【臨床心理士が解説】「食欲の秋」に落とし穴? メンタルの不調、ストレス、冬季うつ病が関係している場合も
2023-11-24 eltha
ストレス反応として食欲が旺盛に、秋から冬は要注意
町田先生 一つには、季節的にストレス対処能力が一時的に弱まってしまうことによる、ストレス反応として食欲が旺盛になるということがあります。夏から秋にかけ季節が変わると、日照時間が短くなります。人は太陽にあたるとセロトニンという幸せホルモンの分泌が促されます。セロトニンは喜びを感じさせたり、恐怖や驚きと行ったネガティブな情報をコントロールし、メンタルを安定させる働きがあります。日照時間が短くなることでこのセロトニンの分泌が自然と減少し、ネガティブな感情からの影響を受けやすくなり、ストレス対処能力が一時的に弱まっていると言えるのです。そのため、イライラしたり悲しいことがあったりすると、手軽に甘いものを欲したり、食べてストレスを解消しよう!と食欲が旺盛になると考えられます。
例えば、冬季うつ病と呼ばれる季節性感情障害(Seasonal Affective Disorder:SDA)という精神疾患があります。同様のメカニズムで、秋から冬にかけてのみ数年間繰り返し現れることがあります。食欲がコントロールできずつい食べ過ぎてしまう、寝すぎる、体重増加などの症状があれば、一度精神科や心療内科へ行ってみられることをおすすめします。
Q.一般的なうつ病とは違うのでしょうか。
町田先生 うつ病では基本的に食欲が減るという症状が現れるので、やや異なります。しかし、うつ病の中でも双極性障害と呼ばれる、うつ状態と躁(そう)状態が繰り返し現れる疾患の場合は、躁状態の時に食欲が増進して食べ過ぎてしまうこともあります。この状態の時には衝動性が非常に高くなり、長期的な目線を持たず目の前のストレスを解消するためについ食べ過ぎてしまうのです。ただし、うつ病では食欲が減りますが、うつ病になる手前の強いストレスを受けている状態の際につい食べ過ぎてしまうことが現れることもあるので、注意が必要です。
Q.秋はとくに、ストレスを含めこうしたメンタル面が不安定になりやすい時期なのでしょうか。
町田先生 先に挙げた日照時間の問題もありますが、他にも夏の疲れが一気に出てきてしまっている影響も考えられます。夏は長い休みもあり、様々なアクティビティを経験することが多いでしょう。加えて、暑さや強い日差しで、身体は相当に疲労を蓄積させています。それが、暑さの落ち着いてきた秋にドンっとやってきてしまうことで、身体的な疲労からメンタルが不安定になりやすいと考えられます。
「人の分まで気づかず食べてしまった…」、“食欲の秋”では済まないサイン
町田先生 食べたいと思っていないのに食べずにはいられない。気づいたらすごく食べていた、人の分まで気づかず食べてしまっていた…など、自分ではコントロールできていないというのが一つのサインになります。他にも、頭痛や腹痛といった身体的な変化はないか、夜眠れない、夜中に何度も目がさめる、朝起きにくい、なんだかイライラしてしまう、といったこともメンタル不調のサインとなります。自分ではわからないという方は、睡眠時間がどのくらい取れているか、休日が少なくないか、連勤が続いていないか、残業時間がどのくらいか、1日の中で自分が自由に使える時間は何時間あるか…などの具体的な数字をサインとして出していただくこともおすすめです。
Q.メンタル不調において、自分でできる対策は?
町田先生 最も簡単なものは、寝ること。とにかく睡眠の量を確保することが大切です。ストレス発散のために家で映画を見たりゲームをしたりするのも良いですが、その時間を睡眠にあて、1日7時間半〜8時間半の睡眠時間をしっかりと確保することがストレス対策にとって最も効果的です。睡眠不足になるだけで、1日数百キロカロリー多く摂り過ぎてしまっているという研究もあります。食欲コントロールの意味でも、やはり一番はしっかりと睡眠時間を確保して脳と身体をしっかりと休めることだと言えます。
町田先生 そういう方は、まずはSNSから距離をとることもおすすめです。最近の多くの研究ではSNSがメンタル不調に大きな影響を与えることが明らかになっていますし、SNSには知らないうちに時間を浪費させてしまう仕組みが備わっています。SNSから距離をとることは大きなストレス対策になります。
また、困った時は人に頼っても良いという心の持ちようも大切。あなたを助ける社会システム、助けたいと思っている人は世の中にたくさん存在しています。一人で抱えず、周りに助けを求めてください。私たち臨床心理士や公認心理師も「困っている」「助けて」と言っていただいて初めて具体的に関わりを持つことができます。皆さんの声を待っています。
Q.最後に、先生からメッセージをお願いします。
町田先生 現代を生きる人は、仕事にプライベートに非常に忙しい日々を送らざるをえない状況にあるでしょう。その中で、やりたいことを見つけていくことも非常に素晴らしいことですが、「何をやらないか」という取捨選択をしていくことも大切です。
特に女性は季節の影響だけでなく、10代、20〜30代、40〜50代、60代〜と、それぞれの年代でホルモンバランスに影響を受けます。ライフスタイルも年代によって大きく変わりますし、まさに人生を通して揺らぎを受け続けているのが女性です。つらさもありますが、それを乗り越えることができる力を持っているのもまた、女性なのです。この複雑な現代、私たちが持つ本来の力を発揮するためのコツ、自分ならではのストレス解消方法を見つけて、日々を快適に、笑顔で過ごせるよう一緒に乗り越えていきましょう。
監修者 臨床心理士・町田奈穂
同志社大学大学院在学時より、睡眠障害や発達障害に苦しむ人々への支援や研究活動を行う。修了後は学校やクリニックを経て、大阪カウンセリングセンターBellflowerを設立。現在は、臨床・研究活動に加え、インクルーシブな職場づくりをサポートする人事コンサルタントとしての活動している。
■大阪カウンセリングセンターBellflower
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