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能登半島地震で注目された“女性用使いきり下着” 開発の裏で「1回で捨てる商品を作っていいのか?」葛藤も

2024-03-25 eltha

 能登半島地震から3ヵ月が経過し、現地では今も断水の全面復旧の目処が立ってない。そうした中、ワコールが無償提供した使い切りインナーが「衛生的で快適」として被災地にとどまらず反響を呼んでいる。ワコールでは過去にも有事の際の物資支援を行なってきたが、そのたびに直面したのが「本当に困っている人に届きにくい」というジレンマだった。今回実施した新たな取り組みによる現地のニーズ把握の成果と、商品開発の背景、そして企業の被災地支援のあり方について話を聞いた。

能登半島地震被災地への無償提供きっかけに出荷枚数6倍に

エニーインナー 正面(画像提供:ワコール)

エニーインナー 正面(画像提供:ワコール)

エニーインナー 背面(画像提供:ワコール)

エニーインナー 背面(画像提供:ワコール)

 1月に発生した能登半島地震の被災地にワコールが無償提供した使いきりインナー「AnyAnyインナー」が、「こんなのあるって知らなかった!」と話題を呼んでいる。これまでもワコールでは大規模震災の際には義援金に加え、肌着などの物資支援を行なってきたが「ここまで反響が大きかったのは初めてです」とのことだ。

「このたびの震災が直面した大きな課題の1つは、道路の通行が厳格に規制されたことでした。そのため私たちも物資の支援には慎重になり、一方的に物資を送るのではなく、被災自治体や支援団体に向けて『必要なモノと量をご要望ください』と呼びかける形としました」(ワコール広報・艸川康代さん)

 また今回の震災は断水が長引いたことも課題だった。洗濯もままならず、また洗濯できても避難所で下着を干すのをためらうのは想像に難くない。こうした状況から衛生的な使い切りインナーは大いに喜ばれ、「一度お送りした団体からリピートで要請をいただくことも増えています」という。

 さらに要請の呼びかけが確実に届くよう広くリリースしたことで、被災地にとどまらず多くの人にAnyAnyインナーが知られる結果に。SNSでは「防災リュックに入れておこう」「軽量パッケージなら旅行やキャンプにも便利そう」といった声もあった。

 ワコールによると昨年12月と1月の比較で、AnyAnyインナーの出荷枚数は6倍にアップ。その8割がECの売り上げで、備蓄の意識の高まりとともに購入した人が多かったことが伺える。

“長く愛用するものづくり”を大切にしてきた企業だからこそのジレンマも

 2022年発売の「AnyAnyインナー」が開発されたのはコロナ禍がきっかけだった。人との接触が制限され、特に医療者や患者が触れたものが忌避されたのは記憶に生々しい。AnyAnyインナーを企画したワコール商品本部の岡田烈さんは当時をこのように振り返る。

「医療現場では下着の洗濯にもお困りで、紙パンツが重宝されていました。しかしワコールは『長く愛用していただけるものづくり』を大切にしてきた会社です。環境保全の観点からも、社内では『1回で捨てる商品を作っていいのか?』というジレンマもありました」(岡田さん)
横方向に伸びる素材のため、フィット感がここちよい(画像提供:ワコール)

横方向に伸びる素材のため、フィット感がここちよい(画像提供:ワコール)

 社会のニーズと環境保全。その両方を解決する糸口を模索していた岡田さんが発見したのが、社内(の製造ラインに)に溜まっていた生地だった。

「ワコールの一部店舗で展開している3D計測サービス。その計測体験時に使用する紙のブラジャーの生地が大量に余っていたため、この素材を有効活用してみてはどうか? という提案で会社も一気に前向きになりました」

 ハーフトップとショーツの各1枚セット・ショーツ3枚セット(各495円)やハーフトップとショーツの各3枚セット・ショーツ7枚セット(各990円)を販売。成人女性のM〜LLサイズに対応しており、幅広い体型にフィットすることも被災地で喜ばれているようだ。

反響の大きさから生まれた新たな課題 「企業の被災地支援のあり方を改めて考える学びに」

 市場で展開されている使い捨てインナーにはなかったブラジャーをセットしたのも女性に寄り添い続けてきたワコールならではで、SNSでは「こういうのが欲しかった」という声が上がっている。一方でこれまでにない反響の大きさから課題も浮き彫りとなった。

「幅広い体型に対応するとはいえ、どうしてもサイズアウトする方はいます。お求めやすい価格設定にこだわったため利益率が極めて低い商品ですので、まずはワンサイズ展開にせざるを得なかったのが正直なところです。しかしそれはあくまで企業側の事情。1人でも多くのお困りの方にお応えするべく、まずは今年秋に要望の多かった男性用を発売したいと考えています。今後はサイズ展開を拡げることや生理ナプキンに対応したショーツなども開発できたらと考えています」(岡田さん)

 成人女性用から開発したのは、有事の際の「女性特有の困りごと」が顕在化していることも大きかった。災害が起こるたびに、SNSには「支援物資を配布する担当者が男性だったため、下着や生理用品が欲しいと言えなかった」といった切実な声が上がる。

「私たちはこれまで被災地に物資支援をしてきましたが、こうしたSNSを見るたびに『本当に困っている方に届いているだろうか』という懸念はありました。このたびの能登半島地震では道路事情もあって『直接のご要望に1つ1つお応えする』という形を取りましたが、それによって現地のニーズをよりリアルに把握できたのではないかと実感しています。企業の被災地支援のあり方を改めて考える学びにもなりました」(艸川さん)

 内閣府の調査では全国55%以上の自治体が、災害時の避難所運営や備蓄を担当する防災部署の「女性職員ゼロ」。この状況の改善は急務だが、日本は災害大国。有事の際の必要なものは個人で異なるだけに「自分や家族を守る備え」はしておきたいところ。そのために欠かせないものとして「快適で清潔な下着」という人は多いはずだ。
(取材・文/児玉澄子)
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