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「外見いじりは“アリ”だった」個性派俳優うらじぬの、行き過ぎる反ルッキズムへの違和感と“個性派”冠への想い

2023-07-20 eltha

 小劇団界の売れっ子から、30歳でテレビデビュー。キャバ嬢や喪女(モテない女性)役で無二の存在感を放ち、近年、名バイプレイヤーとして注目を集めている俳優“うらじぬの”。今夏、初の主演映画、ふくだももこ監督作『炎上する君』が公開される。独特の世界観で女性の友情を描く同作は、女性蔑視やLGBTQ、ルッキズム問題などを内包する。演じた役柄と「共通点が多かった」と話す彼女に、改めて「ルッキズム」への想いを聞いた。

“インパクトのある顔だな”がコミュニケーションとして成立していた過去

「私、よく“インパクトのある顔だな”みたいな言葉を言われるんですけど、あ、他にも“面白い顔だね”“なんかお餅みたいな顔だね”とか(笑)。でもそれが、これまではコミュニケーションとして成り立っていたんですよ。ところが今は、ルッキズムを考えていこうという流れの中で、“外見いじりはだめ”といった風潮が強くなっていますよね。私の場合は相手との関係性で成立する言葉だったので、反ルッキズム思想は、すごく難しい問題だなって感じているんです」
 そう語るうらじぬの。初主演作となる『炎上する君』では、政治家の女性蔑視発言のような明確な抑圧だけでなく、居酒屋の会話の中で起きる性の消費やLGBTQへの偏見、お笑い芸人によるルッキズムネタなど、今の社会にある当たり前の日常、でも確実に誰かの心を抉る現実に鬱憤を抱える梨田を演じる。同作は西加奈子の同名小説が原作で、親友・浜中(ファーストサマーウイカ)との独特な友情にもスポットが当てられている。

「映画版では描かれていませんが、原作では私が演じる梨田は、中学生の時に男子生徒から差別的な見られ方をしていたという場面があるんです。私もそういった蔑視的な発言じゃなくても、少し特殊な扱われ方をしていた経験があって。梨田とはおかっぱ頭や年齢なども含め、共通点がとても多いです」

 彼女いわく、学生時代はスクールカースト上位のモテモテ女子のような存在がいて、自身と友人らのグループは「不思議なジャンル、新しい独自の感性の人間たち、みたいな位置づけにいた」という。ただし、それを差別とは考えてなかった。

 外見重視主義によって苦しむ人たちが大勢いるのは知っている、自身もどちらというと容姿を軸としたグループ階級で独特なポジションにいた、それでもそこにネガティブ感情はなく、ただ他者との違いと認識してきた。ゆえにルッキズム問題は難しい、と打ち明ける。
2023年8月4日公開『炎上する君』(C)LesPros entertainment

2023年8月4日公開『炎上する君』(C)LesPros entertainment

2023年8月4日公開『炎上する君』(C)LesPros entertainment

2023年8月4日公開『炎上する君』(C)LesPros entertainment

見向きもされなかった映像界からの需要「それでも主軸は変わらない」

「今、急速に反ルッキズムの考え方が広まっていますよね。急ピッチすぎるから、ひずみも当然起こると思うんです」

彼女にとって外見に関する“いじり”は、その人との関係性によって成り立つひとつのコミュニケーションとなっていた。だが「絶対傷ついているはずだ、といった決めつけにも私自身は抑圧を感じますし、逆に“美”という概念に関して違う差別が生まれてしまうということもあって、答えが見つからない」とルッキズムの難しさを口にする。

 とはいえ、やはり外見重視主義の問題については、“俳優”という職業で肌で感じたことがあるという。

「大学は舞台芸術学科だったんですけど、映像学科の人が自分たちの映像に出てくれとスカウトに来るんですよ。でも友達は全員呼ばれているのに私だけ全然スカウトされなくて、それですごく腹が立って(笑)。“なんかもう映像とかって全然興味ないから”というモードに陥ってましたね(笑)」
 気持ちは自然と舞台へ向かった。大学卒業後はこまばアゴラ演劇学校・無隣館で芝居を学び、劇団子供鉅人に入団。小劇場界では知らない人はいない人気者になった頃、突然、テレビからオファーがかかった。

「嘘でしょと思って。“こんな私で大丈夫ですか”みたいな。どう映るんだろうと。多分、ルッキズム的なものも、頭にあったんです。テレビドラマなどの映像作品だと、何と言ったらいいか…華のあるきれいな皆様が出演するものだというイメージが当時はあったので、私はどういうポジションで選ばれたのだろう、と」

 結果、2019年にゲスト出演した『フルーツ宅配便』(テレビ東京系)のデリヘル嬢以降、喪女役など個性的なキャラクターを演じ、新たな名バイプレイヤーとして期待を集めた。

「縁がないと思っていた映像に呼ばれることは素直に嬉しいですね。でも、海外の作品に比べたら日本のテレビドラマはまだまだ、“華のある方々”が主軸だよなとも思ってて。もっといろんな外見や個性の人が主役になった作品が増えれば、見てる側も面白いし、エンタメも豊かになるんじゃないかな、と思います」

“個性派”へのとまどいと畏敬、いずれは「大木のような俳優」に

 そんな彼女の“表現”の原点のひとつは、日舞の先生をやっていた祖母。よく遊びに行って見学をした。その時に「人前で何か表現をする行為がある」ということに初めて気づいた。

 その後、小学生で初めて人前で演じる経験をした。好きな時代を調べて発表するという授業で、化石人類“アウストラロピテクス”を演じ、ペアの男子が通訳するという形式を試みた。皆が資料で発表するなか、エンタメ路線に振り切った発表は「面白かった」と大好評だった。「今も映像のお仕事などで“この役がうらじさんで本当に良かった”といっていただけると、素直にうれしいですね」と、笑顔を浮かべる。
 中学で演劇部に入り、以降、高校・大学・養成学校と演技の道に進んだ。演技の世界に入って約20年。テレビデビュー以降、“個性派俳優”と称されることが多い。

「不思議ないわれ方ですよね。皆さん誰も個性的。その個性のなかで私が“個性派”といわれる。不思議なジャンルだと思います。どういう位置づけなのか。私自身はあまり実感がないまま演じていますが(笑)」

 ただ名バイプレイヤーと呼ばれる先輩俳優や、他の個性派俳優と呼ばれている先輩のテリトリーに入れてもらうこと、それはうれしいという。「華のある主軸の場ではなく、脇や下から支える存在という意味での“位置づけ”で、“個性派”といっていただけているとしたら、本当に光栄で恐縮といいますか」
 “個性派”の定義は分からない、でも、呼ばれるからには「個性的な爪痕を残したい」と話すうらじぬの。将来の目標は「年輪を重ね続けた大木のような俳優」と胸を張る。ちなみに芸名の「うらじぬの」は洗濯物を畳んでいた時に浮かんだ言葉。インパクトのある名前にしたいと名字から「ぬの」を取り、「うらじ」をつけたが、「今話していて思い出しましたが、先日雑談をしていて服って裏地布が大事、裏から支える欠かせない存在って話をしたんですよ。今日から芸名の由来、それにしていいですか? 作品を彩る俳優として、実はそういう意味があると(笑)」と無邪気に話す。

 臨機応変でサービス精神もたっぷりな彼女の“個性”。実は欧米などでは日本の映画は過去の栄光しかなく、今は倉庫に眠りがちだと嘆く映画関係者は少なくない。彼女のような俳優が数多く映像作品に出ることで、物語のジャンルや設定、展開は大きく広がる。それによって、日本の映像作品が再び世界から認められる未来が来るかもしれない。

ヘアメイク/加藤遥香 スタイリスト/川上麻瑠梨
衣装/ベスト¥35,200、ワンピース¥41,800、シャツ¥35,200/全てESLOW(ENKEL 03-6812-9897)※価格は全て税込

(撮影/徳永徹 取材・文/衣輪晋一)

2023年8月4日公開『炎上する君』

何度も現実に絶望する2人の女性が世にも奇っ怪な「炎上する男」を探すシスターフッドムービー。
キャスト:うらじぬの×ファーストサマーウイカ
脚本・監督:ふくだももこ
原作:西加奈子「炎上する君」(角川文庫/KADOKAWA)
劇中歌:ゆっきゅん『DIVA ME』
エンディング曲:ゆっきゅん『NG』

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