ホーム コラム > 認知症患う高齢者のメイク動画に300万再生 介護に“美容”を持ち込んだことの意義

認知症患う高齢者のメイク動画に300万再生 介護に“美容”を持ち込んだことの意義

2022-12-12 eltha

介護美容研究所TikTokより

介護美容研究所TikTokより

「もう年だから…」と恥ずかしがっていた92歳の女性が、真っ赤な口紅を付けたとたんパッと笑顔を咲かせた。美容の技術で介護施設に入所する高齢者たちの生きる力を引き出す職業・ケアビューティストたちの活躍がTikTokで話題を呼んでいる。これまで介護の現場で重要視されていなかった「美容」を、高齢者の生きる活力にと逆転の発想で生まれたのが、「介護美容研究所」だ。ますます進む高齢化社会において、生活支援や健康管理と同じくらい「美容」が介護の現場で求められるその意義について聞いた。

「高齢の方にオシャレを諦めずイキイキと人生を送っていただきたい」

@carebeauty_mirapro 実際の体験談を動画にさせていただきました(動画はスクール生の現場実習の様子です)#美容 #介護美容 #介護美容研究所 #おすすめ #介護士 #お年寄りを喜ばせたい #メイク #メイク動画 #おすすめにのりたい #CapCut Aesthetic - Tollan Kim
 人生の最期まで綺麗でいたい――最期を穏やかに過ごす施設ホスピスで、高齢者が嬉しそうにメイクをするTikTok投稿は、約83万再生、認知症を患った高齢者のメイク動画は300万再生の反響を呼んだ。施術を受ける方々はみな、キレイになっていく鏡ごしの自分に目を輝かせている。いくつになっても女性にとって美容は心の栄養剤なのだ。

 こういった取り組みするのは、ケアビューティストという職業だ。これは「介護美容研究所」という高齢者向けトータルビューティーを学べるスクールが生み出した新たな介護へのアプローチでもある。同スクールの卒業生で、ケアビューティスト歴2年のmiyabiさんは複数の介護施設と契約し、月1〜2回定期訪問している。

「初めて利用してくださった日には、みなさん『もう一回お嫁にいかなくちゃ』っておっしゃいますね。最初は控えめなお化粧を希望されていた方が回を追うごとに華やかなお色を選ばれるようになったりと、メイクを楽しむことでお気持ちまで前向きになっていくご様子を見るととてもうれしくなります」(miyabiさん)

 担当するのは寝たきりや車椅子など日常動作が困難な高齢者や、終末期を待つホスピスの患者などさまざま。「"人生の先輩"とのおしゃべりも楽しく勉強になります」とmiyabiさんは言う。

「中には認知が入って会話が成立しない方もいます。だけどこの仕事で何よりも大切なのは敬意を持って接し、その方の一番ステキな姿を引き出すこと。メイクをすると女性っておしとやかになるんですね。認知症になると言葉が乱暴になったり、手が出てしまったりする方もいるのですが、『メイクの日には優しくなるんですよ』とおっしゃった施設職員の方もいました」(同上)

 介護の現場に“メイクを持ち込む”ことが施設職員の負担にならないよう、miyabiさんは介護の資格も取得した。

「高齢の方にオシャレを諦めずイキイキと人生を送っていただきたい。その姿に触れたご家族にも喜んでいただきたい。そんな想いでこの仕事を始めたのですが、もしかしたら介護美容は施設で働くスタッフのみなさんの働きやすい環境を作るお手伝いにも繋がるのかなと思うようになりました」(同上)

美容がもたらした高齢者の変化 メイクを重ねていくうちに杖を“卒業”した利用者も

ホスピスで過ごす高齢者にメイクを施すmiyabiさん

ホスピスで過ごす高齢者にメイクを施すmiyabiさん

 2018年に開校した「介護美容研究所」では、介護と美容それぞれの現場で必要となる知識や技術を研究・開発し、寝たきりの方へのヘアカット術や、老齢の皮膚に適したメイク、福祉ネイル、ハンド&フットケアなど、高齢者向けの介護美容スキルをトータルで学習できるカリキュラムを提供している。

「現代の高齢者は高度経済成長期を過ごし、生活の中でオシャレを楽しんできた世代です。しかしこれまでの介護現場では通常業務の多さから、美容の提供まで手が回りませんでした。そのため日常動作が困難になった高齢者はオシャレを諦めざるを得なかった。しかし美容には人生に喜びや活力を与える無限の可能性があります。本人ができないのであれば、サポート体制があればいい。介護美容にはそれだけの価値があると私たちは考えています」(介護美容研究所 広報・山本恭平さん)

 キレイでいたいという気持ちが生きがいを呼び覚まし、精神的な充足を与えてくれることは容易に想像できる。では実際のところ、介護美容にはどれほどの効果があるのか。miyabiさんは「杖がないと歩けない状態だったのに、メイクを重ねていくうちに杖から“卒業”された利用者さまがいました」と自身の体験を証言する。

「今のところ、現場の経験則でしかお話できませんが、美容が脳を活性させ、ひいては身体の自立や健康にもいい影響を与えている印象です。もちろん、個人差はありますが、今後はさらに実証的なデータやエビデンスを積み上げ、介護美容の社会的認知を広げていきたいですね」(山本さん)

 TikTokには介護美容の現場を紹介した動画が多数アップされている。介護と美容という意外なキーワードの組み合わせに興味を持つ人は多く、フォロワーからDMが届くことも多いという。

「最近は中高生から『私もおばあちゃんをメイクで笑顔にしたい』というメッセージをいただくことが増えました。より踏み込んで『ケアビューティストになりたい』とDMをいただくこともあります」(SNS担当・嶋内さん)

 そうした若者のほかにも、介護美容研究所には「美容のスキルを身につけて、より心に寄り添ったケアをしたい」という介護ワーカーや、「家事や育児と美容職を両立させたい」という“休眠美容師”も数多く通う。

「とは言え、まだまだ介護美容やケアビューティストを知らない方がほとんどです。高齢者の方がどんなふうにステキに変身したかをじっくり追うドキュメンタリーや、高齢者のファッションショーなど、さらに魅力を伝えられる動画企画に挑戦したいですね」(嶋内さん)

 同スクールを運営するミライプロジェクトでは卒業生の活躍の場と「介護美容」の普及を目的に、個人や施設に向けた訪問美容サービス「care sweet」を提供。2019〜2021年の3年間で利用者は27倍、利用施設は42倍と急伸している。美容が介護の現場にもたらすインパクトが社会的に広がることで、今後はさらに需要が拡大しそうだ。
(取材・文/児玉澄子)
介護美容研究所
公式HP https://academybc.jp/
Instagram https://www.instagram.com/carebeauty_mirapro/ 
TikTok carebeauty_mirapro

1 2 >

Facebook

関連リンク

あなたにおすすめの記事

おすすめコンテンツ


P R
お悩み調査実施中! アンケートモニター登録はコチラ

eltha(エルザ by オリコンニュース)

ページトップへ