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「いつか卵かけご飯を世界に…」養鶏農家に飛び込んだ20代女性が見た現実と夢

2022-09-30 15:30 eltha

 インスタグラムに並ぶ、バリエーション豊かな卵かけご飯(TKG)の数々。投稿者は、卵かけご飯が大好きな田中麻衣さん、25歳だ。「おいしい卵かけご飯を広めたい」という夢を握りしめて、学校を退学。各地の養鶏場を訪れ、住み込みで働くなどして学んだ後、限定店舗やキッチンカーにてTKGを提供。さらにSNS発信を通じて、その魅力を広める活動をしている。今まで提供した卵かけご飯は、実に420食。その思いの裏にある努力と、現実の厳しさとは。

20代半ば、夢に向け奮闘する田中麻衣さん。お店で卵かけご飯を提供するときのお気に入りのコスチュームを着て。

20代半ば、夢に向け奮闘する田中麻衣さん。お店で卵かけご飯を提供するときのお気に入りのコスチュームを着て。

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■養鶏農家に住み込みで体験 ヒヨコの寝かしつけや、イジメられた鶏の世話も

 麻衣さんが活動を始めたのは、20代前半の学生時代。今まで食べていた卵かけご飯のおいしさに、ある日突然、強く心を揺さぶられた。学校を辞め養鶏の現場に飛び込んだ。ただ卵かけご飯が好きという一心で、迷いはなかった。

「偶然にも友達に養鶏家さんと知り合いの子が複数人いたので、繋いでもらいました。『卵かけご飯が大好きで、養鶏に興味があります! 養鶏を体験させてください!』とお願いしたら、『珍しいね(笑)。いいよ』と、快く受け入れていただきました」

 養鶏場で学んだのは、主に鶏の世話と卵の出荷。1日3回、鶏が産んでくれた卵を手で拾い集め、餌を作り、2度の餌やりや水の管理をする。集めた卵を拭いて、パック詰めをし、出荷できるようにする体験もした。

「毎日鶏に異常がないか観察したり、時にはヒヨコの寝床を作って、寝かしつけたりもしました。あとは、イジメられた鶏の看病や、お年寄りの鶏がお肉になる前にその準備をしたりもします」

 特に大変だったのは、力仕事。田中さんは、一袋12kgの餌袋を3つ、合計36kgを一輪車に乗せ、鶏舎まで運んで餌箱に流し込む作業も担当した。合計9鶏舎やると汗だくになり、体力も消耗。また、鶏の餌となる緑の草を集めるために、毎日草刈りも。高さ60cmの大きなバケツ9個分をパンパンにするのは、かなり根気のいる作業だったと振り返る。

 住み込みでの仕事を通して得た田中さんの大きな財産は、鶏を間近で見て、触れ合って、肌で感じたこと。

「目の前で卵を産んでくれたり、鶏の習性を観察したり、雄鶏のキックで足のアザが沢山できたり。いじめられて弱ってしまった鶏のお世話をしたり、これからお肉になる鶏を見送ったり…。卵を産んでくれる動物である前に、生き物であることを忘れたくないと強く思いました」

 今までに訪れた養鶏場は13ヵ所。大好きな卵かけご飯の卵を産んでくれる鶏たちについて知り、どのようにして自分たちに届くかを学んだことは、その後の活動の大きな基盤にもなっている。

■物心ついた時から、朝の白ご飯はTKG一択 数々の卵から選んだオススメの逸品は?

田中さんイチオシの冷凍卵で作る「宝石卵TKG」。キッチンカーでも提供した。

田中さんイチオシの冷凍卵で作る「宝石卵TKG」。キッチンカーでも提供した。

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 そもそも麻衣さんが卵かけご飯にハマったのは、子どもの頃まで遡る。

「物心ついた頃から、朝起きて白ご飯があったら、卵かけご飯一択だったので、生まれつき好きなんです(笑)。でもある時、卵は卵でもいろいろな種類があると知ったことをきっかけに、口にかきこんでいた卵かけご飯を、ちゃんと味わって食べるようになりました」

 味わうようになってからは、どんな卵でどんな食べ方をしたか自分用に記録するためにSNSに投稿。続けていくうちに少しずつフォロワーが増えていった。

 現在、麻衣さんが食す卵かけごはんは週に8回程度。数々の卵かけご飯を試し、味わってきた彼女には、おすすめの卵がたくさんある。1つは、ワタナベファーム(栃木)の「こはる」。4種類の卵を作っているうちの一つが「こはる」で、おすすめはお米と卵のみで食べること。

「甘みが優しいけどしっかりあって、これだけでもう完成なので、私の役目はありません(笑)。弾力のある白身も大好きです」

本間農園(佐賀)の卵は、卵かけご飯が苦手な人にも試してほしいという。レモンイエローの黄身で、臭みのない、あっさりした味わいでスルスルと食べられる。カヤニファーム(北海道)の卵も驚きの味わいだそう。

「お出汁のような香りがします。鮭や昆布を食べて育っていると聞いて納得。コクと旨味があって、上品な卵かけご飯を味わえます」

■直面する海外と日本の文化の壁 「養鶏の現場と、鶏の生き方を楽しく伝えたい」

イベントでTKGを提供する田中さん。「TKGでは生計を立てられない。経営についても学んでいる最中です」と話す。

イベントでTKGを提供する田中さん。「TKGでは生計を立てられない。経営についても学んでいる最中です」と話す。

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 今、麻衣さんの夢は、日本の卵かけご飯の魅力を、海外にも広めることだ。しかし生卵を食べるのは日本特有の文化でもあり、その道のりは容易ではない。

「卵かけご飯を世界に広めた人がいないので、それを実現する方法がずっと分からないです。ただ、文化を作るのには時間がかかりますし、生卵を嫌う人たちに押し付けるのは違います。卵かけご飯を受け入れてもらう前に、まずは日本の卵が海外に注目されることが必要な気がしています」

 海外、特にヨーロッパでは、動物の飼育環境に配慮する考え方“アニマルウェアフェア”が広まっている。しかし、国土面積などの関係で、日本では平飼いが難しいため浸透せず、現在も多くがケージ飼い。鶏が身動きの取れない部屋で、マンションのようにケージが縦に何段も積まれている状態が一般的なのだと言う。

「ケージ飼いというだけで、海外から見向きもされないと聞いたことがあります。日本の卵かけご飯を受け入れてもらう条件の一つには、日本の卵への信頼と安心が必要だと思うので、日本での数少ない平飼い卵が注目されることが最初の段階だと思っています」

卵かけご飯に出会ったことで、思わぬ道に飛び込むことになった麻衣さん。新しい出会いで世界が広がる一方、海外にも広めたいという夢を叶える道筋が見つからず葛藤する毎日だ。TKGだけで生計を立てるのは難しく、現在は、知り合いのもとで働くかたわら、ビジネスノウハウも学んでいる。

もちろん、SNSで卵と鶏について発信したり、お店を1日単位で借りて卵かけご飯の飲食提供をしたりと活動は継続中。

「消費者からは見えにくい養鶏の現場や鶏の生き方を、楽しく伝えたい、その先で卵かけご飯を海外に広めることが今の私の夢です。この記事を目にして、少しでも興味を持ってくださった方がいらっしゃったら、ご意見、アドバイス、文句(笑)、コラボやお誘いもお待ちしています!」

 物心ついた時から大好きだった卵かけご飯のルーツを辿り、その魅力を伝え続ける原動力は、もっと多くの人に知って欲しいという純粋な思い。25歳、麻衣さんの夢はまだ始まったばかりだ。



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