夫婦ケンカ中に夫が急死 後悔・怒り・悲しみを経て見えた5年目の境地「『死んでくれてありがとよー!』といつか言いたい」
2021-11-01 eltha
「彼が存在した事実を形に残したかった」漫画も描いたことのなかった作者がコミックエッセイに込めた想い
突然いなくなった夫への想いやその後の日々を綴ったコミックエッセイ『旦那が突然死にました。』(エムディエヌコーポレーション)には、死別育児の不安や現実、時に悲しみ、時に怒り、かと思えば楽観的になってみたりと“夫の死”と向き合うことで揺れ動くせせらぎさんの心情が率直に描かれている。
――本書を発売されて1年が経ち、さまざまな反響が寄せられていますが、どう感じていますか?
せせらぎ旦那が死んだとき、新しいパソコンへの移行作業をしている途中だった形跡が残っていて、生きていく気満々の状態で、突然パッと死んでしまったんだなと実感しました。それがもう本当にかわいそうで仕方なくて、彼が存在したという事実を絶対に形にして残そうって決めて、ただそこだけを目標にして深く考えずにここまで来てしまった感じです。絵にしたほうが多くの方に知ってもらえるのではないかと、漫画も初めて描いたんです。それだけ必死だった。だから、読んでくださった方から「勇気をもらった」とか「旦那との向き合い方が少し変わりました」といったコメントをもらったときは、それを総集できるものが作れたのかなと思いました。
――漫画にすることで、旦那さんの生きてきた証みたいなものを読者の方に知らせることができましたね。
せせらぎそれが一番うれしいですね。生きているときよりも認知されているかもしれない(笑)。この先どこに辿り着くのか、どんな見晴らしがあるのかはわからないけど、まだ山を登っている過程だと思っています。
突然すぎる夫の死 受け入れられず棺に書いた“ごめんなさいは?”「怒りのほうが強かった」

(C)せせらぎ『旦那が突然死にました。』より
せせらぎすべてでした。家族だし、旦那さんだし、子どもたちのお父さんだし、大好きな恋人でもあったし、仕事仲間であり師匠でもあったし、親友でもあったし…。すべてのカテゴリーをひとりで賄っている人でした。彼がいればそれだけでよかったし、彼と話している時間が今まで生きてきた人生の中で一番好きでした。
――著書では、ケンカをしたまま仲直りをせずに旅立ってしまった旦那さんの棺に、せせらぎさんが「ごめんなさいは?」と書いたという場面が印象的でした。
せせらぎそのときは怒りのほうが強かったんだと思います。ケンカをしていたことだけではなく、突然いなくなったことに対しても「は!?」という思いがあって。死別したことで感情の起伏が激しくなっていて、悲しみとか鬱状態とか反発とか色々あったんですけど、怒りがすごく大きくなっていたんでしょうね。怒っていたから「ごめんなさいは?」って書いたし、焼香も絶対しないって思っていました。

(左から)旦那さんのまーくんとせせらぎさん
せせらぎやっと本当にフラットになったという感覚です。先日、下の子の保育園でコロナが出て、上の子も一緒に一週間丸々どこにも行けないという状態になったときに、初めて何も追われることがない落ち着いた生活ができたんです。旦那が死んだばかりの頃は、ずっとつらい気持ちを抱えながら休まらない状態を続けていたけど、ここにきて初めて心から安らげて、今までは何かをしなきゃいけないという強迫観念に駆られていたけど、「何もしないでも生きていけるかもしれない」と思えるようになりました。
――旦那さんの死によって、せせらぎさんの“夫婦観”にはどのような変化がありましたか?
せせらぎいいところだけを見ておけばよかったと思いますね。嫌なところも目についちゃったしイライラもしたけど、失って初めて好きなところしか見えなくなって、あれもしてあげればよかった、これもしてあげればよかったみたいなことばかり考えるようになりました。後悔するのって、誰かに何かをしてもらえなかったということではなくて、自分がしてあげられなかったことなんだなって実感しました。相手がどうこうより、自分がどうしたいかだけを見ていけばよかったなって…。
「彼の死はとても悲しい出来事だったけど、人として成長できた大きなきっかけでもあった」
せせらぎ下の子はまだ1歳だったので、何も覚えてないしわかってもいなかったです。上の子は3歳だったので、多少は覚えているのかなという感じです。物事に対してあまり執着がない子なので、死んだと伝えたときも「ふぅん」みたいな様子でしたね。お父さんということはわかっているし、なんとなく死を認識はしているけれど、だからといってすごく悲しいとか、ワァーッと泣き出すみたいなことはなかったです。
――現在の様子は?
せせらぎ2人ともお父さんに対しては、 “いないお父さん”が「お父さん」として、ちゃんと2人の中にはいるみたいな感じですね。「お父さんは死んだ」ということを、何のかげりもなく2人とも受け入れています。
せせらぎ「お母さんはいつか恋をするからね」とは、子どもたちに言っています(笑)。なぜか日本だと、シングルマザーとか未亡人が新たな恋愛をすることが、ちょっといけないことのように見られてしまうケースが少なからずあるじゃないですか。それが嫌なので、「お母さんは恋をするし、恋は素敵なことだし、人を大切に想うというのは素晴らしいことなんだよ」って、今のうちから植えつけています。
――今、幸せですか?
せせらぎ人の幸か不幸かって、一片だけ切り取ると不幸な話かもしれなくても、違う見方をしたらすごく幸せな話の場合もあると思うんです。だから、彼が死んだことは悲しかったけど、それを不幸にするかどうかは、その出来事を受け取った私次第なんだと感じます。元に戻れたらって思ってしまうこともまだありますが、今のほうが幸せに生きていると思えます。彼の死はとても悲しい出来事でしたけど、人として成長できた大きなきっかけでもありました。「死んでくれてありがとよー!」って、いつか大声で言えるくらいまでにいかなきゃなって思うし、いけるとも思うんですよね。
――最後に、自身の体験を通して読者に伝えたいことは何ですか?
せせらぎ自分の人生は自分のためだけのものだから、本当に自分を愛して大切に生きてほしいです。限りある人生の中で出会えた、自分が好きだと思える物・事・人は本当に奇跡のめぐり会いだと思うので、大事に噛みしめていってください。自分を大切にして、自分勝手に生きてほしいです!

「『死んでくれてありがとよー!』って、いつか大声で言えるくらいまでにいかなきゃなって思うし、いけるとも思うんですよね」