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各地で頻繁に起こる地震…首都直下地震の懸念も 「意識としては、常に準備」専門家に聞く防災対策の見直しとは

2024-04-05 eltha

 直近で頻繁に発生している地震。「ここ最近本当に地震が多い」「あらためて備えを見直すべき」と肝を冷やした人も多かったのではないだろうか。千葉県東方沖でも群発地震が発生するなど、東日本太平洋側への警戒が強まっているなか、私たちは何を考え、何をしておくべきなのか。家族を守るために必要な防災対策について専門家に聞いた。

首都直下地震で発生が予想される「同時多発火災」延焼の危険が高くなる場所とは?

 30年以内に70%の確率で起こると言われている首都直下地震。東京は政治や経済の中枢機能が集積する巨大過密地帯であるだけに、甚大な被害が想定される。中でも大被害をもたらすと言われているのが火災だ。今から約100年前の1923年9月1日に発生した関東大震災では、東京の死者・行方不明者のうちの96%が火災により命を落としたと記録されているが、現代でも、国は首都直下地震で想定される死者の7割は火災によるものと想定している。

「建物倒壊と火災の発生は密接にリンクしているため、両方に注視していかなければならない」と語るのは、日本の消防力の底上げを目的に消防戦術探求会議を立ち上げ活動している元消防士のよろず氏。よろず氏によると、地震によって火災が発生するパターンは以下の3つあるという。

(1)揺れによって倒れたストーブやてんぷら油などが可燃物に着火し火災が発生。
(2)建物の倒壊により電気系統が損傷し、短絡(ショート)が発生して火災が発生。
(3)通電時に、倒れた家具に踏みつぶされた配線などがショートしたり、電気ストーブが再起動して落下した可燃物に着火し、火災が発生(通称:通電火災)。

「(2)と(3)は建物がダメージを受けたことが原因になりますので、地震による備えでは、やはり火災とともに建物の倒壊への対策も重要となります。ただし、火災は建物の倒壊と違って、消火が行われなければ被害が拡大していくため、個人と地域での対策が重要になります」
東京文部省の荒寥たる焼跡/日本語キャプション:残った石の柱,焼かれて黒い樹木,もし虫の音を聞かば敗残のローマの都とも見るべし荒寥たる光景よ文教の首府今や庁影だもなし

火災により荒廃した東京文部省/日本語キャプション:残った石の柱,焼かれて黒い樹木,もし虫の音を聞かば敗残のローマの都とも見るべし荒寥たる光景よ文教の首府今や庁影だもなし

 上記3つの原因により、首都直下地震のあとに発生すると想定されている「同時多発火災」。延焼の危険が高くなるのは、地域を問わず、「古い町並み、密集地、水利がない」場所だという。

「古い町並みは延焼しやすい古い木造建物が多いため、密集地は建物が倒壊した場合、消防車両が近づけないため、水利がない場所は水がなければ火が消せないためです。具体的にどの地域が火災拡大の危険があるのかは、東京都被害想定デジタルマップで確認することができます。ただし、都市の地震では巨大な炎の渦が竜巻のように起きて火の粉をまき散らす火災旋風が発生する可能性も高いですが、いつどの方向に向かって発生するかは現代の技術でも想定することが難しいので、基本的にはやはり火災を発生させないというところに重きを置いていただけたらと思います」

 火災を起こさないように、「地震時はすぐに火を消せ」と言われる一方で、近年のコンロは自動的に火が消えるため、「火の確認はせずにすぐに逃げろ」という報道もなされているが、これについてはどう考えればいいのだろう。

「どのタイプのコンロが設置されているかによります。近年のコンロは揺れを感知したり、加熱し続けたりすると自動的に火が消える設計になっていますので、火を気にすることなく、地震が起きたらまずは逃げるなど、自分の身を守ることを優先して考えて大丈夫です。そうではない古いコンロでも、例えば天ぷらを揚げていたとき、震度7の地震が発生して火を止めるために無理に近づくとやけどをする可能性があります。ガス供給をしているマイコンメーターによって揺れを感知するとガスが自動で遮断されますので、まずは身を伏せて、揺れが収まってから火を止めるという考え方でいいと思います。火が止まらない可能性も踏まえて古いタイプのコンロであれば、最新のものに買い替えるのも重要な防災の準備です」

 万が一、火災が起きてしまったときは、速やかな初期消火が重要となる。そのためには、消火器を用意しておくことも必要だ。

「アパートやマンションにお住まいの方は通路に必ず設置されていますので、確認しておきましょう。また、今はインテリアの邪魔にならないオシャレな消火器が市販されていますので、一戸建てだけでなく、集合住宅にお住まいの方もそういうものも用意しておくと安心です。事業用消火器は赤と決まっていますが、一般家庭はオシャレにデザインされたものでも問題ありません。ただし、強化液消火器と呼ばれるものを選んでください」

 さらに、万が一、火災が起きたときのために、「地域との連携も重要になる」とよろず氏はアドバイスする。

「消火栓に直接パイプをつけて消火活動を行うスタンドパイプという設備が存在します。一般の方でも比較的取り扱いが容易な消火設備ですが、震災発生時には、人員、設備、消防車が圧倒的に不足し、消防士が消火にすぐに行けない状態となりますから、火災の危険度が高い地域は、とくに自治体でそういったものを準備し、訓練をしておくことが大切です」

 ご近所との連携は、こんなときにも命を守る重要な鍵となる。

「万が一、倒れた家具に挟まれたとき、消防士はすぐに駆け付けることはできませんので、助けてくれるのは近所の方になります。都会は隣近所との人間関係が希薄になりがちといわれていますが、両隣と人間関係を作っておくことも備えのためには必要です」

マンション等のバルコニーに設置されている“避難はしご”の位置を確認「有事の際はハッチを足で蹴り、破壊して逃げて」

避難はしごを利用できるよう、バルコニーには履物等を置いておくとよい

避難はしごを利用できるよう、バルコニーには履物等を置いておくとよい

 火災発生の原因となる「通電火災」については、「ブレーカーを落とすことで避けることができる」とよろず氏。

「停電が解消された後、通電火災の発生を回避するために、揺れが治まったらまず、ブレーカーを落とすことをお薦めします。また、今は振動を感知すると自動的にブレーカーを落として電気を遮断する感震ブレーカーがありますし、後付けできるものもありますので、それらを利用するのもいいと思います」

 もう1点、火災への備えとして、集合住宅においてよろず氏が強調するのは、「避難経路を確認しておくこと」だ。

「基本的に、マンションなどのバルコニーには避難はしごが設置されていますので、玄関付近に火が拡がり、玄関から逃げられない場合はそれを利用してください。自分の所にはなくても、バルコニーの端には必ずありますので、有事の際は、隣との境についているハッチを足で蹴り、破壊して逃げてください。素足だと痛いので、頑丈な靴をベランダに用意しておくといいでしょう。2階建て等低層住宅の場合は、避難はしごや滑り棒などが設置されている場合があります。ご自身の住んでいるアパートやマンションの避難経路とともに確認しておいてください。

 一般住宅の場合は、1階が燃え出したときに階段が使えなくなる可能性がありますので、その場合は、新しい建物であれば扉さえ締めれば防火シャッターの代わりとなり、煙と炎を遮ることで救助までの時間を稼ぐことができます。その間にベランダに逃げて、梯子を使うなり、助けを呼ぶなどしてください」

意識としては「常に準備」、在宅避難の備蓄は「1週間耐えられるように」

 近年の建物は、耐震、耐火への配慮がなされたものが多いが、よろず氏は、これから建築するのであれば、「地盤が固いところを選ぶ」「耐震等級は3級以上にする」ことをアドバイスする。

「地盤が軟弱で隆起してしまった場合はどうにもなりませが、そうでなければ、耐震等級が3級であれば、震度7の地震が発生しても建物自体は住み続けられるようにできています。が、耐震等級1級は住み続けられません。例えば、軽量鉄骨造は一般的に木造建物と比べて耐震性は高いですが、耐震等級が1級であれば、1回目の震度7には耐えられても、2回目以降の揺れに耐える保証はありません。実際、熊本地震では2回目で倒れてしまったという事例があります。また、マンションも鉄筋コンクリート造であれば基本的に地震に強いと考えてよいですが、軽量鉄骨造の場合、耐震等級が低いもので造られていると倒壊の危険がありますので、ご自身の住まいの等級を確認しておくといいでしょう。避難所はどうしても共同生活になりますので、様々な事情で自分の家にいたいという方は等級や地盤についてしっかり気を配って、できるだけの対策をしておくことをお薦めします」
備蓄は戸建てなら1階と各階、マンションなら玄関とベランダ側と、避難路となる場所に分けておいておく

備蓄は戸建てなら1階と各階、マンションなら玄関とベランダ側と、避難路となる場所に分けておいておく

 建物さえ無事であれば、震災が落ち着くまでの間、在宅避難が可能となるわけだが、その場合、重要となるのが備蓄だ。

「基本的に3日分と言われていますが、1週間分は耐えられるよう準備しておくことをお薦めします。というのも、東京などの大都市では、在宅避難を選択すると、避難所に食材を取りに行くことになります。避難民ではないのになぜ食糧だけもらいにくるのかといういざこざが発生したという事例も耳にしますので、インフラも回復する1週間程度は自己完結できるよう備えておくといいでしょう。

 食料、飲料水に加え、ビタミン剤や食物繊維などのサプリメントの備蓄もお薦めです。震災後はストレスで排便できなくなったり、体調が悪くなったりするケースも多いですから。あとは、電気が使えなくなる可能性が高いので予備の充電器、冬なら使い捨てカイロやアルミシートなど防寒になるもの、夏なら体を冷やす熱中症対策グッズ、小さいお子さんがいるご家庭はミルクなど、当たり前ではありますが、自分たちが生活していくうえで必要だと思われるものはある程度ストックしておいてください」

 それらの備蓄品は、戸建てなら1階と各階、マンションなら玄関とベランダ側と、避難路となる場所に分けておいておくことも重要だという。

 さらにもうひとつ、震災後に重要問題となるのは「トイレ」だ。

「仮設トイレを使うために毎回避難所に行くのは現実的ではありません。今は既存のトイレに付けるだけの簡易トイレが市販されています。意外と安価なので、1ヵ月分などある程度買いだめしておくといいと思います」

 もしも日中、首都直下地震が起きたとしたら、仕事や学校に行っている家族は帰宅困難者となり、その日には会えない可能性も高い。最後に家族の命を守るため、日頃からどんな意識をもって、家族とどんな話しておく必要があるのかについてよろず氏に教えてもらった。

「まず、みんなで集まる場所を決めておくことです。例えば、お子さんを帰らせるのが危険ということを踏まえて、まずは小学校に集合など場所を決めておきます。火災旋風などで街全体が燃え上がることもないとは言い切れませんので、できれば優先順位を付けて3つくらい避難場所を決めておくといいでしょう。スマホで連絡を取ればいいと考えられるかもしれませんが、能登半島地震でも発生直後、電波がダウンしたように、有事の際は使用できなくなる可能性が高いですし、充電が切れてしまうことも考えられます。また、家に帰った際、誰もいなかったら、『〇〇くんの家にいます』とかメモを残すということも決めておくといいでしょう。家族間でわかるマークや印でもいいかもしれません。

 意識としては、『常に準備』です。準備ができていなければ、災害に対して人は本当に無力になります。まずは自分自身を助ける準備の『自助』。自助ができていれば他の人に手を差し伸べる余裕ができます。次に地域コミュニティとの災害準備をし、行動できる体制を整える『共助』。発生時に『公助』である消防、警察、自衛隊、海上保安庁は、皆様の助けに来られない可能性が高いと考え、『自助』と『共助』の準備を整えておいてほしいと思います」
よろず

PROFILE よろず

全国の消防人を繋げるコミュニティ「消防戦術探究会」をDMMオンラインサロンにて運営。気軽に勉強ができるコンテンツを作成。知識の共有を助けるシステムを構築している

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