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“推し活”で要介護度が3から1に…「支えられる」より「支える」ことで生命力取り戻すおばあちゃん達

2022-09-19 eltha

 平均寿命が延び続け、高齢化社会が進む中、健康上の問題がない状態で日常生活を送る「健康寿命」よりも、幸せに生きられる「幸福寿命」を重視する考えが注目されている。そんな中、全国各地の高齢者施設で“推し活”が広がっている。

“自分”のための体操は嫌でも、“推し”のためなら立ち上がれる…広がる高齢者サポーターの輪

 富山市内の高齢者施設を3年間利用している黒崎幸子さん(82歳)は、かねてから認知症による幻視や目まいの症状があった。しかし、昨年からサッカーJ3・カターレ富山の応援に参加するようになると、孫と同世代の大野耀平選手の夢中に。施設職員は、「要介護度が3から1に改善されたように見える」と話し、大野選手の施設訪問では杖を忘れて駆け寄る姿が見られた。
 神戸市内の高齢者施設で暮らす服部千恵子さん(86歳)は、ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタ選手を応援。スペイン出身の彼との会話を夢見て、「ゼロから始めるスペイン語」の本で勉強を開始。試合当日には、認知症を患っていながら、一度着たユニフォームを見て「これこないだも着ましたよね?」と発言し、施設の職員を驚かせていた。
 これは、『セサミンEX』などの健康食品を販売するサントリーウエルネスが、2年前より推進している「Be supporters!」プロジェクト。Jリーグと協働し、高齢者施設の利用者など普段は「支えられる」機会の多い方が、サッカークラブのサポーターとして「支える」存在になることを推進している。

 施設では健康体操などのレクリエーションが日々行われているが、楽しみや生きがいを見出せずに、参加を拒む高齢者は多い。しかし、定期的に試合が行われるJリーグにおいて、息子や孫に似た“推し”の選手をひとたび見つけると、途端に目を輝かせ、積極的に応援イベントに参加するおばあちゃんが続出しているのだという。
 当初はわずか2施設、数十人の参加者からのスタートだったが、現在は、カターレ富山・レノファ山口FC・川崎フロンターレ・ヴィッセル神戸の4クラブと協働し、昨年富山では延べ1000人の高齢者がサポーター活動に参加した。

 高齢者が好むスポーツとして相撲や野球がメジャーだが、サッカーは試合時間が長く、ルールが明快であることから、レクリエーションとしても大いに盛り上がり、利用者同士の深い交流に繋がっている。また、試合当日だけではなく、試合前の応援練習・“推し”うちわ作り・部屋の装飾、試合後は思い出を日記に綴り、選手との交流会も開くことで、1試合だけで多くの楽しみが味わえているのだという。

“推し活”の効果は施設職員の精神安定にも? 慢性的な人材不足緩和への起爆剤となるか

 その大きな原動力となっているのが、まぎれもなく“推し”の存在だ。山下美代子さん(82歳)の“推し”は、カターレ富山の松岡大智選手。亡くなった息子さんと同じ漢字が入っていることから、名前に一目惚れ。今年5月にスタジアムに足を運んだ際には感激して涙を流し、松岡選手が出場する試合を元気に応援していた。

 ほかにも、普段はずっと真顔を見せていた90歳のおばあちゃんが満面の笑みを見せたり、歩行器を使っている同齢のおばあちゃんが選手を近くで見たいがために前のめりに足を上げたりと、“推し”の力は甚大のようだ。
 そういった高齢者たちの変化により、日頃の重労働で疲弊している施設職員たちにも思わぬ効果があった。鬱病の症状が和らいだり、精神的な理由で休職していた職員が復職後に明るくなったりした上に、慢性的な人材不足が叫ばれている業界ながら、学生からの採用の問い合わせが増えた。

 利用者が良い状態になることで職員のモチベーションが上がり、利用者と職員が、サポーター同士として共通の話題で対等に話せる副次的効果も生まれているようなのだ。また、コロナ禍により高齢者の「分断」や「孤立」が深刻化する中、職員だけでなく、選手やクラブとの交流を通して、地域のつながりにも拡大している。
 試合後には北日本新聞社の協力の元、『Beサポ!新聞』にて、サポーター活動の執筆にも取り組んでいる黒崎さんは、「試合の前の日は部屋に飾ってある9番(大野耀平選手)のユニフォームに向かって『明日は応援に行けなくてごめんね。テレビの前で応援してるから頑張ってね』と言ってから寝ています。大野選手のユニフォームのおかげで怖い夢を見なくなりました/ありがとう。感謝感謝です」と綴っている。

 「幸福寿命」を提唱している慶応義塾大学・医学部の伊藤裕教授は、「主体的に誰かとつながっている幸福感が高齢者を元気にしているのでは。“推し”を作ることは、自分の分身のような存在を見つけ、気分的に高揚するという点で意味があること」だと話す。

 起き上がるのにも、歩くのにも、誰かの力を借りることに申し訳なさを感じているおばあちゃんも少なくない。しかし、いつも誰かに「支えられている」彼女たちが、“自分”のためではなく、“誰か”のために「支える」ことこそが、生きる力に繋がるのかもしれない――。
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