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『証明写真機』が女子中高生に流行なぜ? “盛らない”撮影に新ニーズ、アナログ体験をデジタル発信する若者たち

2023-01-16 eltha

 日本で証明写真機が利用されるようになったのは、1980年頃。それから約半世紀の時を超えた今、思わぬ脚光を浴びている。昨年女子中高生の間で流行ったものをランキング化した『JC・JK流行語大賞2022』(AMF)で、「IVE」や「目黒蓮」、「ちいかわ」などが並ぶ中、バショ部門では話題の「ジブリパーク」や「ミヤシタパーク」などに次いで、5位に「証明写真機」がランクインしたのだ。昭和生まれの「証明写真機」が、令和の若者たちの間で新たなムーブメントを生んでいるようだ。

スマホは手軽過ぎ、プリクラは盛り過ぎ? アナログ撮影に新鮮さ見出すデジタルネイティブ世代

 1〜2年前から、10代の女性を中心に証明写真機でプリクラのように撮影するスタイルが流行し始め、インスタグラムやTikTokなどに、その様子を投稿するのがトレンドに。メイクや目の大きさなどが“盛れる”プリクラとは対照的に、“盛らない”ありのままの姿を写せることが、ティーンにとっては新鮮なようだ。国内トップクラスのシェアを誇る『Ki-Re-i』などの証明写真機を展開しているDNPの担当者も、こういった反響は予想外だったと語る。

「女子中高生の方たちに、逆に新しいと捉えていただけたことに非常に驚いています。新たな楽しみ方を見つけるのが上手いなと(笑)。若い世代からも使っていただける機会が増えて、うれしく思っております」(DNPフォトイメージングジャパン・企画本部企画第1部営業企画グループの山本梨沙さん/以下同)
 写真館に行く機会が少ない10代にとっては、ストロボでの撮影体験も目新しく映る。自動で盛れる機能がついているプリクラに対し、証明写真機では自分たちで小道具を持ち込み、ポーズなどを工夫して撮影することを楽しんでいるようだ。人気の理由について、山本さんはこう分析する。

「いまの若い世代は、生まれた時からスマートフォンが身近にあるデジタルネイティブです。写真撮影はアプリでの加工が定番で、アナログの機器や撮影方法を体験したことのない世代にとって、半個室で撮影できる証明写真機は斬新で、その体験自体を楽しんでいただけているのかなと思います」
 確かにSNSで検索してみると、証明写真機に入り、撮影をし、証明写真を手にするまでの工程をスマホで撮影した動画の投稿が多く見られた。また、証明写真を切り取り、100円ショップで購入したミニフォトフレームに入れて、オリジナルキーホルダーを作る動画も、密かなブームとなっていた。ほかにも、余白に印字される日付を活かし、学生が卒業式の日に最後の制服姿で撮影をして“卒業の証明”にするなど、単に“撮影”が目的ではなく、“エンタメ”としても楽しまれているようだ。

「個室で撮影」に特別感? “街中にポツン”とあるからこその「お1人様需要」も

 実際にインスタグラムに証明写真を投稿していたtakiさんにその良さを聞いてみると、「顔に加工感がない方が今どき!と私は勝手に考えてるので、プリクラやスマホの加工スタンプより盛り過ぎ感が無いのが好きなところです。顔加工による画質の悪さがなくて、写りは個人的にプリクラより好きです」とのこと。

 また、設置場所や稼働時間にも人気の秘密が。営業時間の決まっている商業施設やゲームセンターと違い、証明写真機は近場のスーパーやドラッグストアにも設置され、24時間稼働している場所も多い。人混みを避けて、好きな時に気軽に撮影ができるのも利点の一つのようだ。
 さらに、プリクラは複数人で撮るのが一般的だが、証明写真機は街中にポツンとあるからこそ、“お1人様需要”にも対応しているとtakiさんは語る。

「他撮りの写真、動画の撮影は友達がいるからあまり気にならないのですが、自撮りをしている所を見られるのってやっぱり恥ずかしい!って気持ちがあって、証明写真機は1人でも個室で撮影をしている所を見られないので、撮影しやすいんだと思います」

 とはいえ、価格帯はプリクラの2倍ほど。takiさんは証明写真よりプリクラを撮る頻度のほうが圧倒的に多いそうで、やはり証明写真は“特別行事”化しているようだ。子どもの頃から身近にあった半個室空間に入り、大人たちの目を盗んで、本来の目的とは違うことをして楽しむことへのある種の背徳感も、このブームを後押ししているのかもしれない。

紙需要減少でも過去最高台数、多様コラボ展開で“自己証明ブース”として広がる可能性

 現在ではネット通信機能により、マイナンバーカード用の写真撮影から申請までその場で完了できるという証明写真機。受験や就活、公的書類もデータ化が進み、紙の需要が年々減っていく中、『Ki-Re-i』の全国設置台数は、2001年の誕生以来、過去最高の7400台におよぶ(ネットワーク接続非対応機含む)。昨今の若年層からの反響を受け、DNPでは更なるサービス開発を模索しているという。

「あくまで公的身分証明書に使用する証明写真を撮影する場なので、ご本人を正しく認証するキレイな写真が撮れる場であり続けたいというのが大前提です。その上で、若年層の方にも使っていただけるバリエーションとして、背景色を増やしたり、真顔だけでなく笑顔やカッコいい写真も撮れるような音声ガイダンスを検討したりと、満足度を上げられる商品開発を目指したいと思っています」(山本さん)
 昨夏からは、DNPの企業CMに『Ki-Re-i』が登場。ただ証明写真を撮る場所ではなく、自分自身を証明するための「オンライン・デバイス・ブース」であると紹介している。『Ki-Re-i』を使った新規サービス創出に向け、武蔵野美術大学の学生と共創するなど、令和の証明写真機は多様な展開が期待できそうだ。

「まだ実績はないですが、撮影したデータを活用し、オンラインで様々な業界と連携して、新しいサービスを提供していきたいと思っています」(山本さん)

 銭湯やレコード、純喫茶やシティポップなど、令和の若者の間で“レトロブーム”が沸き起こり、ここ10年で再発掘されている昭和モノは少なくない。デジタルネイティブの彼女たちが、アナログの“ひと手間”に新鮮さや魅力を感じるのも頷ける。しかし思えば、少し前には『写ルンです』ブームもあった。同じ写真業界で流行の移り変わりの早さを感じさせられるが、今度の「証明写真機」トレンドがいつまで続くのか、メーカー側の仕掛けも含め、楽しみに見守りたい。


(取材・文=辻内史佳)
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