃれをする資格がない』『おしゃれをする前に痩せなければ』と思い込んでいた人も多かったようです。でもそれは“思い込まされて”いただけ。それまでアパレル業界が発信してきたのは、細身のモデルを起用したファッションばかりでした。発刊から9年経ち、『la farfa』のおかげで人生が楽しくなった』という声を聞くと、おしゃれの力は偉大だなと思いますね」
一方、ネットでは『la farfa』モデル(通称:ラファモ)対して心ない声が上がることも少なからずあった。
「それは今もゼロではありません。ただ昨今は容姿イジリはよくないという意識もだいぶ定着しました。モデルたちがネガティブな声に全く傷ついていないとは思わないのですが、むしろ『いつの時代の話をしているの?』と笑い飛ばしていますよ」
「創刊当時には、洋服のリースにとても苦労しました」と述懐する高井編集長は、「次第にアパレル企業側から『ECサイトやイメージモデルとしてラファモを使いたい』『モデルを貸して欲しい』といった声に変わりました」と『la farfa』がファッション業界にもたらした功績は大きい。
欧米と比べて少ないプラスサイズ需要、洋服作りの技術や経験値が未成熟な日本
「欧米と比べて日本人女性は平均的に細身で、プラスサイズ需要は確実にあるものの大きい市場ではありません。また素材を多く使うため価格を上乗せせざるを得ないアイテムもあり、在庫リスクも伴う。そうしたビジネス判断から、プラスサイズに消極的なブランドもあるのだと思います」
何より日本のアパレル業界では、プラスサイズの洋服作りの技術や経験値が成熟していないという事情もあった。
「洋服を着用したときに、きれいなシルエットを出すには立体感が重要で、レギュラーサイズのパターンをそのまま広げただけではプラスサイズにはなりません。しかもプラスサイズの洋服作りが学べる服飾専門の学校はほとんどないため、日本にはプラスサイズの技術を持ったパターンナーが本当に少ないんです」
『la farfa』のターゲットは2〜30代のLLサイズ以上の女性。誌面に登場するモデルに体重・身長・3サイズが併記されているのが他のファッション誌との大きな違いだ。
「洋服を着るのは極めてリアルな行為であるにも関わらず、従来のファッション誌はどこか憧れを売ってきたところがありました。それでも標準サイズの方なら細身のモデルを眺めながらも『自分もこうになれるかも?』と夢を見ることができたんです。ですが“標準体型”からかけ離れた人は、完全に切り捨てられていました。夢や憧れではなく、読者にとってリアルに役に立つファッション提案をしたい。そうした想いからサイズの併記には発刊当時からこだわっています」
“着痩せ”は推奨しない…“守り”のコーディネートにせずビキニも積極的に提案
「たしかに読者のニーズはあるんです。だけど着痩せを推奨することは、『la farfa』のコンセプトとは逆行する“痩せている=美しい”というメッセージになってしまうのではないのか──。今も結論は出ていないのですが、“着痩せ”という言葉は極力使わずにスタイルアップできる提案をする編集方針でいます。何より重視しているのは、読者に『自分もこういう格好をしていいんだ』という気づきを提供すること。だからあまり“守り”のコーディネートばかりにならないように、水着特集ではビキニも積極的に提案しています」
「たしかにいろいろな体型のモデルが1冊の雑誌に収まっているのが、本来言われている多様性なのかもしれません。ただそれが本当に読者のためになるのかどうかは、難しいところですね。読者は自分が欲しい情報を求めますから、ファッション誌が性別や年齢、テイストなど多様化というよりも細分化の方向に進んできたのは自然な成り行きだと考えられます。体型でセグメントした『la farfa』もその流れにあるもので、今後はさらに個々の嗜好を反映した細分化が進むのではないでしょうか」
来年の発刊10周年を前に、この秋には35歳以上向けの“オトナのぽっちゃり女性”に向けた大人版『la farfa』の増刊号を企画中。年齢も体型も関係なく、おしゃれをポジティブに楽しむマインドをこれからも応援し続ける。
(文/児玉澄子)