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幼児教育にAI「しまじろう」導入、親の本音は? 強力IPだからこそ実現した“無機質さ”と一線画す“温かみ”

2024-03-05 eltha

 先日、生成AIを巡り、著作権侵害について一定の考え方を検討する文化審議会の小委員会が開かれました。各分野での活用が進む一方で、安全性に対する懸念も上がっています。そうしたなか、ベネッセは生成AIを搭載した幼児向け会話型新サービス・AI「しまじろう」をスタートさせます。「しまじろうに命を吹き込み“らしさ”を再現した」と言うように、35年愛され続けるIPとして強みを活かしたAI「しまじろう」は、これまでの機械的で無機質な生成AIとは一線を画す温かみがあります。親子体験会に参加した京都在住の中山さんと埼玉県在住の天海さんに、子どもが生成AIと会話をする様子を見て感じたことや、幼児教育活用への不安や未来について聞きました。

【動画】AI「しまじろう」の全貌は?

幼児教育の知見を活かし、“言葉の豊かさ”を育む手助けをAI「しまじろう」が担う

AI「しまじろう」(ベネッセより)(C)oricon ME inc.

AI「しまじろう」(ベネッセより)(C)oricon ME inc.

 ベネッセの0〜6歳の子を持つ保護者調査(2023年)によると、直近5年でワーキングマザーの割合が18%増加し、共働き世帯の増加により「忙しく子と十分に関わり切れない」という課題を抱えています。子どもに身につけさせたい力として、「生活習慣」に次いで「言葉による伝え合い」が高く、忙しい中でも「コミュニケーション能力を高めたい」「基礎学力、英語の力をつけたい」といったニーズがありました。

 そうしたなか、今回の幼児向け生成AIサービス開発の背景を、ベネッセホールディングス専務執行役員CDXOの橋本英和さんはこう語ります。

「“変化の激しい未来”を生きる子どもたちにとって、『コミュニケーション力』『主体性・発信力』『課題解決力』といった資質が、これまで以上に必要になると考えられています。そうした資質の基盤となる『言葉の豊かさ』を育むために、『こどもちゃれんじ』で培った35年にわたる幼児教育の知見を活かし、生成AIを活用したサービスの開発を検討していました」
(左から)ベネッセホールディングス専務執行役員CDXOの橋本英和さん、ソフトバンクロボティクス取締役CMOマーケティング統括担当の蓮実一隆さん(C)oricon ME inc.

(左から)ベネッセホールディングス専務執行役員CDXOの橋本英和さん、ソフトバンクロボティクス取締役CMOマーケティング統括担当の蓮実一隆さん(C)oricon ME inc.

 ベネッセの幼児教育のノウハウと、ロボットのPepper(ペッパー)で知られるソフトバンクロボティクスの「生成AIの活用知見」を活かし、共同開発したのがAI「しまじろう」です。

「質問すること自体が難しい幼児に、生成AI側から話しかけるシステムを導入しています。3〜4歳の幼児に知っておいてほしい言葉がデータに入っています。そこから生成AIが、日々の良い習慣になりそうな言葉を織り交ぜて、積極的に話しかける。飽きずに毎日使い続けてもらうために、日常会話だけでなく、歌や読み聞かせ、言葉遊びもたくさん取り入れています」(ソフトバンクロボティクス取締役CMOマーケティング統括担当 蓮実一隆さん)

間を置かず言葉のキャッチボールも…しまじろう“らしさ”を再現し、AI特有の違和感を払拭

AI「しまじろう」(ベネッセより)

AI「しまじろう」(ベネッセより)

 AI「しまじろう」は、専用のスマートフォンアプリと、スマートフォンをホールドできる専用の「しまじろうぬいぐるみ」を組み合わせて使用します。しまじろうと自由に会話できる「おしゃべり」機能を始め、ごっこ遊びや連想ゲーム、読み聞かせなど、全機能で英語にも対応。子どもは、会話しながら自然に語彙を増やしていくことができる。一方の保護者は、会話中の子どもの感情や興味の動きについてのレポートを専用サイトで閲覧できます。

 これまでAIが発する声は、機会的で違和感があるものがほとんどでした。蓮実さん「35年育ててきたキャラクターを汚してはいけない緊張がある中、しまじろうの個性的な声や話し方を再現するのは、相当大変でした」と振り返ります。1000個の音声データを作成し、しまじろうの家族や友達、嗜好だけでなく、言わなそうな言葉を省くなど、さまざまな方法で“らしさ”が再現されています。
AI「しまじろう」(ベネッセより)

AI「しまじろう」(ベネッセより)

 体験会には、初めてAI「しまじろう」を使う3〜4歳の子どもとその親が会場を訪れました。子どもたちに拙い発音の言葉があっても正確に聞き取って会話を進め、興味がありそうな質問を投げかけるなど、ほとんど間を置かずに言葉のキャッチボールが続き、子どもたちからは笑顔がこぼれていました。

 埼玉県在住の天海さんは、AI「しまじろう」に興味を持った理由を「一方通行ではない会話ができて、言葉を覚えられたり、会話の広がりがあったりして、子どものためになるかなと思って参加しました」と言います。日頃から子どもの自主性を尊重する中、生成AIが役立てられるかもしれないと期待します。

知りたいことを全て生成AIで片付けてはダメ 子どもの思考力を高める上での制限も必要

AI「しまじろう」(ベネッセより)

AI「しまじろう」(ベネッセより)

 生成AIといえば、教育に活用され始めた一方、フェイク情報や偽画像などをインターネットにあふれさせている側面もあります。利用者には、生成AIによる危険性への認識や情報を扱うリテラシーも求められるだろう。小学生からスマホを持ち、幼児教育に生成AIを使う時代のリテラシー教育について、親はどのように考えているのでしょうか。

「早い段階で子ども用パソコンでプログラミングなどに触れておいたほうが良いと思っています。同時に、情報の取捨選択をしっかりできるようにならないといけない。まず子どもにスマホを持たせる前に、親と一緒に触る時間を長く取ろうと思っています。その中で正しい情報なのか親子で考えて、理解できるようになった段階でスマホを持たせようと思っています」(東京都在住中山さん)
 一方、生成AIの教育への活用に関しては、「子どもたちの思考力の発達を阻害する」「タイパを求める思考になる」といったさまざまな議論があります。そうした状況の中、中山さんは生成AIによる幼児教育に「不安が全くないわけではない」と言います。

「知りたいことを全部、生成AIに聞けば良いとなってしまってはいけない。自分で考えたいと思うことを大切にしたいので、使う時間や曜日を決めて制限するのがまずひとつ。生成AIを使えない日は、生成AIに聞くことと自分で調べたいことを考えてまとめたり、親がタイムスケジュールを管理して上手く付き合っていかないといけないと思います」(中山さん)
AI「しまじろう」体験会に参加した中山さん親子(C)oricon ME inc.

AI「しまじろう」体験会に参加した中山さん親子(C)oricon ME inc.

 生成AIは、ディープラーニング(深層学習)を重ねることでAI自ら学習し、与えられていない情報やデータをインプットして新たな結果も生み出します。AI「しまじろう」のように管理されたサービスであっても、リスクは意識していないといけないことになるでしょう。

「ネットの生成AIが作った画像は大人でも騙されます。子どもへの対策をどうして良いかわからない部分でもあります。親子で勉強ができる場があると良いのですが、一緒に学んでいきたいです」(中山さん)

 一方、天海さんは「難しいこともありますが、親子で使えばカバーできるところもあるのではないでしょうか。いまの段階でまだはっきりとはわかりませんが、いろいろ試してみるのも良いと思っています」とポジティブに見据えます。

AI「しまじろう」との会話に喜びも…“子ども言葉”ではない正確な言葉を自然と身につけられる

AI「しまじろう」体験会に参加した中山さん親子(C)oricon ME inc.

AI「しまじろう」体験会に参加した中山さん親子(C)oricon ME inc.

 実際に子どもと一緒にAI「しまじろう」を使った後、中山さんは「会話のキャッチボールが普通にできることに驚きました」と目を輝かせます。

「息子はいつもテレビの『しまじろう』に話しかけて、返事がなくてさみしそうだったのですが、今日はすごく楽しそうでした。会話をしていることに喜びを感じていると思います。仕事や家事で手が離せない時でも、子どもは親のスケジュールなんて関係ありません。そういう時に、AI『しまじろう』が質問に答えてくれることで、子どもが常に好奇心を持っていられるように、上手く活用できると思いました」(中山さん)

 一方、心配な点としては、「間違った情報や日本語が、そのまま会話の中で使われてしまうこともあると思う。できるだけ子どもと一緒に話をしながら使えたらいいなと思います」(中山さん)とします。
 加えて、子ども同士のリアルなコミュニケーションはもちろん大事です。そことの位置づけを明確にした上での活用が求められます。

「リアルな子ども同士の会話は、いわば伝わりやすい“子ども言葉”でもコミュニケーションが成立します。一方、AI『しまじろう』が返してくれるのは、大人も使うきちんとした言葉。きれいな言葉遣いの日本語を話せるようになる期待があります。子ども同士の楽しい会話と、AI『しまじろう』とのきちんとした会話は、どちらも同じくらい大事になると思います」(中山さん)

 昨年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が発表した教育・研究分野での生成AI利用に関する指針では、学校の授業では13歳以上に使用を制限するよう勧告。しかし、生成AIが社会のあらゆる場面で活用されていく流れは、この先さらに進んでいくでしょう。それは幼児教育の場でも例外ではありません。上手く活用すれば、子どもの早期教育や親子関係にもプラスになり、生活をより豊かにする可能性を秘めています。親は信頼できるサービスかどうかをしっかりと見極め、幼児教育でも生成AIを積極的に使うフェーズに入ってきたのかもしれません。

(文/武井保之)
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