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自習で監視カメラ、体罰も黙認…懲り懲りだった中国の受験環境、医師の夢を叶えた女性の才能を開花させる生き方とは

2022-12-30 eltha

 中国、ロシア、香港で育ち、15歳で日本へ。現在は“令和のトリリンガル美人女医ママ”として注目を集めている美容外科医の塩満(しおみつ)恵子さん。大手美容外科で院長を歴任し、2022年より東京・渋谷に「ASTRA BEAUTY CLINIC」を開業している。なぜ彼女は美容外科医になったのか。また中国と日本との文化・教育の違いは? 「仕事と家庭の両立が課題。働く女性でも幸せになるという姿を見せたい」と語る彼女の半生と、子育て論について聞いてみた。

監視カメラも当たり前の中国の過酷な競争社会…日中教育事情の違い

 父の仕事の関係で小学校高学年と中学校2年半、中国の大連で少女時代を過ごした塩満さん。受験戦争が加熱しているイメージのある中国。勉強の環境面においてもかなり過酷な状況に身を置いていたという。「地域の進学校に通っていたのですが、その学校ではクラスの平均的成績や順位で教師に入ってくるボーナスが代わります。ゆえに教師も教育への熱の入れようがすごいですよ。例えば体育や美術とか受験に関係のない科目の授業は潰して、数学の先生を呼んで補習させたりとか。夏休みや冬休みも教師が場所を借りて塾のような形に。次の学期に学ぶことを先取りで学習し、その分、教師にお給金を支払いするというのが当たり前の社会でした」。

 その“塾”では午前中は授業。午後は夜の7時まで自習。驚くのは、その自習の時間は背後から監視カメラで見られていること。そこで勉強をしてない生徒が発覚すると教師の給料が下がってしまう。ゆえに日本の昭和さながら、ビンタなどの体罰も黙認されていた。生徒の成績順位もすべて公表され、競争を煽られ、クラスメイトたちの人間関係がギスギスすることも当たり前。勉強ばかりさせられるため、目を悪くする者や肥満も増加。ゆえに目のマッサージや朝は授業前に全員が校庭を走るなどの対策がとられていたという。

 「そんな状況で育ってきたので日本に来て驚きました。日本では皆、部活をやったり、音楽、体育の授業もあったり、あとは修学旅行に体育祭に文化祭。“そういうのやっていいの!?”と。中国の教育法は勉強ができない方にとっては地獄のような環境なのでそれはやっぱり人格形成によくない。日本では勉強以外にも、部活や音楽や美術など輝ける道がある。研修医の同期に東大理三が多かったのですが、意外にもガリ勉タイプは少なく、部活などバリバリやるなかで効率よく勉強してきたと。

 逆をいえば中国では勉強を“やらされていた”ので、それがなくなった日本の学校生活で私は急に成績が落ちてしまいました。日本は自主的に勉強をしなければならない。その自主性が育つ一方で、自主性が特別強いエリート中のエリートしか這い登れないという難しさが日本にはあるような気がします」

形成外科医から美容外科医へ…「私はしっかり患者と向き合える医師でいなければ」

 そんな彼女は外国ではなく日本の大学へと進学する。その理由は日本の医学医療の技術が圧倒的に進んでいるから。「中国からも富裕層が自費でもいいからと日本へセカンドオピニオンに来られたりしますが、日本人は勉強熱心で、手先が器用なのでオペも海外からの評価が高い。衣服も清潔感があり、嫌な態度を取る医師も比較的少ない。ゆえに日本で医者になりたいと、進学先も日本の大学を選びました」

 医者を目指したきっかけは名作ドラマ『白い巨塔』の影響で。だが実際に自分が医師になって気づいたのは、医療技術の進んでいる日本であっても、ドラマのようにすべての命を救うには限界があること。医師の全員が勉強熱心なわけではなく、単に収入が良いから頭が良いから医師になったなど、やぶ医師もいる。その不信感が「私はしっかり患者と向き合える医師でいなければ」と彼女の反面教師になっている。

 そもそも彼女は形成外科医だった。だがなぜ、その1ジャンルの美容外科に特化したのか。「私が感謝されることで自己肯定感が上がるタイプだからかもしれません。形成外科もそうですが美容外科は自分に自信がなくてアンハッピーな時に来られる方が多いんです。そんな時に少しでもきれいにしてあげると…それが10%の美だとしても、本人の幸福度や自信は本当に50%、100%まで行くことがあるんですよ。生まれ変わった自分を見て泣き出す方も。やはり自分がキレイになると皆ハッピーになるんだと思いました。内科医も風邪を治してあげると感謝されますが、感謝されるという意味では形成外科ないし美容外科が一番多いと思います」。

 塩満さんは患者としっかりとコミュニケーションを取ってオペも全部自分でやりたいと考えていた。形成外科では5、6人で患者にあたるのが基本だが、美容外科では彼女と患者が2人で決めていく。それだけに仕上がった時の達成感は形成外科の比ではないという。カウンセリングもしっかり90分取る。しっかり向き合い、メリットデメリットもしっかり説明する。患者に対してより真摯でありたい、自分の信念を貫くために美容外科医に転身した。

 注目すべきは“令和のトリリンガル美人女医ママ”というパワーワード満載のキャッチコピーだ。「自分でハードルを上げているとは思います。しかもそのワードはすべて患者様には関係がない言葉。ですが、この目立つキャッチコピーで多くの人に知ってもらい、安心安全ハッピーの美容医療を受けてもらいたい。高いハードルに見合った医療もお届けしたい。そう考えています」。

子どもに寂しい想いをさせないよう、家事を外注にして一緒にいる時間を増やす

お子さんとディズニーを満喫する様子

お子さんとディズニーを満喫する様子

 だがこのキャッチコピーの“ママ”の部分には意味もある。「私の一番の課題はやはり仕事と家庭の両立。やはり日本って女医さんもそうですが皆さんママになるとお仕事が時短かバイト、パートになることが多い。保育園問題もあり、それで専門医やキャリアを諦めちゃったり、逆に離婚されたりする方が多いんですよ。私もその選択をしたら、娘も女性のキャリアってそんなものだと思ってしまう。それは嫌で、そんな問題を抱える日本において、女性とか男性とか関係なく、仕事をしながらでも家庭は大事にできるよというロールモデルを作りたい」。

 まだ両立は模索中だが、幸いにも収入が多いこともあり、家事に関しては外注するようにしている。これは家事の時間をすべて子どもにあてたいから。寂しい想いをさせたくないから。仕事から帰り、子どもをほったらかしにして散らかった部屋を片付けたりするより、家にいる間はずっと子どもと遊ぶ、テレビを見たり踊ったり笑ったり、ハッピーに過ごすよう心がけているという。とはいえ、開業医なので社員、スタッフ、職員もいる。彼女たちにしっかりとした給料を払い、仕事にやりがいを持たせるのも自分の仕事だと思っているため、そのやりくりは大変だ。

 現在、自身の娘はインターナショナルスクールに通わせている。「今後の教育としてはアメリカやイギリス的な教育を受けさせていきたい。それは日本のように自主性を大事にしつつ、子ども一人ひとりの才能を開花させる教育システムがあるから。中国は詰め込み教育すぎて不安がある。日本は逆に自主性を大事にしすぎて勉強ができる人しかエリートになれない。両方問題があると思っているんです。そのなかで子どもには中国語と英語が話せて当たり前の環境を作ってあげ、欧米の教育システムを受けた上で、開花した才能をいかした職業についてもらいたい。特に言葉は大事。日本語だけだと何事も日本に限られてしまう可能性が高いですから」

 夫とも話し合い、当然、日本人特有の四季折々を楽しむ心や侘び寂びは大事にしていきたい。だが彼女は「NO」がいえる外国育ち。物事をはっきりいえる人に育てたいがゆえ、「日本人7割、中国のはっきり物事をいえる系3割ぐらいのバランスがちょうどいいかな」と微笑む。仕事に没頭して家庭も円満に。働く女性にとっていまだ枷の多いこの日本において、彼女の生き方は、それそのものが、日本社会への“問題提議”となっている。

(取材・文/衣輪晋一 写真:小林智美)
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