「いつもなら甘えてくるのに…」ケガを隠す子どもの小さなサイン、“普段と違う”親の気づき
2021-10-30 eltha
「親は子どもの専門家」、“いつもと違う”ことで気づくSOS
明さんツアーナースとして同行中は、医療の知識とこれまで経験した症例をもとにアンテナを張り、小さなサインにも気付くよう心がけています。とはいえ初対面の私には、子どもたちの「いつもと違う」サインに気づくのは難しいんです。これは、子どもたちの「いつも」を知らないから仕方ないことですが、毎回もどかしく感じています。
──日頃とは違う様子を感じ取ることが必要なんですね。
明さん「いつもと違う」は、とても大切なサインです。本作で監修を努めてくださっている医師の坂本昌彦先生との会話で、「ご両親は子どもの専門家なんですよね」という言葉が印象に残っています。医師や看護師が大丈夫と思っても、ご家族から見ると「いつもと違う」と感じることはよくあります。毎日見ているからこそ気付ける変化があるんですね。そしてその気付きが、大きなきっかけになることもあります。
──そのサインの気付きから、異常が見つかった時のエピソードを教えてください。
明さん以前、「いつもと違って元気がない」と教えてくれた子が、熱中症になりかけていたことがありました。また、先生が「いつもなら甘えてくるのに、今日は来ない」と教えてくれた子が、ケガを隠していたことも。お友だちのお母さんが、「あの子、いつもよりボーッとしてない?」と気にかけた子が熱を出したということもありました。
──病気の知識がなくても、周囲の人が子どもたちをフォローすることで気付けることがあるんですね。
明さんはい。ですから、そうした“勘”を大切にしてほしいなと思います。それに、「いつもと違う」と気付くためには、比較できる「いつも」を知っていることが大切です。なので、身近に子どもがいるなら、一緒に遊んだり、勉強したり、おしゃべりしたりして、その子がどんな風に笑い、何に怒り、どんな時に泣いて、どんな時に楽しいかを知っていってほしいですね。その体験の積み重ねが、ある日の「いつもと違う」に繋がるのではないかと思います。
病気やケガの子を、大人が「こうすべき」という固定観念に縛られない
明さんまずは、できるだけ「〇〇だから〇〇すべき」という考えを持たないことです。たとえば、同じ発熱でも、感染症によるものと熱中症によるものでは、まったく意味が異なるし、対処法も違います。こうした固定観念には、できるだけ縛られないようにしています。
──かなりの慎重さが求められますね。
明さん私自身が何か思い違いをしていることがあるかもしれません。なので決めつけずに、「ほかの原因や症状がないか」「具合が悪くなっていないか」と観察しています。そして、「何か勘違いをしていないか」「こうであってほしいという願望を歪曲していないか」と常に自分を疑うこと。また、私だから子どもがサインを出してくれたのかもしれないと考えて、サインをすくいあげるようにしています。
──正しい判断をするために、大人が気を付けたいことですね。
明さん正解は結果が出ないとわからないので、とにかく決めつけたり、思い込んだりせずに、目の前にいる子をよく見て、話をよく聞いて、一生懸命考える。結局、それが一番なんじゃないかなと思って、日々努力しています。
ぎっくり腰や熱中症になる先生も…「同行して目の当たりにした」見守る大変さ
明さん宿泊行事中は、多くの先生が睡眠不足です。中には、ぎっくり腰や熱中症になる先生、子どもの看病をして感染症をもらってしまう先生もいました。そうなると、ただでさえ少なかった先生の数はさらに減ってしまいます。安全を確保するために必要な注意力も低下してしまいますし、何より、先生自身の大事な命が削られてしまうこともあります。
──「命を守る側こそ、体を大事にしてほしい」というメッセージが印象的でした。
明さん看護師になってからも、ツアーナースを始めてからも、リスクマネジメントを繰り返し学びました。ヒューマンエラーをなくすためには、健康第一。よく寝て、よく食べて、最大の能力を発揮できる状態を確保することが大切なんです。だから、みんなの安全を守るためにも、大事な命を守るためにも、無理をせずに最大のパフォーマンスができるようにすることが大切だと思います。
生と死がテーマの新連載で、「読者と一緒に悩み、答えを見つけられたら」
明さん第1話で描きましたが、私が生や死をしっかりと実感したのは、看護師になってからなんです。その後、たくさんの患者さんと関わる中で、生も死も何度も体験し、たくさんのことを考えました。そうしているうちに、「私はどう生きたいんだろう」「どう死にたいんだろう」「どんな風に死を看取りたいんだろう」と自分のことを考えるようになり、今のツアーナースや漫画家という職業に繋がっています。なので、『いのちの教室』は、『漫画家しながら〜』に至るまでのお話と言えるかもしれません。
──第1話のベテラン患者さんとのお別れのエピソードに心を打たれました。
明さんこの作品は、生や死について、考えるきっかけとなったさまざまなエピソードが登場します。その中で私は悩み、時には答えも出ずに終わることもあるかもしれません。それでも読者と一緒に、その体験をしたいなと思っています。そして、みんなで思いっきり悩んで、考えて、一人ひとりの答えを見つけられたらいいなと考えています。
(文/渡辺麻美)
『漫画家しながらツアーナースしています。現役ナース・先生・ママの“推し”セレクション』(Amazonサイト)
2021年6月4日発売
(著)明/集英社刊
現役漫画家にして、修学旅行や林間学校に同伴する看護師、通称「ツアーナース」である著者が見つめたこどもたちの姿。ほっこり泣けて役に立つ、ハートフル・コミックエッセイ第3集。今作では「ツアーナース」のストーリーに大きく関係する「全国の現役ナース・先生・ママ」が多数協力。過去2巻の未収録回より、彼女たちが感動・共感した“推し回"の意見も参考に、全16話をセレクション。
◆『漫画家しながらツアーナースしています。』試し読み&作品紹介はこちら『よみタイ』(外部サイト)