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【女性起業家】ホームレス向け人材サービスで貧困問題に取り組む女性起業家の奮闘「職を求める一方で人手不足も」

2022-02-02 eltha

Relight代表取締役社長の市川加奈さん

Relight代表取締役社長の市川加奈さん

 住所や携帯、身分証がない、一般的には就職することが難しい人に仕事を紹介する人材サービス『いえとしごと』を運営するRelight代表取締役社長の市川加奈さん。日本では、ネットカフェや車中などで生活している“見えない”ホームレスの人が存在し、その多くは日雇いで収入も安定していない。そうした人たちに仕事と住む場所を提供し、ボランティアではなく、持続可能な形で貧困問題の解決に務めている。同事業の背景を始め、コロナ禍で浮き彫りとなった女性の雇用問題について語った。

職と住まいを探す人だけでなく、人手不足で困っている企業も多い、双方を繋げる仕組みが必要

――起業前は、どのような仕事をしていたのでしょうか?

市川加奈さん ボランティアではなく、持続可能な形でホームレスや貧困問題を解決したいと学生時代から考えていました。大学卒業後、民間事業としてホームレス問題に取り組むソーシャルビジネスのボーダレス・ジャパンに新卒で入社しました。同社の既存事業で数年修行をした後、26歳の時に起業しました。

――在籍当時は、どのような取り組みを行っていたのでしょうか?

市川加奈さん バングラデシュの貧困問題を解決する事業で、生産管理やスタッフ管理を行っていました。その後、国内で工場を立ち上げる際に、工場長として機械の調達や採用、生産管理をしていました。その工場では、発達障害のある方や精神面での不安を抱える方も在籍していたのですが、ホームレス状態の方でも精神・発達障害をお持ちの方がいるので、その時の経験が今の事業に活かせています。

――人材サービス『いえとしごと』の立ち上げについて教えてください。

市川加奈さん 一概に「ホームレス問題を解決する」といっても、人によってその実情は異なります。当事者に話を聞くと、ネットカフェでの寝泊まりや友人宅で居候、車中生活といった「見えない」ホームレス状態の人や、実家で生活しているが自立したいなど、比較的若い世代で仕事と住まいの両方を探している方が、一定数いることに気が付きました。その一方で、人手不足で困っている企業も多い。双方を上手く繋げる仕組みが作れるのではないかと思い立ち上げました。

――どのような背景のもと、「貧困問題」に取り組むようになったのでしょうか?

市川加奈さん 私は、ごく一般的な家庭で過ごしました。東京西部出身で、持ち家が多く、家のない人がいるなんて想像できませんでした。当時は、高齢者と触れ合う機会も多く、介護福祉士を目指していました。しかし都心に出ると、初めて路上生活をしている高齢者を見かけて、「なんでこういう人たちがいるのだろう?」と疑問に思いました。高齢者が路上で寝ていても、みんな見て見ぬふりをしている。それから日本社会の格差やアンバランスさについて考えるようになり、ホームレス問題や貧困問題に関心を持ち始めました。

職場や住居の提供だけでなく、就職後のメンタル面でのサポートも

――『いえとしごと』では、住所、携帯、身分証がない、一般的には就職することが難しい方に仕事を紹介しています。どのように受け入れ企業を見つけているのでしょうか?

市川加奈さん メールや電話でアポ取りをした訪問営業が中心です。営業をしていると、「なんでお金を払って受け入れなくてはいけないのか?」「無料でも利用したくない」と言われることもありました。最近では、テレビやメディアで紹介された記事を見た企業から連絡をいただくことも増えました。

――受け入れ企業からは、どのようなコメントが届いていまか?

市川加奈さん 実際に採用し上手くいった事例では、「自社で募集をかけるよりも良い人材が確保できた」「そもそも応募が来ないので、紹介してもらえて嬉しい」といった声が寄せられています。“家がない”からといって変な先入観を持たず、その人自身を見てもらいたいと企業にはお伝えしています。一方で、早期離職してしまう人がいるのも事実です。しかしそれは、“家がない”人に限ったことではありません。

――『いえとしごと』で就職した方は、主にどのような職についているのでしょうか?

市川加奈さん 主に警備、介護、製造、配送などの業種が多いです。最近では、飲食や観光など、コロナ禍の影響を受けていた業種からの募集も増えてきました。昨年11月末時点での問い合わせは6095名、実際に面談をしたのは1393名、就職したのは377名です。面談をしたが就職に繋がらなかった方のなかには、行政の支援に繋がった場合や、弊社の紹介以外でも自力で仕事を見つけた方もいます。

――就職支援以外には、どのような支援を行っているのでしょうか?

市川加奈さん 就職後は、定期的に連絡を取り、ひとりで悩みを抱え込まないような関係性を築くようにしています。また、仕事に就くこと自体が難しい方には、行政やNPO団体と連携して福祉制度に繋げるなど、生活を立て直せるように、それぞれに合った生き方を提案するようにしています。そのほか、さまざまな理由で物件が借りられない方向けの賃貸サービス『コシツ』も運営しています。

――『コシツ』の現状について教えて下さい。

市川加奈さん 『いえとしごと』を通じて、仕事紹介の必要はないが、身分証が揃わず家が借りられない人が多くいることを知りました。また、就職支援後に音信不通になるケースもあり、紹介後も、相談される方にとって無理のないかたちでサポートできる仕組みが必要だと感じ、物件事業を開始しました。もともと『いえとしごと』で家賃保証会社との関わりがあったので、管理会社や大家さんに繋げてもらっています。まだ本格的に事業展開ができていないのですが、問い合わせは約300名、そのうち8名の方が入居しました。

コロナ禍で女性の就職相談が増加、性産業に踏み込むしかない社会構造が問題

――「NPO法人に支援を求める女性の声が相次いでおり、コロナ禍に職を失い、女性にそのしわ寄せがきている」とも言われています。男性に比べて未だに正規雇用の壁は高く、非正規雇用で働かざるを得ない人も多い。そうした現状について、どのように感じていますか?

市川加奈さん 世間一般の寮付きの仕事に関しても、肉体労働などの男性向けの仕事は多く、女性向けの仕事は圧倒的に少ないと感じています。特にコロナ禍では、飲食や観光などの接客業が打撃を受け、非正規雇用の女性に影響があり、なかなか弊社でも仕事を紹介できず困りました。非正規雇用の問題に関しては、本来男女関係なく議論しなければならない問題だと思います。働き方や育児などの生活面でも、より男女均等になってほしいと思います。

――コロナ禍で、女性からの相談や就職支援が増えましたか?

市川加奈さん 通常相談される女性の割合は、全体の2割程度です。コロナ禍では、全体の3割に増えました。

――母子家庭の貧困問題も深刻ですが、どのように感じていますか?

市川加奈さん 母子家庭の方は、住まいを失う前に支援制度を利用される方が多いようです。子育てと仕事をひとりで行うことは、困難なことだと思います。第三者の頼れる存在や充実した制度を社会全体で補い、支えていく必要があると感じています。
――例えば女性の場合、「性」を仕事にするなど、貧困が故に負の連鎖も生まれています。女性ならではの苦悩を同性だからこそ解決できることがあるのでしょうか?

市川加奈さん 相談内容が男女で大きく変わることはないです。なかには、「男性に相談するのは怖い」という方もいます。その際は、同性スタッフが対応することで安心していただけています。そもそも福祉や弊社のようなサービスに相談することなく、性産業で生計を立ててしまっている社会構造に問題があります。身体や精神的に体調を崩すまで支援に頼らない。もっと福祉を利用したいと思ってもらえるような状況に変えていかないといけないと感じています。

――「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」ことも、SDGsの取り組みのひとつです。「女性の心や体の健康、仕事など、社会との関わり」についてどのように考えていますか?

市川加奈さん 女性にフォーカスした制度や雇用の拡充はもちろん重要です。それと同時に、男性が育休を取りやすい環境や定時帰宅し家事がしやすくなるなど、男性にも制度や支援が必要だと考えています。ジェンダーにより社会の役割がわけられるのではなく、男女ともにバランス良く、仕事や家庭を大切にできる仕組みが必要だと感じています。

――これまで生活サポートを総合的に行うなか、感じたことはありますか?

市川加奈さん 働きたい人が多くいる一方で、働き手がなく倒産する企業もあります。そうした雇用の不均衡に疑問を抱いています。生産性を求める上で、採用に関しても改善を繰り返し「携帯がない、身分証がない」など、わかりやすい判断基準で人を削いでいった結果、人手不足に陥る。選考の段階で決めつけず、それぞれの可能性にかける社会に変化していけたらと考えています。『コシツ』は、早期に家のない状況を改善する事業です。今後はそれと似た視点で、さまざまな問題を未然に防ぐことができる事業を展開していけたらと思っています。
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