
“丸の内OL”の象徴だった「事務服」はこのまま絶滅するのか? 通勤着の削減メリットへの再評価の声も
2023-11-16 eltha

大阪万博をきっかけにバリエーションも多岐に…事務服が“憧れの対象”となり就職理由にも
「女性が、洋服や私物のブラウスを汚さないために開発されたのが“うわっぱり”と呼ばれるスモックです。当初は男性と同じような作業服を着ていましたが、その女性版という形で開発されました。派手さはなくシンプルなデザインで、当時多かった女性の事務仕事や内職の際に着用されていました」(新事業開発チーム・下北裕樹さん)
同時に、女性の仕事自体も変化。それまでは事務や作業などバックヤードでの仕事が多く見られましたが、徐々に表に立つ業務も増えてくるようになりました。80年代には、ジャケットやベストといったデザインが主流になり、「あの制服が着たいから」という理由で就職を希望するなど、事務服は“憧れの対象”へと変化していきました。
「バブル期は各企業も余裕があり、福利厚生の一環として制服を貸与する流れが一般的でした。制服を3年ごとに変えたり、かわいい制服にすることでより多くの事務員さんに来てもらおうという企業も多く、事務服もブランドとコラボレーションするなど高級化が進みました」(企画室・山口淳さん)
「例えば、銀行の方が事務服を着ていないと、窓口に着たお客様は、『本当に銀行の人なのだろうか?』という不安が生まれます。事務服がお客様からの“信頼感”や“安心感”につながることに加え、働く側の帰属意識が生まれることからも、事務服の存在意義が再認識されるきっかけになりました」(下北さん)
また、人気ドラマなどメディアの影響で、事務服が注目されるケースも。1998年に第1シーズンが放送されたドラマ『ショムニ』では、白いブラウスにブルーのベスト&ミニスカートの制服が象徴的に描かれ、“OL”を分かりやすく表すシンボルとなりました。
リーマン・ショック時はシックな装い、近年はLGBTQの観点からパンツスタイルも…時世を象徴してきた女性用事務服
「毎日8時間以上着用するので、長期間の着用と洗濯に耐えられる生地や縫製が必要です。また、採用いただくと数年間着用されるので、同じものを供給し続けることも求められます。そのため、一般アパレルよりも色や形が流行に大きく左右されにくい、ロングトレンドのものを採用していて、中には20年近くも出続けているデザインもあります」(下北さん)
2008年のリーマン・ショック以降は、モノトーンのチェック柄、ストライプやグレー、ブラックの無地など、シックな装いがトレンドに。2018年頃からは、接客を伴う“おもてなし市場”の増加により、はっきりとした配色の華やかな柄のアイテムやワンピース、大きめのリボンなどが多く見られるようになりました。さらに最近では、学生服と同様LGBTQの観点から多様化も進んでいます。スカートだけでなくパンツなど、現代社会の流れに合わせたデザインが取り入れられています。
首都圏や地方ではいまだ事務服の需要あり、通勤着にお金をかけないメリットへの再評価も?
しかし、銀行や病院の受付、接客サービスなど、“その企業の人は誰なのか”が明確に分かる必要のある職場では、アイコンとして変わらず事務服を着用しているケースが多く見られます。
「都心では減りましたが、首都圏や地方など、従来のお客様からは引き続きお声をいただき、事務服を着ていただいております。制服のまま車で通勤され、帰りにそのままお買い物をされて帰宅される方も多く、日常的にそういう光景が見られる場所もあります。そのため、帰宅途中のスーパーなど、街に溶け込むようなデザインの製品もお作りしています」(山口さん)
時代の流れやニーズに合わせて、制服の機能性も進化しています。胸ポケットには、ネームタグをつけやすい工夫があったり、ペンを入れた時にインク漏れしても滲まない加工処理も。スマホを入れやすいようにポケットが二重になっており、印鑑をしまえるように、ポケットの中にポケットがあるデザインも開発されています。
「絶えず新しい価値を生み出すことは意識して、開発をしています。万年筆からタブレットPCに変わったことで、電磁波を受けないような事務服を開発したり、時代のニーズに合ったものを提案している状況です。これからも変遷を重ねていけるように、知恵を絞っていきたいと思っています」(下北さん)
メディカルウェアが両翼に 日本の文化として「これからも事務服を作り続ける」
「例えば病院でも、受付の方は事務服、看護師さん、理学療法士さんとユニフォームがデザインやカラーで分かれていることで、患者さんが誰に声をかけたらいいのか分かりやすいというメリットが活かされていると思います。今後も、事務服とメディカルウェアという両翼で、さらなる提案を続けていきたいと考えています」(下北さん)
企業の制服廃止の流れ、日本の人口の減少に伴い、今後の需要は期待しづらい市場環境。しかし、長年にわたり事務服を作り続けてきた同社は、社会には必ず、制服というものに対する意味や役割はあると力強く語ります。
「今後、需要が増加することは難しいと思いますが、事務服には事務服のよさが、アパレルにはアパレルのよさがあるので、我々はこれからも変わらず、事務服を作り続けていきたいと思っています。メディカルウェアも含め、常に次の仕掛けや調査をしながら、新たな価値を生み出していきたいですね」(山口さん)