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乳がんの再発に備える保険も登場“がんサバイバー”を支える社会へ 官民で進む取り組み

2022-10-20 eltha

乳がん検診の受診などを呼びかける「ピンクリボン月間」が始まり、各地でさまざまなイベントが開かれている。自治体では施設をピンク色に彩るライトアップや特設サイトの開設、企業ではセミナーやトークショーなどを展開。乳がんについての理解、啓発、早期発見の重要性を説く。また、“がんサバイバー”に対しては近年、乳がんの再発にも対応する保険、経験したがんの種類やステージに制約がない保険 なども登場している。日本人の2人に1人ががんに罹患すると言われる現代、“がん社会”でいかに生きるか、官民による取り組みが活発になっている。

官民で広がるがん検診の受診率向上と治療と仕事の両立支援

 『がんの統計2022』(公益財団法人がん研究振興財団)によると、近年、日本人女性の9人に1人が乳がんになるという。40〜50代女性のがん死亡原因のトップにもなっている。一方で、乳がんは早期発見・治療ができれば治る可能性が高く、官民で定期的な検診とセルフチェックの啓蒙、推進が行われている。

 今年、活動20年目を迎えたある官民提携プロジェクトでは、特設サイトで乳がんを経験したアイドルや料理家をゲストに迎え、疾患した際の体験を公開。シンポジウムや医師によるセミナーとあわせ、“がんサバイバー”のリアルな声を届けることで、乳がん検診受診率の向上を目指す。
 
 また、2009年度には、厚生労働省の委託を受けた国家プロジェクト「がん対策推進企業アクション」が発足している。これは推進パートナーとなった企業・団体とともに、企業におけるがん検診の受診率向上と治療と仕事の両立支援を推進していく取り組みだ。がん検診受診率を50%以上に引き上げることを目標に、現在では4500以上のパートナー企業・団体が加盟している。

 2016年12月には、がん対策基本法が改正され、企業側が事業主の責務としてがん患者が雇用継続できるよう配慮したり、国や地方公共団体ががん教育の推進を行うことが求められるようになった。

 実際に女性の社会進出や定年延長が進む状況では、企業で働くがん患者数は増えていく。人材喪失を防ぐためにも、国や地方、官民が一体となり、がんと共生する社会が必要となってくるわけだ。

女性のがんサバイバーの多くが口にする「経済面」「家族」の不安

 ただ一方で、課題も残されている。女性は男性に比べて、若い世代のがん患者が多いという。厚生労働省『平成30年全国がん登録 罹患数・率 報告』によれば、50代前半までは女性の方ががんと診断される人の数が多く、30代では女性の患者数は男性の約2.5倍という結果も出ている。働き盛りのOLからしても、独立する前の子どもを持つ主婦でも、比較的若いうちの方が経済的な不安も大きい。

 ある少額短期保険会社の社員は女性がんサバイバーの現状をこう語る。

「女性のがん患者にヒアリングすると、経済面やご家族を心配している方が圧倒的に多いです。ご自身の症状のことよりも、治療による家計や学費への影響、子どもやご主人の生活を心配なさっています」

 いくら官民が一体となり、がん予防や継続雇用を推進したところで、やはり保険など実用的な面ではまだ実装が難しい側面もあるようだ。

女性特有のがんの再発に備えるための保険も登場

 そんな中、昨年8月、がんを罹患した女性でも加入できる保険が誕生した。『乳がん・子宮頸がん・子宮体がん再発保障保険』(MICIN少額短期保険株式会社)は、現在術後治療で通院している人も、がんの手術から6ヵ月が経過していれば申し込みができる。

 健康な人向けに作られた保険よりも、がんに罹患したり 再発の可能性が高い患者を対象にした保険は、企業にとってリスクが高いはず。それでも柔軟に加入できる保険を誕生させた背景を、同社代表の笹本晃成さんはこう話す。

「基本的にがんに罹患した患者は、新たに保険に加入するのは難しく、加入できたとしても保険料が高額になる懸念があります。一部では、最後の治療から5年経過した後に入れる死亡保険もありますが、がんの再発率が5年以内が高いことを考えると、利用できない方も多いのではないでしょうか。『がんになっても加入できる保険が欲しい』『家計を圧迫しないよう少額から始められる保険が欲しい』というがん経験者の方々が気兼ねなく簡単に利活用できる保険が必要だと考えました」

 実際に誕生から1年近く経った現在では、子宮頸がんや子宮体がんを経験した20〜30代の加入者も増えているそうだ。若い世代からの資料請求も増えてきているという。

「がんになっても保険の仕組みを知らなかったり、がんに罹患してから自分が保険に入れないことに気づくという方はすごく多い。そんななかで、我々が間口を広げた保険を誕生させたことを、他社の保険会社さんと協力しながら広めていきたい。大病を患ったり、心身ともに不安を抱えてる人のセーフティーネットの1つになれたら」

 同社では今年、経験したがんの種類やステージに制約がなく、診断確定から最短6ヵ月で申込みができる保険も新たにスタートさせた。がんサバイバーが生きやすくなる制度や選択肢は、官民を通して徐々に増えている。現状では課題も残るが、がんを罹患してもより安心して生活できる社会を作るため、これらをサポートするプロジェクトや保険の存在が広く周知されることが重要だろう。

(取材・文/佐藤隼秀)
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