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無自覚に妻を傷つけるモラハラ夫、「人は変われる」批判を受けても“加害者目線”で発信する漫画作者の想い

2023-06-26 16:00 eltha

 パートナーの「モラハラ被害」は様々なところで語られるようになったが、加害者側の声を知る機会は少ない。そもそもモラハラ加害者は“無自覚”であることが多く、パートナーの傷ついた心境を受け入れにくいことも考えられる。「僕自身、モラハラや精神的DVをしていた人間」と語る中川瑛さんは、自身の経験をもとにモラハラ加害者のコミュニティ団体「GADHA(ガドハ)」を設立し、変わりたいと願う加害者向けの支援を行っている。被害者の声に向き合いながらも、「人は学び、変わることができます」と加害者目線で発信し続ける想いを聞いた。

『99%離婚―モラハラ夫は変わるのか』(C)KADOKAWA

『99%離婚―モラハラ夫は変わるのか』(C)KADOKAWA

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■モラハラを認めない夫は「ある意味自然」、悪意がない加害者の心理

――モラハラや精神的なDV被害に声を上げる人が、少しずつ増えてきたようです。ですが、加害者の声を聞くことは、あまりありません。

【中川瑛さん】被害者が声を上げることは、同時に相手が「加害者」だということも意味します。ですが、加害者の多くは相手を傷つけるつもりはなくて、「自分は正しいことをしている」「教えてやっている」という気持ちでいるので、悪意がないことも多いです。これは、加害の責任を免じるということではなく、これこそが加害の本質なんだと思います。ですので加害者の声というのは、なかなか可視化されません。

――加害者側は“無自覚”であるということですか?

【中川さん】そうです。相手に被害を打ち明けられることで、ようやく「モラハラ」や「DV」といった言葉を調べて、それが自分に当てはまるか確かめたりします。ですが、その際に出てくる情報の多くは、「加害者は変われない」「パーソナリティ障害のやばい人」といった、偏見を助長する差別的な説明です。モラハラ・DV加害者は、どうしようもない生まれながらのモンスターとして、様々な場所で描かれているのです。このような状況では、加害者として自覚することは、自分を変えられない化け物のような存在として位置付けることになります。本人が認めるメリットが全くなく、心理的な負荷は極めて大きい。だからこそ「自覚しない=認めない」加害者が多い。このことは、ある意味で自然なことです。

――中川さんは、そうした加害者のための団体「GADHA(ガドハ)」を運営しています。「加害者は変われる」「償って幸せになれる」という活動方針には、被害を受けた方々からの批判も寄せられていますね。

【中川さん】僕自身、モラハラや精神的DVをしていた人間です。しかし、学び変わっていくことによって、妻とお互いに、今が人生で一番幸せだと言い合える関係になりました。「GADHA」は、加害者同士が気持ちを共有し合ったり、励まし合ったりするコミュニティです。人は変わっていけます。もちろん大事なのは、被害者ができるだけ早い段階で被害を自覚できること。そして自身を守れること。それは絶対に必要なことであり、その重要性については議論をまちません。しかし、加害者の変化がなければ、第2、第3の被害者が生まれるでしょう。それを防ぐことも重要です。今、被害者の情報が社会に広がってきつつあるからこそ、ようやく加害者の心理や、加害者の変容について語っていい時代になりつつあるのではないかと思います。

■「お前が俺を怒らせているんだよ!」妻を罵倒…生々しい漫画表現へのこだわり

――中川さんが原作を務めた漫画『99%離婚―モラハラ夫は変わるのか』は、ひどいモラハラ夫と、夫から自分と娘を守る妻の物語が描かれています。夫は自身の「加害」に気づき、自身や家族と向き合いながら、少しずつ変わっていきます。

【中川さん】加害者側の心の痛みや未熟さ、足りていない能力、そして学び、変わっていくプロセスを、生々しく描くことにこだわりました。特定個人のストーリーを漫画にしたわけではありませんが、GADHAのメンバーも僕自身も、多くの人が通ったプロセスを描けたと思っています。

――加害の状況が生々しく描かれていますが、とくに「お前が俺を怒らせているんだよ」と、血走った目で妻を罵倒するシーンが印象的でした。

【中川さん】自分が行っている加害の責任を、全て相手のせいにしています。しかも、妻が再び信頼を築こうと、勇気をもって寄り添おうとしてくれたのに…。そこでまた暴力を振るうことは、とんでもない痛みを相手に与えますし、妻は「やっぱり信じなければよかった」「やっぱり人は変われないんだ」と絶望して、信じることをやめていくでしょう。このシーンのモラハラは、最も罪深いと思います。

――「こんなことくらいで傷ついて…」というセリフも、モラハラシーンでよく語られます。

【中川さん】自分の家庭や学校、職場で当たり前だったコミュニケーションが、違う環境では暴力と認識されることってありますよね。大事なのは「このくらい自分にとっては普通」「傷つくようなことじゃないんだから、加害者なんて言われたくない」と思うのではなく、「これによって傷つく人がいるかもしれない」「一緒に生きていきたい人を傷つけるのではなく、ケアできる人間になりたい」と思えることです。そして、それが可能だということを知ってほしいです。

――加害者は、変わることができますか?

【中川さん】人は学び、変わることができます。失敗することもあります。でも、知識を持った仲間と共に、弱音を吐きながら、愚痴をこぼしながら、支え合いながら、変容を認め合い、励まし合いながら、変わっていくことができます。どうか、ひとりでも多くの人が「自分に変えられる部分がある」と信じてほしいです。それが、加害者と被害者を減らし、ひとりでも多くの人が生きやすい社会につながると信じています。



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